カギとなるのはIT担当者の「鑑識眼」
「IoT+ウェアラブル」をカッコイイだけで終わらせないビジネス活用のポイント
IoT(モノのインターネット)デバイスは、企業が実用的なデータを生成することに注力しなければ、単なる目新しい試みで終わる可能性がある。
ハードウェアベンダーとソフトウェアベンダーは、こぞってIoT(Internet of Things、モノのインターネット)とウェアラブル端末を活用すべく試行錯誤している。業界の専門家によれば、このようなデバイスが企業の実験レベルを脱して、投資対効果(ROI)を高めるには、CIO(最高情報責任者)やその他の技術者の鑑識眼が必要だという。
小型センサーやウェアラブル端末から送信されたリアルタイムデータを、企業と消費者に提供すること。これがIoTとウェアラブル端末の目的だ。これらの極小デバイスはWebやクラウドに接続されている。収集できる情報の種類は、人やモノの位置、大きさ、温度など多岐にわたる。このような情報はリアルタイムでデータとして供給して分析に利用することができる。
IoTとウェアラブル端末の魅力は、リアルタイムで洞察を生み出すことにあるが、企業が知りたいのはROIを高める方法だ。専門家によれば、IoTデバイスとウェアラブル端末は、そのサイズの小ささから、ただ目新しいだけの存在で終わる可能性がある。つまり、企業にとって有益で処理しやすいデータを提供できない恐れがあるということだ。このようなデバイスをビジネスで活用する方法を企業は真剣に考えなければならない。
ウェアラブル端末やデジタルアイウェアが他のデバイスよりも適している状況はある。そう語るのは、独SAPでソリューションアーキテクトとフューチャリストを兼任するライムント・グロス氏だ。同氏は、2014年12月に米ボストンで開かれたカンファレンス「Gilbane Content and Digital Experience」に講演者として参加した。デスクで作業をしているナレッジワーカーにIoTアイウェアは必要ない。この状況が変わるのは、オフィスから出たときだという。グロス氏は、講演でメンテナンス担当の技術者がウェアラブル端末から恩恵を受けられるシナリオを紹介している。ウェアラブル端末で提供される位置情報や大きさなどの測定値は、全てハンズフリーのデバイスに表示される。その際、企業のデータベースに格納されている他の情報も補足情報として提供される。
グロス氏によれば、モバイルワーカーもIoTデバイスを使って、リアルタイムで問題のトラブルシューティングを行うことができるという。つまり、トラブルシューティングを行うためにその場から移動する必要はない。技術者が問題の解決に行き詰まったときには、デバイスから遠隔地にいる同僚にサポートを求めることができる。グロス氏は、ウェアラブル端末の業務利用が成功するにはユーザーにメリットがあることが条件となることを指摘している。格好良いという理由で新たに導入したテクノロジーは役に立たない。また、ビジネスに活用したり、ユニークな体験を生み出すことも不可能だろう。
IoTとウェアラブルテクノロジーがもたらす新たな変化
IoTとウェアラブルテクノロジーは、投資促進にも一役買っている。ある調査結果によると、これらのテクノロジーは、今後数年にわたって新たな投資の呼び水となることが予想されている。調査会社の米Gartnerは、IoTデバイスの数が2020年までに250億台に達し、関連サービスへの合計支出は2630億ドルにも上ると推測している。だが、これは大胆な予想であるように思われる。まずIoTデバイスには、データのセキュリティという課題がある。また、IoTデバイスはWeb上でデータを送信し、そのデータをクラウドに格納する。そのため、業界全体が共通の規格に従ってデバイスを管理しなければならない。
もう1つの課題はテクノロジーの急速な変化だ。この変化について行くために、企業は往々にして大きな負担を強いられる。例えば、ユーザーのスマートウオッチに表示されるデータはごく少量だ。データ表示をモバイルデバイス向けに調整したときと同じように、ウェアラブル端末とIoTデバイスにとって処理しやすいデータの実現に向けた努力が必要となる。ウェアラブル端末には独自の設計言語と通信方法がある。そう話すのは、同じくGilbaneカンファレンスで講演し、英DigitasLBiでクリエイティブテクノロジーの統括責任者を務めるアダム・ビューラー氏だ。
