「Windows Server 2003」からの移行は決して容易な作業ではない。だが、移行を先延ばしにする方がはるかに費用は掛かる。ではどうすればいいのだろうか。専門家の意見を基に考察する。
米MicrosoftのサーバOS「Windows Server 2003」がサポート終了まで半年を切った。同OSをいまだに使っている企業は、新しいプラットフォームに移行するか、有償のカスタムサポートを受けるかの決断を迫られている。
ITサービス企業の米Insight EnterprisesでMicrosoftソリューションを担当するデビッド・メイヤー氏は「移行作業に着手しておらず、代替案も用意していない顧客企業には常々、カスタムサポートの費用がどれくらいになるか、Microsoftに問い合わせて確かめるべきだと話している。カスタムサポートに掛かる費用が分かれば、恐らくすぐにでも移行に向けて行動を起こす気になるはずだ」と語る。なお、Insight Enterprisesでは、Windows Server 2003からの移行を支援する「迅速対応チーム」を設置している。
Windows Server 2003のサポートが終了する2015年7月15日までにサーバの移行を済ませられない大口顧客に対して、Microsoftではカスタムサポート契約(CSA)を提供する。同社広報担当者によると、CSAの料金はサポートの継続を必要とするインスタンスの数など、顧客によって異なるという。
独立系のMicrosoftライセンスコンサルティング企業である米Pica Communicationsでプリンシパルコンサルタントを務めるポール・デフロート氏によれば、CSAの1年目の通常料金はサーバ1台当たり600ドル前後だという。これは、Windows Server 2003がリリースされた2003年当時の大口顧客向けライセンス価格(565ドル)を上回る金額だ。
例えば、Windows 2003サーバを1000台稼働させている企業の場合(実際、その何倍もの台数を保有する企業は少なくない)、CSAの料金は1年目で60万ドル、2年目で120万ドル、3年目で240万ドルになる可能性がある。
「実際にあり得る話として、Windows 2003サーバを5000台稼働させている企業の場合、向こう3年間で2100万ドルのサポート費用を支払う計算になる」と、デフロート氏は語る。
Windows Server 2003が安定したOSであることや、OS移行の影響でアプリケーションが正常に動作しなくなることへの懸念なども影響し、Pica Communicationsでもまだかなりの数の顧客がWindows Server 2003を使っているという。
「Microsoftに何百万ドルかを支払って数年の移行猶予を得たとしても、アプリケーションの作り直しや入れ替えにさらに数百万ドルを費やすことになる。2003年当時にできたことをこの先も実行できるようにしたいがためにである。現在の快適な状態を維持するためだけに多額の費用が掛かる」(デフロート氏)
費用を少しでも抑えたいという場合は、最初の1年だけCSAを利用し(1年目の料金は割安で、セキュリティ更新プログラムが提供される可能性も若干高い)、2年目以降はインシデント制で有償の「エッセンシャルサポート」に切り替えるというやり方もあるという。この契約であれば、企業は更新プログラムが適用されるサーバに対してのみ料金を支払えばいい。
「この選択肢はお勧めだ。更新プログラムの多くは、特定のシステム構成やソフトウェア、ハードウェアが組み合わさった場合にのみ必要となるからだ」と、同氏は指摘する。
2014年には、25件のWindows Server 2003に関するセキュリティ更新プログラムが配信された。サポート終了後もそのままWindows Server 2003を使い続けようと考えるIT管理者もいるかもしれないが、メイヤー氏によれば、それは初めから負けると決まった賭けだという。
「完全にサポートの切れた状態で使い続けることは、全く奨励できない。自ら問題を招き寄せるようなものだ」、とメイヤー氏は話す。
Windows Server 2003の移行問題に直面している企業はかなりの数に上る。Microsoftによると、現在、同OSを稼働するサーバの台数はおよそ2000万台に及ぶという。
Windowsの移行支援サービスを提供する米Infront Consulting Groupの最高経営責任者(CEO)であるローリー・マッコウ氏によると、顧客の8割以上が社内環境でいまだにWindows Server 2003を使用している。そうした企業では、コンプライアンスに関わるアプリケーションを中心に多くのプロジェクトが進行中だという。
