オンプレミスインフラからクラウドサービスに移行する手法は幾つかある。具体的な事例を紹介しながら、どのような手法が最適なのかを探る。
さまざまな企業が、運用効率化やモダナイゼーション(最新化)などの効果を期待して、オンプレミスインフラのデータやアプリケーションをクラウドサービスに移行しようとしている。近年は生成AIツールと自社のデータやアプリケーションを連携させて、既存サービスの顧客満足度の向上や新規事業の創出も期待できる。
とはいえクラウド移行の複数の方法が存在し、その選択によって成否が変わってくるのでより適した方法を選択しなければならない。どのような方法があるのか。実際の事例を踏まえて解説する。
最も単純なクラウド移行の方法は、オンプレミスインフラのシステムをそのままクラウドサービスに移す「リフト&シフト」だ。リフト&シフトであってもモダナイゼーションの取り組みの土台となる。だが、必ずしもコスト削減にはつながらない。
一方、自社のアプリケーションをモダナイゼーションしてからクラウドサービスに移行して、クラウドサービス固有の機能を活用可能にする方法もある。この方法では費用対効果と機敏性(アジリティ)は向上するが、ソースコードに変更が必要になるためリスクもある。
現実的には、企業の大半はリフト&シフトとアプリケーションのモダナイゼーションの中間的なアプローチを採用している。リスクやコスト削減、管理性のバランスを探りながら移行する。それでも、企業はクラウド移行でさまざまな課題に直面し、教訓を得る。金融サービスを提供するExperianも、さまざまな課題を乗り越えながらクラウド移行をした企業の一つだ。
Experianは、定期的に膨大な量のデータを分析して、自社のクレジットスコアリング(消費者の返済能力を評価すること)モデルをアップデートしている。同社はサイロ化(連携せずに孤立した状態になること)したデータを結び付けるのにクラウドサービスが役立つと考え、データ処理インフラの多くをAmazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群に移行することに決めた。
AWSに移行する前のITインフラについて、「大半がオンプレミスインフラにあり、厳選したワークロード(特定のシステムやアプリケーションに関するタスクや処理)だけがパブリッククラウドにあった」とExperianでシニアバイスプレジデントを務めるジミー・チェン氏は語る。同社はオンプレミスインフラで仮想化ベンダーVMwareやネットワーク機器ベンダーCisco Systems、システムインテグレーターのRed Hatなどのソフトウェアを組み合わせて仮想化基盤を管理していた。
「以前の当社はクレジットデータプロバイダーだったが、医療や自動車など幅広い分野に進出したためITインフラの拡張性やアジリティ、セキュリティをより高度にする必要があった」とチェン氏は明かす。
ExperianはITインフラ移行時にセキュリティ要件やコンプライアンス(法令順守)の要件を確実に満たすために、AWSのコンサルタントの協力を得た。AWSは、Experianの従業員へのトレーニング、安全なアーキテクチャの設計などを支援した。
パブリッククラウドへの移行には、経営陣を始めとして、IT、財務、事業、セキュリティなどのさまざまなチームの緊密な連携が必要だった。「社内で賛同を得るために、コスト削減、アジリティ向上、セキュリティ強化といった移行目標を明示した」とチェン氏は説明する。同社は目標の整合性を確保し、当事者意識の共有を促し、さまざまな業界の顧客に対応可能なITインフラを準備することを目指して、主要部門の代表者を取り込んだプロジェクトチームを結成した。
これらの取り組みを通してExperianはクラウド移行によって以下の成果を得た。
「クラウド移行には既存の技術負債などの課題が伴った」とチェン氏は述べる。比較的古いシステムをクラウドサービスで効率よく運用するにはリファクタリング(振る舞いを変えずに内部構造を改善すること)が必要になる。「ワークロードを最適化しないでリフト&シフトすると予想外のコストが発生する恐れがある」と同氏は指摘する。
クラウド移行を実行する際は、以下のスキルを持つ人材が社内にいることを確認する必要があるとチェン氏は忠告する。
企業は必要に応じて新たな人材の雇用やトレーニング期間を設けなければならない。「Experianがもしクラウド移行を最初からやり直すとしたら、全てのクラウドサービスで最初から全面的にIaCを利用可能にすることに主眼を置くだろう。運用効率が向上するだけでなくセキュリティや一貫性も確保できる」とチェン氏は語る。
「クラウドとDevOpsの深い専門知識を得るためのトレーニングへの投資を増やし、クラウドコスト管理ツールを用意して支出を追跡しリソース使用率を最適化することで、想定外のコストを回避することも優先するだろう」とチェン氏は続ける。
次回は運輸業と倉庫業を営むTCWの事例を解説する。
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