「脱メインフレーム」で“40年の歴史”を終わらせる 米特許機関の決断米国特許商標庁から学ぶデジタル変革【前編】

米国特許商標庁(USPTO)が2018年に着手したデジタル変革は、システムの不具合が発端だった。さまざまなハードルを乗り越え、USPTOが脱メインフレームを成功させた方法とは。

2024年01月12日 05時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

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 米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office:USPTO)は19世紀の初頭から220年以上にわたり、特許を扱う機関としてさまざまなイノベーション(技術革新)に触れてきた。USPTOが2018年に直面したのは、庁内システムの不具合による一時のサービス停止だ。それを機に、同機関はシステム刷新を決断した。

大規模な作業になった脱メインフレーム

 2018年8月にシステムの不具合が発生し、約5日間、USPTOの特許出願データベース「Patent Application Locating and Monitoring」(PALM)が使えなくなった。PALMは特許の出願や検索、特許料の支払いなどに用いられる、USPTOの中核システムの一つだ。サービス停止中、利用者は紙ベースで手続きをしなければならず、大きな手間が掛かったという。USPTOはこの件を機に、システムを一新することを決めた。

 システム刷新の土台づくりとしてUSPTOは、CIO(最高情報責任者)のジェイミー・ホルコム氏を採用。ホルコム氏はCTO(最高技術責任者)のスティーブン・ミチェフ氏をはじめ、IT部門の幹部を増やして経営レベルでデジタル変革(DX)に本腰を入れてきた。

 ホルコム氏によると、デジタル変革の取り組みの成果は徐々に出てきた。「職員のIT利用が本格的に変わるまで、約2年の時間を要した」と同氏は述べる。職員はデジタル変革によって仕事の効率が上がったことをモチベーションにして、IT利用の幅を広げることに積極的な姿勢を示しているという。

 USPTOのシステム刷新における柱の一つは、データベースをメインフレームのアプリケーションから切り離すことだった。USPTOは約40年間、メインフレームを基盤とした特許管理システム「Trademark Register Application Monitoring」(TRAM)を使っていた。TRAMはプログラミング言語「COBOL」よりも前に開発された「ALGOL」(ALGOrithmic Language)で構築されていた。

 ALGOLの知識を持つUSPTOの職員3人が開発チームの他のメンバーとタッグを組み、TRAMをOracleのデータベースと互換性があるシステムに置き換えた。USPTOのCIO(最高情報責任者)ジェイミー・ホルコム氏によると、TRAMには800個以上のサービスが含まれており、移行は大規模な作業になった。

 それだけではない。「従来のTRAMがCRM(顧客関係管理)システムと同期していたので、データの完全性を保つためにはCRMシステムにも変更を加えなければならなかった」とホルコム氏は振り返る。2023年9月、CRMシステムの改修が完了したという。

 その後、USPTOのIT部門は新しいシステムを運用するために、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」を用いて、コンテナの利用によって自動化に取り組む方針を決めた。現在、構成管理ツール「Puppet」やCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)ツール「Jenkins」を採用し、システム運用の自動化を始めているという。


 後編は、組織改革を含めたUSPTOの取り組みを紹介する。

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