ナレッジワーカーが目にした衝撃の事実 「AIが仕事を奪う」は本当だった?AIを味方に付けるための視点【前編】

人工知能(AI)技術の台頭は、人の仕事にどのような影響を及ぼすのか。AI技術は人の仕事を奪うだけの存在なのか、別の可能性も秘めているのか。現実には何が起きているのか、情報を整理する。

2023年10月27日 08時00分 公開
[Ben LutkevichTechTarget]

 人工知能(AI)技術でテキストや画像などを自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)の登場に対して、不安を感じる人もいれば、楽観視する人もいる。AI技術の台頭は、人の雇用にどのような影響を与えるのか。AI技術は本当に人の仕事を奪い、雇用を減らしてしまうのか。実例を踏まえてその実態を見てみよう。

 コンサルティング会社McKinsey & Company(以下、McKinsey)は、2023年6月に生成AIと人の業務との関係について分析したレポート「The economic potential of generative AI」を公開した。同レポートによれば、生成AIは人が担う業務の60〜70%を自動化する可能性がある。

 再就職支援サービスを手掛けるChallenger, Gray & Christmasも、2023年6月にAI技術と人の仕事に関するレポートを公開した。これによると、調査対象の米国企業が2023年5月に実施した人員削減約8万件のうち、約3900件の理由がAI技術に関連していた。

ナレッジワーカーが目にした“驚愕の事実”

 人の業務をAI技術が代替する事例の一つとして、あるIT系スタートアップ(創業間もない企業)に所属するコピーライターが、説明なく解雇された件を挙げることができる。

 オリビア・リプキン氏というこのコピーライターは、職場のコミュニケーションツールである「Slack」で、あるメッセージを目撃したのだという。具体的には、マネジャーたちが「オリビア、もしくはChatGPT」と言及しているのを見つけた。AIベンダーOpenAIが提供するAIチャットbot(AI技術を活用したチャットbot)の「ChatGPT」を利用した方が、コピーライターを雇うよりも安上がりという主旨のメッセージもあったという。リプキン氏は解雇についての具体的な説明を受けなかったが、リプキン氏が目撃したメッセージからは、解雇の理由がAI技術だったことが分かる。

 東部全米脚本家組合(Writers Guild of America, East)と西部全米脚本家組合(Writers Guild of America, West)が組織する全米脚本家組合(Writers Guild of America)は、2023年5月2日(現地時間)にストライキを開始した。賃上げと動画配信サービスからの報酬増を要求するとともに、業務でAI技術を使用することへの規制を求めることが目的だ。

 ノースカロライナ大学チャペルヒル校(The University of North Carolina at Chapel Hill)のビジネススクールUNC Kenan-Flagler Business Schoolの傘下にある研究機関Frank Hawkins Kenan Institute of Private Enterpriseは、2023年4月に「Will Generative AI Disproportionately Affect the Jobs of Women?」というタイトルのレポートを発表した。同レポートは、生成AIと性差をテーマとしている。レポートによると、米国企業で働く従業員のうち、約80%の女性がAI技術の影響を受けやすい業務に従事している一方で、男性では58%だったという。

 “仕事が奪われる”という不安を想起させた自動化技術は、退屈な反復作業を人の代わりに実施するだけで終わった。生成AIは、執筆やコーディング、音楽制作といった創造的な作業を自動化するという点で、AI技術を伴わない自動化技術とは役割が異なる。

AIが人の仕事に与える影響

 AI技術が人の仕事に与える影響は、マイナスの側面ばかりではない。肯定的な側面として、人とAI技術の協力を挙げることができる。AI技術は単調な反復作業を自動化することで、人の労働体験を向上させることが可能だ。AI技術は人の「やりがい」を最大化し、「退屈さ」を最小化する。AI技術を使った業務が多様化することで人の雇用が生まれることも考えられる。需要が増えると見込めるのは、AI技術を使いこなす能力が求められる職種だ。

 AI技術を適切に活用するに当たっては、人がAIモデルに対して繰り返しフィードバックを与える必要がある。例えば、生成AIツールの基になる大規模言語モデル(LLM)では、強化学習を実施する。具体的には、人が指示を出し、AIモデルが回答を生成する。AIの回答に対して、人が「ベスト」「ワースト」といったランク付けを繰り返し実施することで、AIモデルの回答精度を微調整することが可能だ。

 もう一つ考慮に入れたいのは、AI技術の利用が生産性の低下につながってしまう懸念だ。例えば、記事の制作といった場面でAIチャットbotに文章の作成を依頼した場合に、品質の低い文章を大量に生成してしまう可能性がある。その結果、編集者は内容を修正することに時間を割くことになり、情報を探すといった他の作業の優先順位が下がってしまう。


 中編は、AI技術の影響を受けやすい業務をまとめて紹介する。

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia マーケティング新着記事

news132.jpg

ハロウィーンの口コミ数はエイプリルフールやバレンタインを超える マーケ視点で押さえておくべきことは?
ホットリンクは、SNSの投稿データから、ハロウィーンに関する口コミを調査した。

news103.jpg

なぜ料理の失敗写真がパッケージに? クノールが展開する「ジレニアル世代」向けキャンペーンの真意
調味料ブランドのKnorr(クノール)は季節限定のホリデーマーケティングキャンペーン「#E...

news160.jpg

業界トップランナーが語る「イベントDX」 リアルもオンラインも、もっと変われる
コロナ禍を経て、イベントの在り方は大きく変わった。データを駆使してイベントの体験価...