同氏は、企業におけるIoTデバイスの新たな利用方法について説明した。健康被害の恐れがある状況で、IoTデバイスから有益なデータを送信し、安全性を大幅に強化できるというものだ。ビューラー氏が用意したスライドには、IoTデバイスを背中に取り付けたゴキブリが映し出された。同氏によれば、有害化学廃棄物の流出が疑われる建物にIoTデバイスを取り付けたゴキブリを放して、「第一発見者」の役割を担わせることが可能だという。この方法により、人間が危険な環境に立ち入ることなく、有害化学廃棄物の位置と深刻度を確認できる。
データセキュリティの低下に対する懸念の増加
IoTデバイスがもたらすメリットは明確である。だが、専門家は消費者の機密データがWeb上に送信されることで、その影響範囲の広さと気掛かりが問題になる可能性を認識している。
ビューラー氏によれば、米The Walt Disney Company(以下、Disney)は、気掛かりにもなり得る徹底したデータ収集を行っている。Disneyは「マジックバンド」というRFID(非接触型ID)リストバンドを使ったIoTデバイスを生み出した。このマジックバンドは家族または来場者に配られる。Disneyは総額10億ドルをマジックバンドに費やしている。バックエンドには、来場者のデータを格納するデータベースと人工知能を備えたシステムが用意されている。また、複数のRFIDの塔が、巨大なパークの至るところにいる来場者のマジックバンドのデータを読み取る。
「このデバイスが、乗り物のチケット、クレジットカード、ホテルのルームキーとなる。また、Disneyのサーバにデータを送るパイプのような役割も果たす。ただ、1つ考えてみてほしいことがある。送信される情報にはあらゆる個人データが含まれる。つまり、Disneyに丸裸にされるようなものだ」(ビューラー氏)
同氏は、このような顧客情報を蓄積することで生まれるメリットだけでなく危険性にも言及している。Disneyは運営を合理化し、来場者の嗜好に合わせたサービスを提供できるようになる。だが、このデバイスは大量の情報を生成するため、Disneyが情報に対して負う責任は大きくなる。データを保護して情報漏えいを防ぐだけでなく、収集した情報を使って来場者を操作しないようにすることが求められる。
ビューラー氏によれば、Disneyは食べ物やエンターテイメントなどに関する来場者の嗜好に基づいて数値をはじき出すことが可能である。その可能性は無限大だ。今では、データに基づいて来場者をパーク内で誘導することもできる。「混んでいる乗り物と空いている乗り物を特定し、その情報を基にパークの交通整理を行うことができる。全てを少しずつ調整して、最適な状態にすることが可能だ」とビューラー氏は語る。また、Disneyがさらに進化することも可能だとビューラー氏は考えている。例えば、パークに来場した車の中から高級車を精査し、その家族の豊富な資金に見合う形で、後から要望に応えることができる。
さらに、データに基づいて消費者の好みが操作される可能性があることも不安の種となっている。例えば、米Facebookは、2012年にユーザーから特定の感情を引き出すことを試みたが、強い反感を買う結果となった。Facebookのデータサイエンティストが、アルゴリズムを使って、ポジティブあるいはネガティブな感情に関連するコンテンツを数十万人ものユーザーのニュースフィードから除外していたのだ。
IoTデバイスの登場により、この膨大な量のデータを格納して送信する必要が生じるため、ストレージやネットワークの要件も変化することが予想される。ビューラー氏は、このようなデバイスを管理するための規格を策定し、業界全体がそれに合意する必要があると話す。業界全体が協力せずに争っている状況では、泥棒やハッカーにチャンスを与え続けることになるだろう。
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