大半の企業はクラウド移行時に大手クラウドサービスを選ぶ。しかし、あえて大手クラウドサービスを選ばず成功した企業も存在する。どのようなメリットを見込んだのか。
自社のITシステムの基盤をオンプレミスインフラからクラウドサービスに移行することで、アプリケーションのモダナイゼーション(最新化)や拡張性の確保、運用コストの削減など、さまざまなメリットが期待できる。しかし十分な準備をせずにクラウド移行すれば、かえってコストの高騰や運用の複雑化を招く。
企業のITリーダーがクラウド移行を検討する際には、大手クラウドサービスベンダーを候補として真っ先に考えるのが一般的だ。だが、運輸業と倉庫業を営むTCWはこれらのベンダーを選ばなかった。同社の事例を基にクラウド移行のヒントを探っていこう。
TCWでIT部門のバイスプレジデントを務めるスティーブ・トンプソン氏は見方を変え、規模が小さいクラウドサービスの脆弱(ぜいじゃく)性を突き止めるためにハッカーがリソースを投じることはあまりないだろう、と推測した。
トンプソン氏の最優先事項はセキュリティだった。運輸業界はランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃の標的になることが増えており、同氏は脆弱性を懸念していた。運輸は24時間365日稼働する業界であり、同氏は同業他社がランサムウェアによる被害を受けた後、重要業務の復旧に多額の資金を費やすのを見て、ダウンタイム(停止時間)を回避するために信頼性が高いシステムの構築に取り組む必要があると判断した。
調査の結果、トンプソン氏はAmazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群やMicrosoftの「Microsoft Azure」、Googleの「Google Cloud」といった大手クラウドサービスを選択肢から外した。「理由は、クラウドサービスベンダーの規模が大きいほど、ランサムウェアなどの攻撃の標的となる機会も大きくなると考えたからだ」と同氏は解説する。その後、同社はクラウドサービスベンダーFlexentialのクラウドサービス群を採用した。
「CrowdStrikeが起こした大規模障害時でも、当社に影響はなく、当社のビジネスはオンラインで100%稼働できる状態だと顧客に伝えられたことに勝る喜びはなかった」とトンプソン氏は語る。セキュリティベンダーCrowdStrikeは2024年7月、同社の更新プログラムによって、世界各国でOS「Windows」搭載デバイスにシステム障害を発生させた。
データ移行に要する時間もクラウド移行時の課題だった。幸いにも、Flexentialはデータ移行のための専用線接続サービスを提供していたため、Zerto(HPEが2021年に買収)のデータ移行ツールと併用してデータを移行できた。
クラウド移行後、TCWはFlexentialから機能強化のための提案を受けた。トンプソン氏が率いるチームは、Flexentialが提供するDR(ディザスタリカバリー)を実現するDRaaS(Disaster Recovery as a Service)のメリットについて話し合い、その後、TCWのプライベートクラウドをデンバーにあるFlexentialの別拠点にレプリケート(複製)するためにそのDRaaSを導入した。
「振り返ってみても、別のやり方をすることは考えられない」とトンプソン氏は言う。移行前はシステムごとに新しい基盤を構築し、メンテナンスをしながらパッチ(修正プログラム)を適用するサイクルを繰り返していた。「こうした作業から解放されることで、社内ユーザーや社外ユーザーにより多くのリソースを投じ、より高い価値や体験を提供できるようになった」(同氏)
次回は、Unileverなどの事例を紹介する。
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