BroadcomからVMwareの事業を買収する謎の企業「KKR」の正体VMware仮想デスクトップ事業の今後【前編】

BroadcomがVMwareのEUC事業を投資会社KKRに売却することを発表した。KKRとはどのような企業なのか。VMwareのEUC事業はこれからどうなるのか。

2024年04月04日 07時30分 公開
[Gabe KnuthTechTarget]

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 半導体メーカーBroadcomは2024年2月26日(現地時間)、仮想化ベンダーVMwareのエンドユーザーコンピューティング(EUC)事業を投資会社KKRに売却すると発表した。仮想デスクトップインフラ(VDI)の「VMware Horizon」や、統合エンドポイント管理(UEM)製品「VMware Workspace One」などが対象だ。

 EUC事業は筆者が何十年も追っている分野であり、このニュースを受けて幾つもの疑問が頭に浮かんだ。このニュースについて真っ先に浮かぶ疑問は「KKRとは何者なのか」だろう。KKRはどういった企業で、なぜEUC事業を購入したのか。何を狙っているのか。

VMwareの仮想デスクトップ事業を買収するKKRの正体

 KKRは1976年に設立した投資会社であり、世界各国で未公開株式や不動産を中心にさまざまな対象に投資している、KKRがEUC事業に積極的な様子は見受けられないが、ソフトウェアベンダーAlludoを傘下に抱えていることは注目すべきだ。

 Alludoは仮想デスクトップ「Parallels Remote Application Server(RAS)」を提供している。おそらくVMwareのEUC事業がAlludoに加わるだろう。

 強調しておきたいのはBroadcomが発表したプレスリリースにはParallelsへの言及がなく、明確に「取引の完了と同時に、EUC部門は独立した会社になる」と述べられていることだ。そのため、独立した新会社にParallelsが売却される可能性も残る。

Citrixと同じ末路をたどるのか?

 今回の売却は投資会社Vista Equity Partners Managementと投資会社Evergreen Coast Capitalによる、2022年4月に承認されたCitrix Systems(以下、Citrix)の買収と比較されがちだ。Citrixは買収後、BI(ビジネスインテリジェンス)ベンダーのTIBCO Softwareと合併して新会社「Cloud Software Group」(CSG)の一部となった。

 「VMwareのEUC事業は投資会社に売却された。その後はどうなるか分かり切っている」と考える人もいるだろう。考えられるのは、大量解雇と製品および事業の変化だ。今回のような買収には変化が付きものだが、その規模は、事業や買収までの環境によって違ってくる。

 以上を踏まえて、VMwareのEUC事業とCitrixの買収の重要な違いを確認していこう。まずは売却されたそもそもの理由だ。

 Broadcomは2023年11月に締結された買収契約までの間、EUC事業に全く関心を示さなかった。売上高が約20億ドルのEUC事業はBroadcomからするとささいなものだろう。仮に途方もない利益を出していたらBroadcomは保持した可能性があるが、実際には、Broadcomのプランには適さなかった。

 一方で、Citrixの場合はアクティビスト(経営に積極的に提言する投資家)が何年もかけて取締役の地位を得て幾つもの変化を強制した。最終的にCitrixは解体されて投資会社に売却された。新会社のCSGでは、CEOに利益を徹底することで知られる元Broadcom幹部のトム・クラウゼ氏が就任し、2023年1月には全従業員の15%が解雇された。

 同じように投資会社に売却されたVMwareのEUC事業の先行きは暗いのだろうか。実はそうとも限らない。

 買収額に注目してみよう。VMwareのEUC事業は38億ドルで売却されることになっており、これは165億ドルだったCitrixの4分の1にも満たない。この差は単なる売上高の差だけではない。

 1つ目の理由としてCitrixの場合はアクティビスト側の最終的な目標が、Citrixに投資した金額の最大化だった。そのため、経営陣は時間をかけて買収先を見つけた。これに対してVMwareのEUC事業は、Broadcomにとって残り物の貧乏くじであり、経営陣が望んでいない部門だった。早々に追い払う動機があった。

 2つ目の理由として、Citrixは知的財産や技術がVMwareよりも膨大で、絡み合っていた。Citrixの買収額には同社の主要製品であるデスクトップ仮想化製品「Citrix Virtual Apps and Desktops」以外にも、「MAM」(モバイルアプリケーション管理)ツールの「Citrix Endpoint Management」や仮想化ソフトウェア「XenServer」などがある。

 これらの製品の要素には知的財産や技術が複雑に絡み合っているため、Citrixを解体して事業ごとに独立させるには、これらをひも解くために時間や費用が必要だった。

 Citrixを買収した2社は間違いなくCSGに買収額の回収を期待している。この投資を回収するには、売上高が何倍にも増えない限り、事業遂行のコストを大胆に削減するしかない。

 一方、VMwareのEUC事業は、買収額38億ドルに対して20億ドルの売り上げが見込めるため、KKRからの投資回収圧力は、Citrixと比べるとはるかに小さいと想定できる。加えて、VMwareのEUC事業がもたらす知的財産が、Citrixほど複雑に絡み合っていないことを考え合わせると、VMwareのEUC事業は、比較的容易にKKRのポートフォリオに組み込めるだろう。再び株式公開される可能性もある。


 後編はVMwareのECU事業買収における問題点を解説する。

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