SDN(Software Defined Network)はネットワークの一元管理を可能にし、サービス展開のスピードアップや管理作業の効率化に寄与する。だが、その本格導入に至るまでには複数の課題が残されている。
ネットワークをプログラムによって制御するネットワークアーキテクチャ、SDN(Software Defined Networking)が注目を集めている。現在、アドレスの設定やトラフィックのルーティングなど、単調で時間のかかる運用管理タスクは高価な専用ハードウェアと密接に結び付いており、その上で実行されている。しかしSDNに移行することで、こうしたタスクを高価なハードウェアから切り離し、コモディティハードウェア上で動作するソフトウェア機能として利用することが可能になる。
これにより、企業は多くのメリットを享受できる。例えばトラフィックの経路設定や遅延の最小化などについて、クローズドなベンダー固有のネットワークスイッチやルータに頼ることなく、単一のインタフェースで全てのネットワーク機能を扱えるようになる。サービス展開のスピードアップ、管理作業の簡素化、コスト削減も狙える。
ネットワーク機器ベンダーは、こうしたSDNへのパラダイムシフトの可能性に注目している。既にSDN市場に参入している新興企業群、Adara NetworksやBig Switch Networks、Contextream、Embrane、Vello Systems、Vyattaなどの他、Brocade Communications、Cisco Systems、Dell、Extreme Networks、Hewlett-Packard、Juniper Networksなどの大手ベンダーもSDN市場への参入に積極的な姿勢を見せている。2012年7月、VMwareがSDNを手掛けるNiciraを12億6000万ドルで買収する計画を発表したことも、この市場の可能性の大きさを示している。
「実際、VMwareが明らかにした買収価格は、誰の予想よりもはるかに高かった」(米Enterprise Strategy Groupのシニアアナリスト、ボブ・ラリバート氏)
SDNへの移行を「データセンター仮想化に向けた自然な流れ」と見る向きも多い。データセンターではサーバ仮想化が一般化しており、ストレージの仮想化も進んでいる。SDNによってネットワーク仮想化を行うことは、データセンターの進化における次のステップになるというわけだ。
だが実際には、SDNの導入はまだほとんど進んでいない。米ZK Researchの主席アナリスト ズース・ケラバラ氏は「SDN市場を野球の試合に例えると、ピッチャーがウォームアップをしているところ。企業がSDNのメリットを実感するようになるのは、まだかなり先の話だ」と話す。
その本格導入に向けた1つ目の課題は、SDNのメリットを得るためには、多角的な取り組みが要求される点だ。具体的には「物理コントローラー」「物理コントローラーのネットワークソフトウェア」「アプリケーションがネットワークサービスを呼び出すためのAPI」という3つの構成要素をSDNに対応したものに変更しなければならない。
このうち物理コントローラーだけはネットワーク制御技術、OpenFlowによりSDN対応が進みつつある。OpenFlowを使えばパケットの経路選択をユーザーがプログラムで制御できる。これにより、ネットワークの管理情報を転送データから分離できるため、アクセス制御リストやルーティングプロトコルなど、従来のアプローチで実現できるトラフィック管理よりも高度なトラフィック管理が可能になる。
OpenFlowベースのネットワーク製品については、Google、Hewlett-Packard、IBM、Big Switch Networks、Vello Systemsなどが2011年ごろから次々と発表してきた。2011年3月にはDeutsche Telekom、Facebook、Google、Microsoft、Verizon、Yahoo!が、OpenFlowの利用促進を目指すコンソーシアム「Open Networking Foundation(ONF)」を設立。会員企業は着実に増え続け、現在は80社を超えている。だが、SDNに必要な他の要素技術はまだ青写真の段階にある。
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