「5Gで通信が高速化する」という理解だけでは5Gの可能性は語れない。5Gを活用すると各業界はどのように変化するのか。何が実現するのか。各業界の専門家が5G時代を予想した。
2019年、英国初の5Gネットワークが稼働した。GSM Association(携帯電話の業界団体)による最近の予測では、2025年までに14億以上の接続が5G化するという。5Gは高速化だけでなく、容量の増加や低レイテンシも保証する。
拡張現実(AR)や自動運転車など、数多くの興味深い技術を実現する可能性が高いとされているのが、このレイテンシの短縮だ。
5Gは将来的に金融サービスの迅速な取引から製造業者の製造・流通方法に至るまで、ビジネス運営に変革を起こすだろう。だがそれは一晩で成されるわけではない。そう話すのは、Infosys ConsultingのCIO(最高情報責任者)アドバイザリーの英国担当リーダーを務めるハリー・チマ氏だ。
5Gが実現するであろうアプリケーションの多くはまだ開発の初期段階にあることを考えると、ビジネスリーダー(特にCIO)は「速度のニーズ」については疑問視しなければならないと同氏は語る。
誇大宣伝の風潮はさておき、企業や業界の関心を集め、導入に至るのは果たしてどのようなアプリケーションなのだろうか。
5Gによって、より高度なインテリジェントオートメーションが普及する。その結果、ロボットの使用にとどまらず、産業、セクター、国境を越えたサプライチェーンを完全に統合できるようになる。そう語るのは、CGI UKで通信会社担当のコンサルティングディレクターを務めるアンドリュー・パルマー氏だ。
「個々の部品や配送もサプライチェーン全体の中で追跡できるようになり、供給と物流のプロセスの効率が大幅に高まる。個々の産業に及ぶ影響はユースケースと得られる結果によって異なるが、データの統合と共有が強化され、サプライチェーンがより円滑になるというのが一般的な傾向だ」(パルマー氏)
5Gは真にインテリジェントな輸送システムを実現する。自動運転車の開発に役立つ他、輸送部門が直面する問題(交通渋滞、公害、衝突など)に対処できる。
例えば5Gによって、車両同士がネットワークを経由せずに直接通信できるようになる。これによって交通渋滞や遅延を防ぐことが可能になる。自動運転車は、衝突、天候、道路事故など、変化する状況を他の車両に警告できる。
「自動運転車は『隊列』(特定の時間に、同じ方向に進む車の一群)の中で相互に接近して運転することが可能になる。結果、道路上の安全性が高まると同時に交通の流れが最適化される」と話すのは、Gemaltoで5G専門のバイスプレジデントを務めるブノア・ジョフリー氏だ。
同氏によると、5Gは都市インフラ(センサー、信号機、カメラ、ドローンなど)と車両の通信も可能にするという。現時点での問題は、既存のシステムが使用するワイヤレス技術が断片化されていることだ。5Gは通信を統合してレイテンシを直接短縮するだけでなく、現状では不可能なインテリジェントアプリケーションも実現すると予想される。
「例えば、数年前にカーネギーメロン大学(米ペンシルバニア州ピッツバーグ)がその時点の技術を使ってスマートトラフィックの実験を行ったところ、走行時間が40%、汚染物質の排出が20%削減されることが分かった」(ジョフリー氏)
エネルギー分野での5Gの主な用途は、単一の通信「ネットワークのネットワーク」を提供して、スマートグリッドと需要側でのエネルギーの柔軟性が標準になるようにすることだ。CGIのパルマー氏によると、グリッドをリアルタイムにモデル化できるようになれば、いつでも適切なレベルの供給を実行するように自動化できるという。
「エネルギーグリッドは、電力を生み出す製造工場と考えることができる。つまり、製造業における全ての考え方をエネルギーにも適用できる」とパルマー氏は話す。
「例えば送電網、発電所、変電所のデジタルツイン(訳注:物理世界をデジタル上に再現すること)、マクロ/ミクロレベルでの電力消費の効率的な監視、需要をリアルタイムに満たすための効率的な発電、オフグリッド電源(自動車、太陽光パネル、風車など)と電力供給エコシステムのシームレスな統合が可能になる」
後編(Computer Weekly日本語版 11月20日号掲載予定)では、小売業とVR/AR、農業、自動運転者やAIへの応用例を検討する。
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