科学誌『Nature』が掲載したある論文は、Web会議は対面会議と比べて新しいアイデアを創造しにくいと指摘する。ただし論文著者は「結論を出すのは慎重になるべきだ」と説く。専門家の見解は。
科学誌『Nature』が2022年4月に発表した論文「Virtual communication curbs creative idea generation」は、Web会議は対面会議に比べて創造性が減退する可能性を示した。ITの専門家も、Web会議が創造性に及ぼす影響を目の当たりにしている。
Web会議用デバイスや聴覚障害者向け電話リレーサービスを提供するSorenson CommunicationsのCIO(最高情報責任者)ニール・ニコライセン氏は「Web会議の出席者は全体像を見落としがちだ」と語る。「オンラインツールだと、会議の全体図やメモを一目で見ることができない」とニコライセン氏は指摘。部分や断片を除いて全体像を見ることはできず、関心のある部分にたどり着くまで画面をスクロールしなければならないと説明する。
「対面会議なら、Web会議だと欠落するニュアンスを受け取れる」と話すのは、金融機関United Bankのメッセージング&コラボレーションスペシャリスト、ウィレム・バッカス氏だ。遠隔会議では手元のPC操作に気を取られやすいのに対し、対面会議では極論すればPC操作は要らない。「実体のある、人との生のふれあいに代わるものはない」とバッカス氏は言い切る。「技術は大きく進化しているものの、リアルな実体に取って代われるものは何もない」(バッカス氏)
Web会議で創造性が低下することはないという意見もある。米国カリフォルニア州コロナ市のCIOを務めるクリス・マクマスターズ氏によると、同市の職員はテレワークであってもイノベーションを起こし続けてきた。例えばコロナ市は2021年に、市民が利用しやすいようクラウドサービスに移行した行政サービスが評価され、調査機関Center for Digital Governmentの主催する「Digital Cities Survey 2021」で表彰された。
Natureの研究結果はテレワーク推進派にとっては不利に見える。だが「全面的な結論を出すことには慎重になる必要がある」と、論文の共著者でマーケティングを専門とするColumbia University(コロンビア大学)教授のメラニー・ブルックス氏は言う。論文で検証したのはWeb会議が人の認識に与える影響のみであり、それ以外のWeb会議のメリットについては比較検討していない。
例えばWeb会議を利用すれば、従業員がオフィスの近くに住む必要はなくなり、企業はもっと広い地域から人材を採用できる。人材採用の範囲が広がれば、さらにクリエイティブな人材を採用できる可能性がある。テレワークが認められている従業員は「会社に支えられている感覚が強くなり、それによって創造力もかき立てられる」とブルックス氏は考えており、「今回の研究は、創造性を発揮するためには対面で会わなければならないと言っているわけではない」と言い添える。
ブルックス氏によると、企業は従業員がオフィスに戻ることを強要するよりも、従業員のスケジュールを戦略的に組む必要がある。管理職は従業員が出勤している時にブレーンストーミング会議の予定を入れ、強い集中力が求められる業務に関してはテレワークのスケジュールを組むのが望ましいと考えられる。
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