ユーザー企業はIaaSやPaaSといったクラウドサービスを導入するときに、ベンダーロックインの心配をしなくなりつつある。その背景には何があるのか。
製品やサービスを利用したときに起こるベンダーロックインは長年警戒されてきた。クラウドサービスが普及する中、ユーザー企業は以前ほどベンダーロックインを恐れなくなりつつある。ベンダーロックインが問題になるのは、導入したベンダーの製品やサービスに不満があっても、簡単に他社の製品やサービスへ乗り換えることができない場合だ。オープンソース技術の利用の広がりによって、クラウドサービス間の移行が簡単とは言えないものの可能になってきたことが、ベンダーロックインに関する意識変化の背景にある。
S&P Global Market Intelligence傘下の調査会社451 Researchでリサーチ担当バイスプレジデントを務めるメラニー・ポージー氏によると、クラウドサービスを導入したくない理由の中で、ベンダーロックインは少しずつ順位を落としている。ユーザー企業はセキュリティやコスト管理ほど、ベンダーロックインを問題としなくなってきたという。
ポージー氏によると、451 Researchが実施した調査では、IaaS(Infrastructure as a Service)とPaaS(Platform as a Service)のベンダーロックインを「非常に懸念している」と回答した組織は10%で、「やや懸念している」と回答した組織は32%だった。「ベンダーロックインの課題があると言われていても、それがクラウドサービスを導入しない理由にはなっていない」とポージー氏は説明する。
ユーザー企業にとってクラウドサービスは身近な技術になりつつあり、ベンダーロックインに関する考え方も変化した。アプリケーション開発の俊敏性を高めることを優先し、ベンダーロックインをあまり不安視しない傾向が強まっている。
ベンダーロックインの問題は珍しい話ではない。オンプレミスのデータセンターを持つ企業にとって、長期に及ぶサーバの保守契約と有償ソフトウェアライセンスの契約は、長年の悩みの種だった。ハードウェアやソフトウェアの調達・保守が不要なクラウドサービスの登場によって、ユーザー企業はこうした問題からいったん解放された。
その後さらに、クラウドサービスにおけるベンダーロックインの不安を軽減する、移植性の高い「Docker」や「Kubernetes」などの新しいコンテナ技術が誕生した。こうした技術を使って複数のクラウドサービスで同じアプリケーションをホストして、ベンダー同士を競わせれば、有利な契約を引き出せると考えるユーザー企業もある。ただしこれは現実的ではない。
「そんなことで決定権を握ろうとしても無駄だ」と、主要クラウドサービス群である「Amazon Web Services」(AWS)と「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」のオンライントレーニングコースを提供するA Cloud Guruで、クラウドトランスフォーメーション担当シニアバイスプレジデントを務めるドリュー・ファーメント氏は話す。「それは電力会社3社を自宅に呼んで有利な料金を引き出そうとするようなもので、全く意味がない」(ファーメント氏)
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