社内向けモバイルアプリを開発・配布する企業が増えているが、ユーザーに直感的なエクスペリエンスを提供しなければそっぽを向かれることもある。解決策として「Pinterest」のようなサービスの利用が有効だ。
従業員に社内開発のモバイルアプリケーションを配布する企業が今後増えると予想されるが、優れたユーザーエクスペリエンス(以下、UX)デザインを提供するのは容易ではない。
多くの企業がUXのデザインで挫折するのは、その作業に専門とする従業員がいないからである。モバイルアプリケーションの開発を外部の業者に委託する企業の場合でも、自社の要望を業者に伝えるための言葉を知らないというケースが多々ある。
米デザインコンサルティング会社EffectiveUIでUX担当責任者を務めるマイケル・サラモン氏によると、ユーザーは「Netflix」(動画配信サイト)のような分かりやすいエクスペリエンスを業務アプリケーションに求めているのだが、それをUXデザイナーに伝えるための知識を持ち合わせていないという。「問題なのは、企業が社内で開発したアプリケーションで直感的なエクスペリエンスを提供しなければ、従業員は自分の気に入ったアプリケーションを適当に見つけてくる可能性が高いということだ」とサラモン氏は付け加える。
「市販のアプリケーションは使いやすく、任天堂のWiiを含むあらゆる端末で利用できる。しかもどの端末でも同じエクスペリエンスなので、携帯電話の操作からブラウザ機能に移動しても、まごついたりすることがない」と同氏は語る。
2013年6月にボストンで開催された「E2 Conference」に参加したパネリストたちは、モバイルアプリケーションの開発時におけるUXデザインをめぐる課題について意見を交わすとともに、IT部門、開発者、企業が同じ言葉を共有するためのヒントを3つ紹介した。
UXデザイナーが特に苦労するのは、業務部門がモバイルアプリケーションに何を望んでいるのかをきちんと伝える方法を知らないということだ。また、ビジネスユーザーは自分たちが理解できないプロセスに対して不満を抱きがちだ。
ユーザーとIT部門の間の意思疎通を妨げる言葉の壁としては、「ペルソナ」「ムードボード」「ワイヤーフレーム」「ジャーニーマップ」「ヒューリスティック分析」といった専門用語が挙げられる。こういった用語は、UXデザイナーがアプリケーションの狙いを明らかにし、その狙いを実現する最適な手段を見つけるためのプロセスの一部にすぎない。
デジタルソリューション企業の米Universal MindでUX担当ディレクターを務めるブラッド・ロイター氏は「UXデザイナーに『最高品質で使いやすいアプリケーションが欲しい』と言ったところで、そういった表現は極めて曖昧だ」と指摘した。
ロイター氏によると、「Pinterest」のようなコンシューマー向けアプリを利用するのも1つの手だという。Pinterestはコンテンツ共有サービスで、登録会員は画像や動画などのオブジェクトを自分のボードに投稿する(“ピン”する)ことにより、視覚的に意志伝達を図ることができる。
「人間は視覚的な動物であり、ユーザーが何を求めているのか把握する上でPinterestは大きな威力を発揮する。ユーザーが気に入っているアプリケーションのサンプルを追加してもらうことで、彼らがアプリケーションに対して具体的に何を望んでいるのかについての対話が可能になる」(同氏)
また、米TIAA-CREF Financial ServicesでUXデザインのディレクターを務めるブライス・ストークス氏は「われわれはあまり絵を描かないようにしている」と述べた。
ユーザーがどんなアプリケーションを求めているかを理解したら、UXデザイナーが次に心掛けなければならないのは、自分の考え方をデザインプロセスに反映させないということだ。UXデザイナーがアプリケーションを使うわけではないからだ。
米投資管理会社のOppenheimer Fundsの上級UXデザイナー、ジョナサン・ホイーラー氏は「最も大切なのは、ユーザーの気持ちを理解することだ」と語った。「例えば、コールセンターアプリを起動しようとしたコールセンターのスタッフが、顧客の名前を聞き漏らしてしまい、受話器から怒鳴り声が聞こえる中で何とか情報を入力しようと悪戦苦闘しているときの気持ちを、開発者が理解できないようなことでは駄目だ」
クラウドソフトウェアベンダーの米Boxのエンジニアリング担当ディレクター、キンバー・ロックハート氏は「ユーザーの気持ちを理解するには、ビデオの上映会を毎月開催すればよい。ただし、開発者が観なくてはならないのはハリウッド映画ではなく、モバイルアプリケーションを試しているユーザーのビデオだ」と述べた。
「アプリケーションで予想していないことが起き、どうしていいか分からなくなったユーザーのいら立ちと怒りの様子を実際に見るのが最も効果的だ」(同氏)
前出EffectiveUIのサラモン氏によると、ユーザーの気持ちを理解するもう1つの簡単な方法は、開発したアプリケーションを使う必然性がない人、例えば義理の母などにアプリケーションを渡し、基本的な機能を使ったタスクを実行してもらうというものだ。
このテストの場合、開発者はアプリケーションを使うユーザーから、具体的にどんなタスクを実行したいのかを確認しておかなければならない。「アプリケーション開発者がユーザーの立場に立てば、見栄えと使い勝手を混同することはあり得ない」(ロックハート氏)
意外に思う人がいるかもしれないが、モバイルアプリケーションには既に有効性が実証されているインタフェース要素が存在する。例えば、カレンダーの日付を選択する方法や[戻る]ボタンなどだ。
UXデザイナーが犯す可能性がある大きな間違いの1つが、予想外のエクスペリエンスによってユーザーを混乱させることだ。インタフェース要素の見栄えに凝り過ぎるデザイナーもいる。「ユーザーの称賛を浴びたい気持ちも分かるが、誰もが慣れている昔ながらの平凡なインタフェースを採用する方がよい場合が多い」とロックハート氏は語る。
「UXは芸術作品ではない」とサラモン氏は語る。「結局のところ、開発者の仕事というのは、ユーザーの邪魔をせずに彼らの問題を解決することなのだ」
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