米国では従業員が「クワイエットクイッティング」を選ぶ動きが広がっているという。クワイエットクイッティングとは何なのか。拡大の背景にある問題は何か。
米国では雇用市場が活況で、米国の労働者は失業を恐れなくなりつつある。この状況が今後も続けば「クワイエットクイッティング」(静かな退職)が定着する可能性がある、と専門家は指摘する。これはどのような現象なのか。
調査会社Gartnerによると、クワイエットクイッティングとは
を表す。
Gartner人材分野担当リサーチ責任者のブライアン・クロップ氏は「クワイエットクイッティングという言葉自体は新しいが、そのような退職の仕方は以前からあった」と説明する。以前は、クワイエットクイッティングをする従業員はごく一部で、そうした従業員が生まれる企業も限られていた。だが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)以来、クワイエットクイッティングが広がりを見せるようになり、今では「一つの社会的風潮の様相を呈している」とクロップ氏は指摘する。
ユタ州立大学(Utah State University)経営学准教授ティム・ガードナー氏は「以前は企業と従業員の力関係において企業が優位にあることが多かった」と話す。従業員は現在の職場で働き続ける方が転職先を探すよりも得だと判断し、仕事で成果を上げて昇進を目指そうというモチベーションを持っていた。
状況は変わった。米国労働省労働統計局のデータによれば、2022年8月における米国の求人は1000万件以上ある。ガードナー氏は「近代の歴史において、人々がこれほど失業を恐れていない時代はなかった」と話す。「ほとんどの人が『何かあったら別の仕事を探せばいい』と考えている可能性がある」(同氏)
こうした労働者の変化は「企業の従業員管理体制を混乱させる」とガードナー氏は語る。Gartnerのクロップ氏は、労働需要の増加に加え、パンデミックによって人々が生活における仕事の重要度を再考するようになったと考えている。「子どもと過ごす時間を犠牲にしてまで会社のために働く必要があるのだろうか」と同氏は問いかける。
従業員の間には「この数年、会社の収益増加の分配を受けていない」という失望や、「インフレに見合った賃上げがない」という不満がある。「従業員に恩恵があまり還元されていない」とクロップ氏は指摘する。インフレで不利な状況に立たされている従業員は「自分のことを考えてくれない会社のためにどうして全力で働く必要があるのか、と不満を感じている」と同氏は話す。
後編は、従業員の離職兆候の具体例とクワイエットクイッティングとの関係性について、専門家に聞く。
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