NVIDIAを大解剖 GPUベンダーはいかにして「AI半導体の雄」になったのか?ゲーム向けで始まったNVIDIAの歴史と主力製品

NVIDIAはGPUを主軸にして成長してきたベンダーだが、その事業内容はGPUにとどまらない。同社はどのような会社なのか。GPU市場をどう生き抜き、どう成長してきたのか。

2024年07月17日 05時15分 公開
[Andy PatrizioTechTarget]

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 NVIDIAはGPU(グラフィックス処理装置)ベンダーとして知られる会社だ。ただし同社は、GPUベンダーの一言では終われないほど多角的に成長してきた。NVIDIAとはどのような会社なのか。

 創業者たちは、コンピュータグラフィックス(CG)技術が発展するためには、専用の半導体チップ(集積回路)が必要になると確信していた。NVIDIAの歴史はそこから始まる。同社は群雄割拠のGPU市場をどう勝ち抜いたのか。AI(人工知能)技術の利用が広がる今、何を提供しているのか。NVIDIAを理解するための歴史や同社の戦略、主力製品とは。

ゲーム向けGPUベンダーから「AI時代の雄」へ

 1993年にジェンスン・フアン氏、カーティス・プリエム氏、クリス・マラコウスキー氏がNVIDIAを設立した。同社の本社は、米国カリフォルニア州サンタクララにある。同社の事業はどのように変遷してきたのか。

 以前のコンピュータゲームは、CPUのみを使用するように作られていた。コンピュータゲーム技術は進歩し、開発や実行のためのPCのOSは「MS-DOS」から「Windows」に徐々に移行した。ゲームの3D(3次元)グラフィックスは大量の浮動小数点演算(数値演算の一種)に依存しており、CPUの数値演算能力では力不足になりつつあった。

 コンピュータゲーム向けのGPUベンダーとしての地位を確立して以降、NVIDIAはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)とAI技術向けの事業にも進出している。GPUはこれらの用途のデータ処理にも有用なためだ。

 グラフィックスチップ(画面表示や画像処理向けのチップ)市場にNVIDIAが参入した1990年代前半、同市場には複数社が存在した。例えばATI Technologies(ATI)やMatrox Electronic Systems、Chips and Technologies、S3 Graphics、3dfx Interactiveなどが挙げられる。そうした中でNVIDIAは、1999年にGPUの「GeForce 256」を市場に投入し、3Dグラフィックス技術を強みとして競争力を高めた。

 グラフィックスチップ市場でGPUが台頭し、NVIDIAとATIが2大GPUベンダーとなった。NVIDIAは自社のGPU技術の用途拡大を目指した。2006年にはGPUを用いたプログラミング向けの開発者ツール群「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)を発表した。一方のATIを、Advanced Micro Devices(AMD)が2006年に買収した。

 開発者はCUDAにより、GPUを直接プログラミングできるようになった。これにより、より高度な浮動小数点演算を実行する超並列プログラム(大規模な並列処理を実行するプログラム)の作成が可能になった。CUDAで開発できるプログラムの例としては、大量のデータを並列処理する必要があるシミュレーションやビジュアライゼーション(視覚的表現)などのアプリケーションがある。

 NVIDIAは2008年に「NVIDIA Tegra」シリーズを発表した。これはArmアーキテクチャ(Armが設計するプロセッサのアーキテクチャ)と、小型化したNVIDIA製GPUを組み合わせたSoC(CPUや関連プロセッサをまとめた統合型チップ)だ。Tegraは主に、車載システム向けとして自動車メーカーが採用した。任天堂は携帯ゲーム機「Nintendo Switch」にTegraを採用した。

 NVIDIAは小規模な企業を戦略的に買収してきたが、2019年にはネットワーク製品ベンダーMellanox Technologiesを買収した。これは70億ドルの大型買収となった。Mellanox Technologiesは、高度なネットワーク処理機能を搭載するNIC(ネットワークカード)であるスマートNIC(SmartNIC)と、「DPU」(データ処理装置)の製造と開発を手掛ける。スマートNICは標準的なネットワークチップ(データ転送を制御するチップ)やCPUのデータ転送の処理を肩代わりし、転送速度を向上させる。NVIDIA製GPUとスマートNICやDPUを組み合わせることで、HPCやAIシステムにおいて膨大なデータをより高速に転送したり処理したりできるようになる。

 NVIDIAとAMDは、2016年頃にある問題に直面した。クリプトマイナー(仮想通貨採掘者)たちが、GPUを使うことでビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)のクリプトマイニング(仮想通貨採掘)を高速化できることに気付いたからだ。NVIDIAとAMDから供給されるGPUが、大規模なマイニングシステムの構築に大量に使われた。そのためにGPUが世界中で供給不足に陥った。2020年以降は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による供給の不足と制約が重なり、市場のGPU不足は悪化した。

 2020年に、NVIDIAはプロセッサ設計大手Armを400億ドルで買収する計画を発表した。この取引に対しては、Armが本社を置く英国を中心に反対の声が上がった。「NVIDIAは、Armアーキテクチャのライセンス提供において、自社に有利な条件に変更するのでないか」という臆測が流れた。NVIDIAはこうした臆測を否定したが、18カ月に及ぶ折衝を経ても反対の声がやまず、同社は買収計画を撤回した。

NVIDIAの主力製品

 NVIDIAの主力製品群は以下の通り。

GeForce

 「GeForce」はデスクトップやノートPCで使われるNVIDIAの一般消費者向けGPU製品群だ。

Ampere、Hopper、Blackwell

 NIVIDIAは、企業向けのGPUのシリーズ名称を世代ごとに著名な科学者にちなんで命名している。例えば「Ampere」や「Hopper」の他に、次世代アーキテクチャとして「Blackwell」も登場している。

Quadro、NVIDIA RTX

 「Quadro」は、CAD(Computer Aided Design:コンピュータ支援設計)などの設計アプリケーションに使用できるように、GeForceシリーズの製品に変更を加えた企業向けGPU製品群だ。Quadroシリーズの新製品提供は終了しており、「NVIDIA RTX」シリーズが後継となっている。

NVIDIA Tegra

 「NVIDIA Tegra」は、モバイルデバイス向けSoC製品群だ。

NVIDIA DGX

 GPUとCPU、メモリ、ストレージなどを搭載したNVIDIA独自開発の統合型ハードウェア製品群。HPCやAIアプリケーションのインフラとしての利用に適している。

NVIDIA BlueField DPU

 CPUの負荷をオフロード(移し替えること)することに使える、データ処理のためのDPU製品群。買収したMellanox Technologiesの技術が継承されている。

NVIDIA Spectrum

 データセンター向けに高速通信やセキュリティの強化を実現する次世代イーサネットスイッチ製品群。

NVIDIA Jetson

 組み込みシステム向けにGPUとArmプロセッサを組み合わせた、小型のシングルボード型コンピュータ。

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