頼りにされるが扱いは軽い 時代遅れのCIOからどう脱却する?企業のデジタル化の要はIT部門

最高情報責任者(CIO)の過半数は、社内のITの事務管理を中心にする「頼りになるオペレーター」状態から抜け出せていない。企業のデジタル化を進めるには、CIOが自身の役割を変えなければならない。

2019年01月15日 05時00分 公開
[Nicole LaskowskiTechTarget]

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 自社のデジタル戦略の最前線に立っていない最高情報責任者(CIO)は、時代に取り残される危険性がある。さらにそのようなCIOは、自身が率いるIT部門も危険にさらすことになる。

 このメッセージはIT幹部にとっては目新しいものではない。なぜならここ数年IT幹部は、デジタルトランスフォーメーションの推進役を担うよう求められているからだ。Deloitte Consultingが最近発行したグローバルCIOサーベイによると、CIOはこうした切り替えに苦労しているようだ。調査に回答したビジネスリーダーとテクノロジーリーダーの55%が、CIOは自社の業務の効率化、信頼性の獲得、コスト削減に重点的に取り組んでいると答えている。

 調査レポートの共同執筆者であるクリスティー・ラマー氏は、Deloitte Consultingのマネージングディレクターで、米国CIOプログラムの責任者を務めている。同氏はCIOの役割に就いているIT幹部に対し、この調査結果を警鐘と捉え、「頼りになるオペレーター」という役割から今すぐに抜け出すべきだと言う。

 「CIOがデジタル化を先導しなければ、頼りになるオペレーターという役割から逃れられなくなる。このままではIT部門はテクノロジーを駆使してビジネスを行うところではなく、事務管理部門に変わってしまうだろう。変化のペースは速い。すぐにでも取り掛かる必要がある」(ラマー氏)

デジタル化への着手

photo クリスティー・ラマー氏

 Deloitteの『Manifesting legacy: Looking beyond the digital era』(レガシーの明確化:デジタル時代の先を見越して)は、複数年にわたってCIOのレガシーを調査した3部構成のCIOサーベイシリーズの最終回だ。このシリーズは、CIOとビジネス部門のリーダーが、CIOの役割をどのように認識していたかを年代順に記録し、デジタルトランスフォーメーションを背景にCIOが会社にもたらしてきた価値を調査している。

 シリーズの第一部で、執筆陣は以下の3種類のCIOパターンを考案している。

  • 事業の共同創作者:事業戦略を推し進め、その戦略を遂行するために社内の変化を実現するCIO
  • 変化の立役者:会社のためにデジタルトランスフォーメーションの取り組みを先導するCIO
  • 頼りになるオペレーター:CIOの従来の役割内で業務を行い、業務の効率化、信頼性、コスト削減の取り組みを重視するCIO

 執筆陣は調査結果に基づいてこう結論付けている。CIOは、会社から求められることに応じて、3つの役割の間を行き来することが想定される。しかし1437人のテクノロジーリーダーとビジネスリーダーを対象にした2018年のCIOサーベイでは、こうしたことはほとんど起きていないことが示されている。「頼りになるオペレーターの役割から抜け出したCIOは多くない」とラマー氏は言う。

 実際の調査でも、CIOの44%はデジタル戦略の策定や遂行を主導していないと答えている。

 CIOが頼りになるオペレーターの役割から抜け出せていないのは、CIOだけの責任ではない。ラマー氏によると、企業は依然としてCIOを頼りになるオペレーターと見なしており、そうなることを求めているという。しかしCIOは、責任を持ち情報システムの優れた運用を実現しながら、会社がビジネス部門主導でテクノロジーに取り組むという、時代遅れの方法をとらないように支援しなければならない。

 全ての企業をテクノロジー企業と捉えるより新しい考え方がある。CIOは頼りになるオペレーターの役割を誰かに譲る必要がある。そして会社最高位のテクノロジー専門家として、先頭に立って事業戦略を推し進めることが求められる。

 「CIOは頼りになるオペレーターの役割を部下に任せるべきだ。そうすることで、もっと事業戦略的なことや、ビジネス部門のパートナーになることに時間と労力を集中できる」(ラマー氏)

話し合いの席に着く

 ラマー氏によると、頼りになるオペレーターがデジタル化の先導役に変わるには、話し合いの席に着き、IT部門に対する会社の認識を改めさせる必要があるという。同氏が提案したのは、経営陣との間で信頼と関係性を築いて、自身を会社のテクノロジーエバンジェリストとして位置付けることだ。

 ラマー氏は「CIOはその場において最も賢明であることが求められる。社内のビジネスリーダーを積極的に教育し、情報を伝えることで、テクノロジーに精通した人材へと変える必要がある」と説明する。

 頼りになるオペレーターは、ビジネスリーダーとのテクノロジーに関するあらゆる会話を、その関係性を作り直す機会と見なすことから始める。

 経営陣や取締役会からテクノロジーの投資について意見を求められたら、CIOは新しいテクノロジーを使うことの重要性を認識させる方法を探るべきだ。テクノロジーによって、どのような形でビジネスの成果が後押しされるかを説明することが有効だ。こうすることで、CIOはビジネスのサポートを続けながら、「可能なことを実行し、ただの言いなりにはならない術を議論に持ち込む」のだとラマー氏は言う。

「デジタル先駆者」になる

 多くのCIOは、自社を「デジタル先駆者」にすることを望んでいる。Deloitteのいうデジタル先駆者は、明確なデジタル戦略があり、新しいテクノロジーの面で市場のリーダーとなる企業を意味する。

 ラマー氏によると、同氏と共同執筆者が「デジタル先駆者」と認めた企業は調査対象のうち10%にも満たないという。デジタル先駆者には共通した幾つかの特徴がある。まず、企業の全部門に及ぶデジタル戦略がある。多くの場合、CIOを始めとするIT部門がデジタル戦略の遂行を主導している。

 デジタル先駆者企業のCIOは、一部のIT予算を運用コストからイノベーションへと変える方法を見つけている。CIOサーベイによると、標準的な企業ではIT予算の約56%を事業運営に費やし、18%を事業のイノベーションに投じている。それに対し、デジタル先駆者企業はそれぞれ47%と26%の予算を費やしているという。

 デジタル先駆者企業のCIOは人材を重要視する。そのため、定着率と、組織関連の価値ある知識を備えた従業員を会社に合うように再編成する方法について考えている。また成熟した人材の雇用を求めており、人間関係を適切に維持するなど、ソフトスキルを発揮できる従業員を必要としているとラマー氏は言う。

 ほとんどのCIOにとって人材は最大の関心事だ。デジタル先駆者企業では、人材を引きつけ、つなぎ止めるために、継続的な学習と事業への関与に適した環境作りの方法を見いだしている。デジタル先駆者企業とそうでない企業との間にある差は、縮めるのが特に難しいとラマー氏は考える。「従業員の新しい取り組み、新しいツールの利用、新しいテクノロジーの採用を受け入れたり、機会を提供したりする。デジタル先駆者の企業にはこうした文化が出来上がっていることが多い」(ラマー氏)

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