多くの企業がOSの移行を先延ばしする理由の1つは、Windows Server 2003が特に問題なく動作しているからだ。加えて、プラットフォームの刷新はできれば避けたい、気乗りのしない作業という認識がある。
「Windows XPの移行に取り組んだときの後遺症がまだ残っている。大規模企業にとっては非常に大変な作業だった。その苦労をまだ引きずっている」とメイヤー氏は語る。
Windows XPのサポート期限がかつて延長されたように、Windows Server 2003のサポート期限も延長されるのではと期待しているIT部門もあるかもしれない。だがメイヤー氏によれば、そうした措置はなさそうだという。
既に「Windows Server 2008」でインフラの統一を進めている企業は、同OSに移行することになるのだろうが、メイヤー氏によれば、大半の企業は「Windows Server 2012 R2」に移行することになるという。
米TechTargetが世界各国の2212人のIT従事者を対象に実施した「2015 IT Priorities Survey」(2015年IT優先度調査)では、2015年の主要プロジェクトの1つとして、北米では39%、全世界では30%の回答者が「Windows Server 2012へのアップグレード」を挙げている。
Microsoftでクラウドエンタープライズ部門担当製品マーケティングディレクターを務めるスコット・ウッドゲート氏によれば、企業が今後、アプリケーションのモバイル対応を考えているのであれば、クラウドサービス「Microsoft Azure」あるいはWindows Server 2012 R2に移行すべきだという。Windows Server 2012 R2はクラウド利用への足掛かりとなる。
「Webアプリには、クラウド環境が向いている。特にAzureは、全世界19カ所(リージョン)にデータセンターを設置しており、オンプレミスにはないスケーラビリティがある」と、同氏は語る。
ただし、クラウドへの移行は誰にでも適しているわけではない。Infront Consulting Groupのマッコウ氏はそう指摘し、次のように続ける。
「誰もがビジネスの変革を目指しているわけではない。システムをできる限り効率的に稼働できれば十分という考えだ。多くの人たちにとって、それはオンプレミスで使い慣れたサーバを使い続けることを意味する。その方が学習曲線も短い」
Microsoftも、Windows Server 2003の移行先は大半がオンプレミスだと語っている。
システムインテグレーター(SIer)も同じ意見だ。
「Windows Server 2003のオンプレミス環境から、クラウド環境への移行はあまり見られない。大半はオンプレミスのWindows Server 2012 R2に移行している。そこからの方がクラウドにも移行しやすい。つまり、いったん最新の安定した状態を確保してからということだ」とメイヤー氏は語る。
メイヤー氏によれば、Windows Server 2003からの移行を先延ばしにしてきたIT部門は、この移行がこれほど難しいものだとは思っていなかったという。
「アーキテクチャが変化しているので、単純にWindows Server 2008やWindows Server 2012 R2へ移行だけするというわけにはいかない。大抵の場合、物理サーバの約4分の1を最新機器に入れ替える必要があるようだ」(同氏)
移行計画の策定やサーバ資産の棚卸し、業務プロセスへの落とし込み、作業負荷に基づくサーバ移行難易度の分類といった作業は、ITコンサルタントから支援を受けることができる、とメイヤー氏は付け加える。移行のスケジュールは、64ビット版アプリケーションの有無や、アプリケーションベンダーが廃業していないかといった要素によっても違ってくるという。
Microsoftが無償提供する「Microsoft Assessment and Planning Toolkit」(MAP Toolkit)をはじめ、米AppZeroや英Zynstraなどのサードパーティー製ツールなど、統合プロセスを支援する移行ツールも幾つか提供されている。
「こうしたツールは役に立つ。ただし、決して特効薬ではない。移行計画に必要なことを全てやってくれるわけではない」(メイヤー氏)
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