「Web会議はアイデアを殺す」は本当か? 対面会議は常に“正解”か?Web会議は創造性を損ねるのか【後編】

科学誌『Nature』が掲載したある論文は、Web会議は対面会議と比べて新しいアイデアを創造しにくいと指摘する。ただし論文著者は「結論を出すのは慎重になるべきだ」と説く。専門家の見解は。

2022年06月10日 08時15分 公開
[Mike GleasonTechTarget]

関連キーワード

Web会議 | 在宅勤務


 科学誌『Nature』が2022年4月に発表した論文「Virtual communication curbs creative idea generation」は、Web会議は対面会議に比べて創造性が減退する可能性を示した。ITの専門家も、Web会議が創造性に及ぼす影響を目の当たりにしている。

「Web会議はクリエイティブじゃない」に専門家は賛否両論

会員登録(無料)が必要です

 Web会議用デバイスや聴覚障害者向け電話リレーサービスを提供するSorenson CommunicationsのCIO(最高情報責任者)ニール・ニコライセン氏は「Web会議の出席者は全体像を見落としがちだ」と語る。「オンラインツールだと、会議の全体図やメモを一目で見ることができない」とニコライセン氏は指摘。部分や断片を除いて全体像を見ることはできず、関心のある部分にたどり着くまで画面をスクロールしなければならないと説明する。

 「対面会議なら、Web会議だと欠落するニュアンスを受け取れる」と話すのは、金融機関United Bankのメッセージング&コラボレーションスペシャリスト、ウィレム・バッカス氏だ。遠隔会議では手元のPC操作に気を取られやすいのに対し、対面会議では極論すればPC操作は要らない。「実体のある、人との生のふれあいに代わるものはない」とバッカス氏は言い切る。「技術は大きく進化しているものの、リアルな実体に取って代われるものは何もない」(バッカス氏)

 Web会議で創造性が低下することはないという意見もある。米国カリフォルニア州コロナ市のCIOを務めるクリス・マクマスターズ氏によると、同市の職員はテレワークであってもイノベーションを起こし続けてきた。例えばコロナ市は2021年に、市民が利用しやすいようクラウドサービスに移行した行政サービスが評価され、調査機関Center for Digital Governmentの主催する「Digital Cities Survey 2021」で表彰された。

 Natureの研究結果はテレワーク推進派にとっては不利に見える。だが「全面的な結論を出すことには慎重になる必要がある」と、論文の共著者でマーケティングを専門とするColumbia University(コロンビア大学)教授のメラニー・ブルックス氏は言う。論文で検証したのはWeb会議が人の認識に与える影響のみであり、それ以外のWeb会議のメリットについては比較検討していない。

 例えばWeb会議を利用すれば、従業員がオフィスの近くに住む必要はなくなり、企業はもっと広い地域から人材を採用できる。人材採用の範囲が広がれば、さらにクリエイティブな人材を採用できる可能性がある。テレワークが認められている従業員は「会社に支えられている感覚が強くなり、それによって創造力もかき立てられる」とブルックス氏は考えており、「今回の研究は、創造性を発揮するためには対面で会わなければならないと言っているわけではない」と言い添える。

 ブルックス氏によると、企業は従業員がオフィスに戻ることを強要するよりも、従業員のスケジュールを戦略的に組む必要がある。管理職は従業員が出勤している時にブレーンストーミング会議の予定を入れ、強い集中力が求められる業務に関してはテレワークのスケジュールを組むのが望ましいと考えられる。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 双日テックイノベーション株式会社

従来の電話の在り方を見直し、働き方の多様化に柔軟に対応する方法とは?

さまざまなWebシステムが使われるようになった今も、電話はやはりビジネスに不可欠なツールである。とはいえ働き方改革やDXを受け、企業における電話の在り方も大きく変わってきた。そこにフィットするソリューションがクラウドPBXだ。

製品資料 オリックス株式会社

DXで成果を挙げるための第一歩、ペーパーレス化のメリットと正しい進め方とは?

日本企業のDX戦略が遅れている要因の1つに、“守りのIT”にリソースを割かれ、“攻めのIT”に着手できていないことがある。この状況を打破するための第一歩として考えたい“ペーパーレス化”のメリットや、正しい進め方を解説する。

製品資料 株式会社スタディスト

「そのマニュアル、本当に見られている?」 活用されるマニュアルのポイント

業務マニュアルは使われて初めてその効果を発揮するが、そもそも見られていないことから、業務課題を一向に解決できないという企業は多い。“活用されるマニュアル”を作成・共有するには、どんなポイントを押さえるべきか。

製品資料 株式会社スタディスト

現場で使われないマニュアルと決別、活用されるために必要なコツとは

マニュアル作成において、90%以上の組織がビジネスソフトを利用しているが、それでは活用されるマニュアルへのハードルは高い。きちんと現場に使われるマニュアルにするために、ノウハウを把握しておきたい。

製品資料 株式会社スタディスト

DXの推進を阻む「移行コスト」を解消し、新規ツールを浸透させるには?

あらゆる業界でDXの取り組みが加速する一方で、成功を実感している企業は1割にも満たないという。最大の障壁となる「移行コスト」を解消し、新規ツールを「誰にでも使える」状態にするための方法を探る。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...