SCM市場の成長が続いている。一度はコスト削減対象となりながらも企業が再度、SCMに投資を始めた理由とは何なのか。グローバル化や事業継続などのキーワードでSCMの現在を考える。
製造業や流通業などモノや部材を仕入れて加工し、外部に販売する企業に欠かせないのがサプライチェーンマネジメント(SCM)だ。企業のグローバル化に伴い、サプライチェーンの範囲は世界規模に広がっている。世界中の企業から部材を調達し、世界の各拠点で製造し、世界中で販売するようなビジネスも一般的になりつつある。そのためSCMシステムについての注目度も高まっている。IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ グループマネージャーの赤城知子氏の話を基に、企業のビジネスの根幹を支えるSCMの市場状況とユーザーニーズの変化、製品の動向を伝える。
SCMは専業のアプリケーションベンダーが提供する製品に加えて、パッケージ製品として主要なERPベンダーなどから提供されている。IDC Japanの調査によると、2011年のSCMパッケージの成長率は前年度比5.6%。ビッグデータ分析の基盤として注目を集めるBI(ビジネスインテリジェンス)や、ERPと比較しても高い成長を果たしている。IDC Japanでは物流管理と在庫管理、生産計画の各システムを総称してSCMと呼んでいる。
赤城氏によると、IDC Japanは2008年6月時点で「SCM市場は今後5年は好調に伸びるという予測を出していた」。しかし、その後に2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災があり、企業のIT投資が減退する中でSCMに対する企業の投資も不透明になった。ただ、SCMへの投資は数年の計画を立てて行う「足の長い案件」。2008年当時に立案されたプロジェクトが延期されたり、内容が変更されながらも次第に実現されてきている。
2008年当時のIDC Japanの予測と、現在では前提条件が少し変わったといえる。それは「グローバルサプライチェーンの重要性が明らかになった」(赤城氏)ことだ。2011年は東日本大震災に次いでタイの水害があり、日本企業のサプライチェーンが大きな被害を受けた。「1次サプライヤーが被災していなくても、2次やその先のサプライヤーが被災したらモノが入ってこなくなることが明らかになった」(同氏)
日本企業はこれまで国内の物流にはそれほど投資をせず、どちらかというとコスト削減の対象として考えていた。しかし、そのサプライチェーンが被災すると「サプライヤーの状況を把握できない。把握できても代替手段の情報を集めるのに時間がかかってしまう。そのため納期回答ができない。サプライチェーンの脆弱性が企業の弱みになるということが、現場のみならず経営層にとってリアルな体験を伴って理解された」(同氏)のだ。
多くの日本企業がSCMをコスト削減の対象としていたのは、それがある程度完成していると評価していたからだ。「大手製造業の生産計画、在庫管理などのシステムに対する個々の最適化は2003〜2005年が1つのピークだった。一方で物流管理については、より一層の物流コスト削減を目指す中で、ITの支出自体も絞る経営層が多かった」(赤城氏)
だが、生産計画や在庫管理の各システムの業務適用率は高くても、それぞれがサイロ化していて相互に連係できていなかった。そのため被災時の事業継続など、突発的な状況には迅速に対応できなかったのだ。2008年ごろには各社でSCMの次期刷新計画が出始めていた。その後にリーマンショックの影響でSCMへの投資が先送りされる傾向が強まったことは、前述の通りである。
「そもそもバリューチェーンというようにSCMはチェーンなので、自社の各業務システムのみならず、サプライヤーやロジスティクスともつながっていないといけない」(赤城氏)
2011年は自然災害やさらなる円高という厳しい市場環境にありながら、日本企業はこれらの弱みを補うためにSCMへの投資を増やしてきた。特にこの状況に危機感を覚えた経営層の指示によるプロジェクトが多いという。「感覚的には2010年に比べて2011年は3倍程度にSCMのパイプラインが増加したとみている。2012年は、簡易的な案件も含めると2011年のさらに2倍くらいにパイプラインが拡大しているのではないかと思われる」(赤城氏)
企業はSCMパッケージに対して、グローバルレベルでのサプライチェーン管理機能の充実を求めている。特に経営層が求めるのはSCMの物流や生産計画、在庫管理の情報と、財務会計やマーケティングの情報を組み合わせて見られるようなソリューションだ(参考記事:ITを使った経営の「見える化」、そのノウハウが分かるホワイトペーパー)。企業のサプライチェーンがサイロ化した原因の1つは現場主導で部分最適のシステムを導入してきたから。その是正のため、「経営者は事業のグローバル展開を進めるためには現場が嫌がるようなプロセスやシステムの標準化も行わざるを得ない」(赤城氏)。ユーザー企業のIT部門やサプライチェーン担当部門は、残すべき現場最適と、目指すべきグローバルスタンダードを精査する必要がある。
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