個人のスマートフォンの中身を知らない間に企業が収集、利用している――。この是非を争点に、MicrosoftとGoogleに対する訴訟の準備を進めた法律事務所がある。データの収集や活用に関する企業の言い分を紹介する。
旅行についておしゃべりした後にスマートフォンを見たら、画面に旅行サイトの広告が表示された――。このような経験をしたことはないだろうか。英国の法律事務所Barings Law(以下、Barings)が、MicrosoftとGoogleに集団訴訟を起こすべく参加者の募集を始めた。大規模言語モデル(LLM)を学習させる目的で、MicrosoftとGoogleが違法に取得、利用している可能性のある情報とは。
2年にわたる調査の結果、BaringsはMicrosoftとGoogleがスマートフォン内のエンドユーザーの個人情報を収集していることを把握したという。収集された可能性がある情報の例は以下の通りだ。
MicrosoftとGoogleがエンドユーザーの同意なしに情報を取得、利用しているとBaringsは主張する。エンドユーザーは個人情報が取得されていることは理解している可能性がある。ただし、取得された情報がLLMの学習に使用されることを、エンドユーザーは認識していない恐れがあるとBaringsは指摘する。
Baringsでデータプライバシーに関する責任者を務めるアドナン・マリク氏によれば、MicrosoftとGoogleは、エンドユーザーが応援するスポーツチームやよく使うプログラミング言語、追跡している株式の銘柄、住んでいる場所の天気や交通情報、通勤経路や声の特徴までも収集している可能性がある。「これほどの量と種類の情報が収集され続けている可能性にがくぜんとし、憤りを感じている」とマリク氏は話す。
マリク氏は、人工知能(AI)技術の普及が社会を変革している一方で、その発展のために個人のプライバシーを犠牲にするべきではないと強調する。
「エンドユーザーは、自分の情報がどこに保存されたり、何のために使われたりするのかを知る権利がある。自分の行動や声、外見、習慣、知識がLLMの学習に利用されることを拒否する権利もある」とマリク氏は説明する。「技術が発展するにつれて、個人情報は世界で最も価値のある財産になりつつある。金銭や貴金属、石油を盗難するのが違法であるのと同様に、個人情報の盗難も許されるべきではない」(同氏)
英Computer Weeklyは訴訟についてMicrosoftとGoogleに問い合わせた。その結果、2024年11月時点で両社から具体的なコメントは得られていない。
AIベンダーの中には、LLMの学習にエンドユーザーの個人情報や著作権で保護されたデータを使用することを正当化しようとする動きがある。例えば、LLMの学習にデータを使うことが、批評や報道、教育、研究などの目的で、著作権で保護された資料を無許諾で使用することを認める「公正な利用」(フェアユース)に該当するといった主張がある。
2023年10月には、音楽出版社数社がAIベンダーAnthropicに裁判を起こした。AnthropicのLLMを学習する過程で、著作権で保護された歌詞を無断で使用したというのがその争点だ。Amazon.comから80億ドルの投資を受けているAnthropicは、テキストや画像などを自動生成する「生成AI」を活用したチャットbot「Claude」を開発している。「Claudeの学習に作品を使用することで、作品の市場価値が下がったり販売を妨げたりすることはない。むしろ、元の作品に新しい価値を付加する取り組みであり公正だ」というのがAnthropicの主張だ。
加えて、「学習データのライセンス料を支払わなければならないのであれば、今日人々が気軽に使うようになったAIツールは存在し得ない」とAnthropicは主張する。インターネットで公開されている情報から収集したデータを使用しているのは同社だけではないという。「自然言語や世界中のさまざまな事象を幅広く理解できるようにLLMを学習する上で、相応の規模と多様性を備えた学習データを蓄積する方法は他にはない」とAnthropicは説明する。
Baringsは、MicrosoftやGoogleのアカウントを持つ人、両社のサービスを利用したことがある人に訴訟への参加を呼び掛けている。「自分の個人情報が知らないうちに無断で利用されていることに怒りを覚えた人は、ぜひ行動を起こしてほしい。今すぐ訴訟に参加申し込みをして、データとAIの未来を私たちの手で守ろう」とマリク氏は訴える。
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