買収後に背負う負担の大きさを危惧
IBMのRed Hat買収がオープンソースのコンテナ管理に及ぼす影響
IBMのRed Hat買収ではIT管理ツールなどの幅広い分野が影響を受ける。中でもオープンソースのコンテナ管理技術コミュニティーへの影響は大きく広がりそうだ。
IBMは340億ドルといわれる今回のRed Hat買収について「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)が提供するKubernetesサポートが主な動機だとしている。2018年10月、IBM関係者はKubernetesを同社の新しいマルチクラウドとハイブリッドクラウド戦略の柱にする考えを明かした。
IBMのハイブリッドクラウド担当シニアバイスプレジデントを務めるアルビンド・クリシュナ氏はWebセミナーで「KubernetesはLinuxコンテナの共通ファブリックとして当社のハイブリッドクラウド戦略の中核となる」と語った。
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危惧されるオープンソースの文化、一方ではリスクも指摘
Red Hatのプロダクトとテクノロジー担当プレジデントを務めるポール・コーミア氏は同じWebセミナーで、IBMの営業チームと販路はOpenShift機能開発の推進力になると付け加えた。
一方、Red Hatユーザーやオープンソースのコンテナ管理技術コミュニティーの間には動揺が広がっている。
IBMのような硬い営利企業に買収されたら、Red Hatのオープンな文化が変わってしまうのではないかと危惧する声もある。
旅行関連技術を扱うAmadeusでは早くからOpenShiftを利用している。同社のアーキテクチャ、品質、ガバナンス担当バイスプレジデントのディートマー・ファウザー氏は次のように述べる。「Red Hatで働く人に不満が起これば、その人材をつなぎとめるのが難しくなる。オープンで先進的な社風はRed Hatの良さであり、IBMがそれを維持してくれることを願っている」
オープンソース文化の危機
IBMは、買収後もRed Hatの独立性を維持し、その製品ロードマップや文化は変わらないと強調している。しかし、オープンソースコミュニティーには、そのような約束を信用するには時間がかかるという見方が多い。
IT業界の関係者たちは、豊富な特許を利益に変えてきたIBMの歴史を指摘する。
「Red Hatでは多くの人が知的財産権の分野で所有権の主張と戦っている」とファウザー氏は話す。
さらに、63%もの特別料金を上乗せした買収によって、IBMが背負う債務と信用の格付けに対する不安がある。IBMはその債務を埋めるためにRed Hatから収益を搾り取ろうとするのではないかと心配する声もある。
「IBMが買収後に背負う負担はあまりにも大きく、市場における立場を盾にRed Hatのライセンス規約を変更して、顧客に新しい価値を提供しないまま収益を上げざるを得なくなるのではないか」そう話すのは大企業向けコンサルティング業務を担うPolodisのCEO兼主席コンサルタントのジェレミー・ピューレン氏だ。
IBMは「Red Hatを分割して同社のビジネスに組み入れるようなことはしない」と述べているが、一部の顧客は不安視している。
ある製造会社のソリューションアーキテクトを務めるジェームズ・アンダーソン氏は、Red Hatは分割したら駄目になると心配している。「そんなことになれば、オープンソースコミュニティーはGoogleなどの別の企業に支援を求め、Red Hatの文化は存続できなくなるだろう」
Red Hatの分割がないとしても、アンダーソン氏の会社のようにRed HatとOpenShiftを長く利用している企業にはIBMに対する抵抗感がある。
「IBMによる投資や世界中のIBM顧客の存在によってRed Hatの商機が広がるのは喜ばしい。しかし、Red Hatの存続にとって重要なパートナーシップやコミュニティーをIBMが壊してしまわないか心配だ。これまで長い間、IBMのメインフレームを遠ざけてきただけに、IBMを受け入れることには抵抗感がある」(アンダーソン氏)
Cloud Foundryへの影響
IBMはオープンソースのPaaS(Platform as a Service)ソフトウェアの「Cloud Foundry」をベースとするサービス「IBM Bluemix」を主力から外し、2017年3月発表の「IBM Bluemix Container Service」を「IBM Cloud Kubernetes Service」に改称した。IBMのクリシュナ氏は、IBMのパブリッククラウドで立ち上げる新しいアプリケーション向けの主力基盤はIBM Cloud Kubernetes Serviceだと述べ、Cloud FoundryとBluemixの既存顧客へのサポートは継続すると付け加えた。
Cloud FoundryのPaaSコミュニティーに参加している企業はIBMだけではない。Cloud FoundryとKubernetesを統合する作業にはVMwareやクラウドベンダーのPivotalなどが参加している。Cloud Foundryの顧客には情報サービスを扱うBloombergなどの大企業もあり、他のCloud Foundry支持者たちは、Red Hatの買収でIBMの強い支援を失ってもコミュニティーは繁栄を続けられるという。
カーシェアリングサービス会社ZipcarのIT運用ディレクターのアンディ・ローズクイスト氏は次のように話す。「IBMは中心となるCloud Foundry開発者たちを採用しており、短期的には今後もその方針は変わらないと思う。IBMの一部の企業顧客向けにCloud Foundryの技術は継続して必要だが、同社の中では既にCloud Foundryはビジネスの中心ではないようだ」
ただIBMがRed Hatを買収してKubernetesに焦点を移せば、間違いなくオープンソースのコンテナ管理基盤としてのCloud Foundryに影響を及ぼす、と業界関係者は予想する。
調査会社IDCのアナリスト、スティーブン・エリオット氏は「今回の買収でCloud Foundryが受けるプレッシャーはさらに増す。巨大な競争相手と戦わなければならなくなる」と話す。
Polodisのピューレン氏はオープンソースコンテナ管理市場をクライアント側のWebブラウザ市場と比較して次のように語った。
「かつては市場優位性を争う戦いだったが、目的適合性を争う戦いに変わった。サーバ側にも同じことが起こるのではないか。他の参戦企業はオープンソースのソフトウェア基盤である『Cloud Native Computing Foundation』(CNCF)に従うか、さもなければ同等のエコシステムを提供するしかないだろう」
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