聖徳学園は生徒や保護者との情報共有に「Talknote」を採用している。保護者にTalknoteをはじめとするITツールを使ってもらうためにした工夫と、生徒が安全にITツールを利用できるようにするための秘策は。
授業にAppleのタブレット「iPad」を採用し、教育へ積極的にITを活用する私立中高一貫校の聖徳学園中学・高等学校(東京都武蔵野市)。iPadを導入した2015年には教職員と生徒にTalknoteの同名コミュニケーションサービスを導入し、対面や紙のプリントに代わる情報共有手段として利用している。
2017年には保護者と教職員間のコミュニケーションにもTalknoteを導入した。保護者にTalknoteのライセンスを購入してもらい、私物端末にモバイルアプリケーションをインストールしてもらう形で利用している。その結果、教職員は保護者宛ての行事や年間スケジュールなどの告知、クラスの生徒の様子を伝える「学級通信」の配信がオンラインでできるようになった。
前編「教職員と生徒間の連絡に『Talknote』を利用 聖徳学園が“国産”にこだわった理由」と中編「聖徳学園が校内SNSで解消 紙連絡の『読まれているかどうか分からない』問題」に続き、本稿は同校でITシステムの導入や管理を担当する横濱友一氏(最高情報セキュリティ責任者)と鶴岡 裕一郎氏(情報システムセンター長)の話を基に、同校のTalknote活用事例を紹介する。今回取り上げるのは、同校が保護者にTalknoteを利用してもらうために実施している施策や、学内のユーザーが安全にITツールを利用できるようにするための工夫だ。
生徒や保護者がTalknoteを利用する際に、聖徳学園はアカウントごとに特定の機能の利用権限を細かく制御している。例えば
といったトラブル防止のための設定を加えている。
聖徳学園はTalknoteをはじめとしたITツールを保護者に普及させるために、きめ細かい支援を続けている。「保護者の方々には日頃から『不明点があったらいつでも学校に連絡してください』と伝えています」と横濱氏は説明する。加えて保護者会や文化祭などで多数の保護者が来校する際は、同校の生徒と保護者が使うITツールの「相談窓口」を校内に設け、ITツールの操作方法や不明点を対面で相談しやすい環境を整えている。
教室に設置する電子黒板や通信回線、PCなど、全員が利用するITインフラは学校の予算から捻出する一方で、TalknoteやiPadなど「生徒と保護者自身が利用するITツール」のコストは保護者が負担する。「保護者にメリットをしっかり伝えることで、納得いただけるようにしています」と横濱氏は説明する。
聖徳学園は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、2020年4月にオンライン教育の体制へ移行した。授業はZoom Video CommunicationsのWeb会議ツール「Zoom」、生徒への教材の共有にはGoogleのファイル同期サービス「Google Drive」とTalknoteを利用したことで、短期間でスムーズに移行できたという。
Talknote社はAmazon Web Services(AWS)の複数リージョン(データセンター)を利用してTalknoteのシステムを冗長化することで、システム停止のリスクを抑えている。COVID-19拡大時のWebサービスへの世界的なアクセス増大を受け、校内で利用する幾つかの学習用サービスが一時的にシステム停止した時にも、Talknoteのシステムは持続していたため「役に立った」と横濱氏は振り返る。
2022年3月にTalknote社が追加した複数アカウントの切り替え機能は、横濱氏がTalknoteの改善要望として挙げていた機能だ。保護者の中には職場でTalknoteを使用している人や、学校で利用したのをきっかけに勤務先に導入した人もいる。Talknoteで別々のアカウントにログインするには、一方のアカウントからログアウトする必要があった。「同時ログインが可能になればさらに使いやすくなるでしょう」(横濱氏)
コミュニケーションツールは気軽なコミュニケーションを促進にする一方で、時間や場所を問わずに連絡が頻繁に届くことがかえってユーザーの負担となる場合がある。聖徳学園は8時から19時までの間をTalknoteの連絡可能時間として定めている。それ以外の時間帯は緊急連絡を除き利用禁止とすることで、教職員の「働き過ぎ」を防止している。むしろ情報伝達が効率化されたことで、教職員の残業時間が減少傾向にあると鶴岡氏は話す。Talknoteの導入前は23時まで職員室に教職員が残ることが常態化していたが、「現在では定時にほぼ全員が帰宅するようになりました」と鶴岡氏は説明する。
教育機関におけるコミュニケーションツールの導入が、生徒間のいじめを助長するのではないかとの声がある。「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を使ったいじめが起きたとしても、それはサービスそのものが原因ではありません」と横濱氏は語る。生徒のSNS利用を止めさせたからといって、人間関係の問題がなくなるわけではないからだ。TalknoteをはじめとしたITツールを生徒が安全に利用できるようにするために、聖徳学園は心の教育やコミュニケーション能力の育成を重視しているという。
聖徳学園は中学校に「STEAM」(Science<科学>、Technology<技術>、Engineering<工学・ものづくり>、Art<芸術・リベラルアーツ>、Mathematics<数学>の5つを統合した教育)、高校に「SDGs」(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)という科目を設けている。これらは一般的な情報科の内容やプログラミングなどに加え、プレゼンテーションやグループワークを通してコミュニケーションの取り方を学ぶカリキュラムとなっている。
校内SNSとして日常的にTalknoteを使うこと自体も、生徒の学習機会になっているという。「SNSへの投稿が全世界に発信されているという自覚がまだ足りない生徒もいます」と鶴岡氏は明かす。こうした生徒には、まずは校内SNSでクラスメートや部活動の仲間、全校生徒に向けて発信してもらうことで、自分の発言が人々に与える影響を理解してもらう。そうすれば「校外でSNSを利用するときのふるまいも変わると考えています」と同氏は語る。
「学校はモノの価値に気付くための最初の場所であってほしいと思います」と鶴岡氏は続ける。生徒がITの価値に気付き、活用できるようにするには「『IT教育』とわざわざ銘打つのではなく、課題解決のためのツールとして日常的に学校で利用可能にすることが必要」だと横濱氏は考えている。「アナログかデジタルかを問わず、生徒が自分に合った最適な方法で課題を解決できるようになるのが理想です」(同氏)
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