オープン性と品質が強み、国産クラウド老舗のIDCフロンティア企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第14回】

国内では歴史が古いIDCフロンティアのクラウドサービスの中から、パブリッククラウドを紹介する。CloudStackを採用したオープン性とエンタープライズ品質が売りだ。

2013年02月05日 08時00分 公開
[加藤 章,電通国際情報サービス]

 本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」では、さまざまなパブリッククラウドをエンタープライズの業務システムで利用する観点から解説している。今回は「IDCフロンティア クラウドサービス」(以下、IDCFクラウド)を取り上げる。同サービスはヤフーにOEM供給され「Yahoo!クラウド」としても提供されている。

 IDCフロンティアの原点は1986年にさかのぼる。その前年に始まった電気通信制度改革を受けて設立された国際デジタル通信企画(伊藤忠商事、トヨタ自動車、ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)が出資)である。このときの英語名称(International Digital Communication:IDC)が今に引き継がれているようだ。その後、C&Wが出資比率を上げC&W IDCとなるも、最終的にC&Wは日本市場から撤退。同事業は2005年よりソフトバンクグループに買収され、社名もソフトバンクIDCになる。2009年からヤフーグループ傘下となり、社名も現在のIDCフロンティアとなった。今回紹介するクラウドサービスは同年に開始されたものである。意外や国内では「老舗」と言えよう。

お詫びと訂正(2013年2月5日)

国際デジタル通信企画の英語名称に誤りがありました。おわびして訂正いたします。

【修正前】

Internet Digital Communication

【修正後】

International Digital Communication


 原点にあるC&Wは英国の歴史ある大手通信事業者であり、1800年代後半から欧州を中心に国際通信と法人向けデータ通信を事業としている。日本においてもデータセンターやネットワークを整備し法人向けサービスに注力していたが、このときのDNAがIDCフロンティアに引き継がれている。2009年に開始されたIDCFクラウドは、当初からエンタープライズの業務向けサービスとしてリリースされたとのことだ。

IDCFクラウドの概要

 現在、IDCFクラウドのWebサイトをみると、次の3つのサービスが記載されている。

  1. パブリッククラウド(セルフタイプ、マネージドタイプ)
  2. プライベートクラウド
  3. クラウドストレージ

 本稿では連載の趣旨に照らし、主に1.パブリッククラウド(セルフタイプ、マネージドタイプ)を中心に紹介していく。

パブリッククラウド(セルフタイプ)

 「セルフタイプ」はWebポータル経由のセルフサービス型で、オンデマンドで仮想サーバ(インスタンス)が使えるサービスである。本連載で過去に紹介したAmazon Web Services(AWS)などのIaaS型パブリッククラウドと基本的にはほぼ同じサービスだ。基盤ソフトウェアにはCloudStackを使っており、以前紹介したCloudnと同様だが(関連記事:NTT Comが満を持して世界に放つ超低価格クラウド「Cloudn」の正体)、同ソフトウェアを使った商用サービスとしてはIDCFクラウドの方が先輩ということになるようだ。インスタンスは仮想サーバ11種類と、物理専用サーバが利用可能である(図1参照)。

図1 セルフタイプのインスタンス一覧(IDCフロンティアのWebサイトより著者編集)《クリックで拡大》

 また、料金体系は表1のようになっている。

表1 セルフタイプのインスタンス料金一覧(IDCフロンティアのWebサイトより著者編集)

 なお、現在は「キャンペーン期間中」であり、停止中のインスタンスは課金されない。また、月額料金が用意されているが事前申し込み型であり、Cloudnのように自動的に月額料金に移行するわけではない。

 上記はCPU+メモリの課金であり、ディスクは別に追加する必要がある。0.084円/Gバイト/時で、ミニマム15Gバイト(Windowsなら40Gバイト)が必要(単純計算で月額約900〜2500円)。

 現時点の用途としては、公開型のWebアプリケーションやオンラインゲームなどでの利用が多く、LAMPやLVS、HAProxyなどさまざまなテンプレートも用意されているとのことだ。エンタープライズでの本格的な利用は今後の成長を期待しているということであった。Webポータル(図2)は、使いやすさを徹底的に追求しており、「ITに詳しくない人でも使える」「予算の管理もしやすい」のが売りである。

図2 セルフタイプのWebポータル画面《クリックで拡大》

特徴

 同社に本サービスの「こだわり」を取材すると次のような説明があった。1つは「標準(オープン)」、もう1つは「品質」である。まずは前者を考えてみよう(品質については本稿の最後にまとめて述べる)。

オープン戦略

 前段でも触れたが、CloudStackを採用している点が挙げられる。国際的に採用が進み、デファクトスタンダードを形成しつつあるOSSである。また、オンプレミスでプライベートクラウドを構築する際にも使える。ユーザーが多い基盤を採用し、標準的APIも公開したという意味では、ユーザーがロックインされにくい 基盤ともいえるので、この点でユーザーには魅力があるように見える。また、複数のクラウドにまたがるクラウド間連携も実現しやすそうだ。

 利用経験が長いのでCloudStackの不具合や癖について同社は熟知しており、この点は独自のノウハウがありそうだが、サービス自体には「IDCFクラウド独自の仕様を盛り込むことは意図的に行っていない」とのことである。付加価値(「味付け」と表現していた)は、後述する「品質」で勝負するそうだ。

 標準のもう1つの側面として、各種の運用ツールとの連携が挙げられる。具体的には米RightScaleのRightScale(関連記事:RightScaleが実現するクラウドマネジメントの世界 〜Amazon Web Servicesとの違いは?)、OSSのSCALR、SCSKのPrimeCloudControllerである。これらはクラウド管理ツールあるいは連携ツールとして著名なものであり、ここでは詳解は避けるが、オンプレミスのプライベートクラウド含め、複数のクラウド環境を統合的に管理・運用できるものである。AWSやWindows Azureなど、海外の著名なクラウドはこれらのツールで効率的に運用できることが知られている。利用インスタンス数が著しく多い場合や、複数のクラウドを使って冗長構成やバックアップを組みたい場合など、大規模かつ本格的なエンタープライズ利用にはこれらのツールは不可欠ともいえる。IDCFクラウド(セルフタイプ)はこれら全てに対応している唯一の国産クラウドサービスとなっている。

パブリッククラウド(マネージドタイプ)

 前述のセルフタイプはIDCFクラウドの中では後発サービスである。当初はこれから述べるマネージドタイプしか存在しなかった。このタイプはいわばIDCFクラウドの原点といえるサービスである。

 マネージドタイプは仮想マシンを月額固定料金で貸し出すサービスである。オンデマンド性は低く、申し込みをしてから、IDCフロンティア側担当者からのコンタクト、導入SEとの打ち合わせなどを経て、数日後に「開通」するものである。プロビジョニング作業は全てIDCフロンティアの担当SEが行う。従来的な意味での「レンタルサーバ」に近い。設備面でもセルフタイプとは別物のようである。

 インスタンスは図3に示す16種類が用意されている。

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