バイオ、医療、建設業の事例に学ぶ
社内デスクトップPCの持ち帰りも 3社が語る「テレワーク長期化」対策とは?
新型コロナウイルス感染対策としてのテレワークは長期化が避けられない。新しい働き方に備えるために、IT部門はどのような対策を取るべきなのか。バイオテクノロジー企業、医療機関、建設企業の事例を紹介する。
バイオテクノロジー企業のWave Life Sciencesは、2019年ごろにVPN(仮想プライベートネットワーク)の回線容量(帯域幅)拡大やライセンス追加といったネットワークの増強に加え、業務アプリケーションのクラウド化を実施した。そのため新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック(感染症の世界的な大流行)への対処として、約250人の従業員に在宅勤務などのテレワークを義務付けることは容易だった。ただしテレワークが長期間にわたるとなれば、対処しなければならない問題はまだある。
「従業員がデスクトップPCやモニター、ドッキングステーションを自宅に持ち帰りたいと要望しており、新たな課題になっている」と、Wave Life SciencesのIT部門を統率するアンソニー・ムラビト氏は語る。従業員は、オフィスのワークスペースを自宅で再現したいと考えるが、機密情報を扱う場合には大きなリスクを伴う。そのため、このような要望は必要性に応じて個別に承認しているという。
企業は全ての端末や機器の在庫を管理し、オフィスから搬出する際は追跡できるようにして、適切なセキュリティ対策を取る必要がある。従業員宅に搬入した後は、ネットワークやプリンタの設定なども適切に実施しなければならない。
いま企業のIT部門は、大雪やハリケーンなどの自然災害発生時に必要になる短期的なテレワークの対策から、長期的なテレワークの対策へとシフトしている。テレワークが長期化する中で、生産性を維持するための支援を検討しなければならない。
事例に学ぶ「テレワーク長期化」への備え
マイアミにある医療機関ChenMedは、約60カ所の高齢者保健センターを運営している。同社はパンデミックの期間中、約2500人の従業員にオフィスで使用しているデスクトップPCを持ち帰ってもらうことを検討している。患者との応対をはじめとした業務を継続してもらうためだ。「従業員の自宅でデスクトップPCをセットアップするとなると、その支援は複雑だ。それでも自宅の古いPCを使用するのではなく、最新のPCを利用してもらいたい」と、同社CIO(最高技術経営者)のヘルナンド・セラーダ氏は語る。
「患者の間に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の集団感染の兆候が現れ、従業員がテレワークをする必要が生じた場合は、この戦略によって業務を継続できる」とセラーダ氏は語る。ChenMedの従業員が業務を継続するためには、Amazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群で稼働しているアプリケーションを使い、患者データを参照する必要がある。そのためのPCが求められる。さらに患者との応対や同僚との会議のために、RingCentralのユニファイドコミュニケーションサービスを利用することも必要だ。
ChenMedが利用するアプリケーションとデータはSaaS(Software as a Service)またはIaaS(Infrastructure as a Service)で利用できるようにしている。こうしたクラウド化は、同社がある地域でハリケーンが頻繁に発生することを受け、その対策として実施していたものだ。
新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが長期化すれば、新たな問題が生じる。AWSで稼働しているアプリケーションにアクセスするために、平時をはるかに超える数の従業員がVPNを利用する可能性がある。ChenMedはその対策としてVPNのライセンス数を追加した。「VPNを増強する際はVPNゲートウェイをアップグレードしなければならないケースもある。当社の場合は、AWSのダッシュボードで設定を変更するだけで対処できた」とセラーダ氏は語る。
建設企業のMiron Constructionにはテレワークに不慣れな約800人の従業員がいる。同社は、従業員の約半数を対象にしてテレワークの準備を開始した。IT部門は従業員のPCにインストールしたVPNクライアントの設定、テレワークで3D(3次元)モデリングソフトウェアを利用するために必要な従業員宅のWANの要件などを検討する必要がある。
VPNクライアントが古くなっている場合は、アップデートを適用すればよい。一方で従業員宅のWANの帯域幅が十分ではない場合はIT部門だけでの対処は難しい。通信事業者も含めて検討しなければならない。」従業員の家族全員が自宅にいて、それぞれが仕事や学校の課題、動画の視聴などにWANを使用している場合は「標準的な家庭向けのWANでは帯域幅が不足する」と、Miron Constructionの技術部門を統括するエドワード・ルフォロ氏は懸念する。
ルフォロ氏は、パンデミックの間はテレワーカーの生産性の維持を優先すべきだと考えている。「当社は従業員の自宅のWANには直接関与しないが、テレワークに必要な支援は実施する必要がある」と同氏は語る。その上で同氏が必要だと考えているのはIT部門が従業員のPCを遠隔操作できるようにするツールだ。「従業員のPCで起きている問題を診断して解決するために必要だ」同氏は説明。加えてIT部門と従業員が明確にコミュニケーションを取ることも重要だと付け加える。
Miron Constructionは従業員に対してテレワークを奨励する前に、自宅にPCを持ち帰り、VPNへの接続テストを実行し、アプリケーションの動作とデータの利用が可能なことを確認するよう促した。
パンデミック対策で必要なIT部門の隔離
パンデミックにおいてはIT部門がどのような体制で従業員を支援するかも検討しなければならない。Wave Life Sciencesは、IT部門のメンバーがオフィスに集まらないようにするルールを制定したという。「事業継続計画(BCP)では、単一障害点を特定する必要があると言われている。小さなIT部門だが、全員が休めば致命的な問題になる」とムラビト氏は語る。IT部門はテレワークでの業務遂行が可能なため、物理的には会わないようにしているという。
従業員に対するサービス提供の遅れを防ぐために、Wave Life SciencesのIT部門は、メンバーのスキルと社内システムへのアクセス権限などを調査した。そして従業員から出てくる要望をチケット化して集約するようにした。こうすることでIT部門はどのようなニーズがあるのかを全て把握し、適切に対処できるようになった。
Wave Life Sciencesは、出社が必須ではない従業員にはテレワークを推奨している。一方でラボと製造部門の従業員は出社が必要なため、ローテーションで出社する体制にした。「事業全体において特に重要なラボと製造の2つの機能を中心にBCPを進化させ続けている」とムラビト氏は語る。「テレワークによるパンデミック対策はまだ初期段階だが、IT部門が必要なツールと支援を提供すれば、ほとんどの従業員がオフィスと同じように自宅でも生産的に仕事ができるようになる」(同氏)
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