「リフト&シフト」のクラウド移行がもたらす“想定外”のリスクとはクラウドサービス導入で起こりがちな失敗と対処法【中編】

オンプレミスのシステムをそのままクラウドサービスに移す「リフト&シフト」は、想定外の課題を生むことがある。それは何なのか。リフト&シフトを選択した企業が考慮すべき注意点を説明する。

2022年02月15日 05時00分 公開
[Esther SheinTechTarget]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で、すぐに導入でき、オンデマンドで利用できるクラウドサービスの需要が高まった。2020年はユーザー企業の間で、複数のクラウドサービスを組み合わせる「マルチクラウド」の採用が急速に進んだ年だった。急いでクラウドサービスを採用した企業では、マルチクラウド化による運用管理の複雑化やコストの増大といった課題が顕在化しつつある。前編「運用管理軽視の“ばらばらなクラウド導入”が起こす困った事態とは」に続く本稿は、クラウドサービスへのデータ移行時の注意点を説明する。

 クラウドインテグレーターのRackspace US(Rackspace Technologyの名称で事業展開)でチーフテクノロジーエバンジェリストを務めるジェ・デバーター氏は「ユーザー企業にとってクラウドサービス移行における最大の失敗は、データの管理方法をあまり考慮せずにデータをクラウドサービスに移行させることだ」と考える。こうした失敗は、従来のオンプレミスシステムをそのままクラウドサービスに移行させる「リフト&シフト」方式での移行時に起こりがちだとデバーター氏は指摘する。

「リフト&シフト」が招く“想定外”の課題とは?

会員登録(無料)が必要です

 例えば企業が、オンプレミスインフラで稼働するMicrosoftのデータベース管理システム(DBMS)「SQL Server」をクラウドサービスに移行させても、それは「クラウドサービスに配置されたSQL Server」になるだけだ。この場合、ベンダーがクラウドサービス向けに設計した新機能を、ユーザー企業が最大限に活用しにくくなるとデバーター氏は説明する。クラウドサービス移行のメリットを最大限に得るためには、選択したクラウドサービスに適したDBMSと、データの再構築が必要になる。

 クラウドインテグレーターの1901 Groupで事業拡大担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるポール・ウィルキンソン氏も同じ意見だ。ユーザー企業がリフト&シフト方式を採用するときは、アプリケーションの効率化やビジネスプロセスの調和を検討しない傾向にあるとウィルキンソン氏は話す。

 リフト&シフト方式を採用すると、時にサーバの過剰なプロビジョニング(配備)を招くことがある。オンプレミスのデータセンターで400台のサーバを使用していたら、リフト&シフト方式ではクラウドサービスでも400台のサーバをプロビジョニングすることになるとウィルキンソン氏は指摘する。

 ユーザー企業は、クラウドサービスの拡張性のメリットを見落としがちだという。ここでの拡張性とは、コンピューティングリソースやストレージリソースの規模を必要に応じて拡張縮小できることだ。こうした拡張性は「ユーザー企業にとって新しいメリットであり、生かされていない場合がある」とウィルキンソン氏は述べる。

 2021年に入り、マルチクラウドの効率的な運用管理方法に注目が集まり始めたとデバーター氏は話す。「どのクラウドサービスを使うにしても、ユーザー企業は使用する全資産の監視やセキュリティ対策、チケット発行、バックアップ、復元などの作業を自社で実施できるようにしておく必要がある」(同氏)

 クラウドサービスを1つしか利用しないのなら、運用管理インタフェースが1つになるため、運用管理は容易だ。「複数のクラウドサービスを使うときは、複数の運用管理インタフェースを扱うことになる」とウィルキンソン氏は語る。

 デバーター氏が挙げるもう一つの課題は、ID・アクセス管理システムの設計だ。「クラウドサービスを導入すると、自社のリソースにアクセスする方法が一変する」とウィルキンソン氏は述べる。従来なら、従業員はファイアウォールを介してオンプレミスのネットワークにアクセスしていた。マルチクラウドの場合、初期設定のままでは一括アクセスする方法が存在しないと同氏は語る。そのためユーザー企業は、シングルサインオン(SSO)などの認証手法を用いて、ログインの課題を解決する必要がある。


 後編は、クラウドサービスの運用管理を取り巻く2022年のトレンドを説明する。

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

技術文書・技術解説 ドキュサイン・ジャパン株式会社

導入が進む一方で不安も、電子署名は「契約の証拠」になる?

契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VMware「永久ライセンス」を継続する“非公認”の方法

半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

無計画なハイブリッドクラウドが招く弊害、次世代のITインフラでどう解消する?

クラウドファーストの流れが加速する中、無計画に構築されたハイブリッドクラウドの弊害が多くの企業を悩ませている。ITオペレーションの最適化を図るためには、次世代のハイブリッドクラウドへのモダン化を進めることが有効だ。

市場調査・トレンド 日本ヒューレット・パッカード合同会社

ハイブリッドクラウド環境におけるワークロードの配置を最適化する方法とは?

ワークロードを最適な環境に配置できる手法として注目され、多くの企業が採用しているハイブリッドクラウド。しかし、パフォーマンス、法令順守、コストなどが課題となり、ハイブリッドクラウド環境の最適化を難しくしている。

市場調査・トレンド 株式会社QTnet

業種別の利用状況から考察、日本企業に適したクラウドサービスの要件とは?

システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。