「Microsoft 365」のバックアップはなぜ複雑か アプリの多彩さが落とし穴にバックアップと復元で起こりがちな問題

「Microsoft 365」にはさまざまなアプリケーションを利用できるメリットがあるが、バックアップが複雑になりやすいことに注意が必要だ。具体的にどのような問題があるのだろうか。

2021年06月01日 05時00分 公開
[Brien PoseyTechTarget]

 サブスクリプション形式のオフィス製品群「Microsoft 365」(Office 365)はアプリケーションの種類が充実している半面、それがバックアップにおいては弱点になる。データ復元時の注意点もある。

アプリケーションが豊富な分、バックアップと復元が不十分に

 企業のIT担当者がMicrosoft 365のバックアップで直面する大きな問題は、全てのアプリケーションを対象にしたバックアップツールが、あまりないことだ。

 ほとんどのバックアップベンダーは、

  • クラウド型メールサーバ「Exchange Online」
  • ファイル共有サービス「SharePoint Online」
  • オンラインストレージ「OneDrive for Business」

といった主要なアプリケーションをデータ保護の対象にしている。

 バックアップベンダーはユニファイドコミュニケーションツール「Microsoft Teams」もデータ保護の対象として、自社のバックアップツールに機能を追加し始めている。一方で社内SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「Yammer」やタスク管理ツール「Planner」など、その他のアプリケーションを対象にしたバックアップツールはほとんどない。

 Microsoft 365では基本的にはExchange Online、SharePoint Online、OneDrive for Businessのいずれかにアプリケーションのデータを保存する。そのため理論上はこの3つのアプリケーションのデータをバックアップすれば、他のアプリケーションのデータもバックアップできることになる。ただし専用のバックアップツールがないアプリケーションは、データの復元作業が複雑になる場合がある。

 ディレクトリサーバ「Active Directory」のドメイン(ユーザーやデバイスなどの管理単位)がMicrosoft 365のバックアップにおいて問題になることもある。ほとんどの企業は、Microsoft 365にActive Directoryの1つのドメインを同期させている。一方で大企業など一部の企業はMicrosoft 365に複数のドメインを同期させていることがある。バックアップツールによっては複数のドメインを対象にできない場合がある。

 同様に、複数のテナント(組織のアカウント)を運用するマルチテナントでMicrosoft 365を利用する場合にも問題が発生することがある。ベンダーのバックアップツールは通常、1つのサービスアカウントでMicrosoft 365の1つのサブスクリプション(Microsoft 365の契約)に接続する。Microsoft 365がマルチテナントになる場合は、複数のMicrosoft 365のサブスクリプションが存在することになる。一部のバックアップツールは1つのサービスアカウントでMicrosoft 365の複数のサブスクリプションを扱うことができない。

RPOやRTOが長くなる

 Microsoft 365のバックアップに関するもう一つの課題は、Microsoft 365以外のデータと同程度のRPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)を達成できない場合があることだ。

 データのバックアップに、変更点を自動的に保存する「CDP」(継続的データ保護)の手法を採用している企業は少なくない。CDPは夜間にバックアップを取得するのではなく、新しいデータの作成とほぼ同時にそのデータのバックアップを作成する。

 Zerto、Arcserve、HubStorといった一部ベンダーのバックアップツールはCDPを採用している。だがこうしたベンダー以外のほとんどのバックアップツールは、単純なスケジューラを使用している。スケジューラを使う場合はMicrosoft 365のバックアップは1日1回しか実行しないことがほとんどであるため、RPOが社内で運用する他のデータより長くなりやすい。

 Microsoft 365のデータのRTOが長くなる可能性もある。バックアップのコピーはMicrosoft 365とは別のクラウドサービスかオンプレミスのバックアップ先にデータを書き込まなければならない。そのため復元が必要になったときにバックアップデータをMicrosoft 365のクラウドインフラにアップロードする必要がある。通信速度が遅い場合は復元に長い時間がかかることになる。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス

製品資料 SB C&S株式会社

マルチテナント型SaaS開発者向け:ID・アカウント管理の重要性と構築のポイント

マルチテナント型SaaSの開発・運用に当たっては、ID・アカウント管理を適切に設計・実装していくことが不可欠だ。その理由を確認しながら、ID・アカウント管理で求められる要件や構築のポイントを解説する。

製品資料 日立ヴァンタラ株式会社

データの所在を問わずにアクセス・統合・管理、次世代ファイルストレージの実力

データドリブン経営に不可欠なファイルストレージだが、近年はアクセス集中によるパフォーマンス低下、データ増による容量逼迫、データ保護体制の不備など、多くの課題が指摘されている。これらを一掃する、次世代のストレージとは?

製品資料 株式会社インターコム

働き方の変化にも対応、IT資産管理をクラウド化するメリットとは?

リモートワークなどの働き方の変化は多様な影響をもたらしており、中でも注意が必要な領域がIT資産管理ツールだ。リモートワークの増加、デバイスの多様化などに対応し、情報漏えいを防ぐにはどのようなツールを選べばよいのか。

製品資料 Splunk Services Japan合同会社

ルール検知+AIで進める、段階的な内部脅威対策とは?

ランサムウェアへの対策が進む一方で、内部脅威への備えは後回しになりがちだ。内部脅威は、深刻な被害をもたらすだけでなく、企業の信頼を損なう可能性もある。どのような対策が有効なのか、本資料で詳しく解説する。

事例 横河レンタ・リース株式会社

学研プロダクツサポートに学ぶ、PC運用管理をさらに効率化する秘訣

学研グループのシェアードサービスを手掛ける学研プロダクツサポートでは、グループ全体のPC約2700台をレンタルサービスに移行し、PC運用管理の効率化を実現した。同社が同サービスを選定した理由や、導入効果などを紹介する。

アイティメディアからのお知らせ

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

「Microsoft 365」のバックアップはなぜ複雑か アプリの多彩さが落とし穴に:バックアップと復元で起こりがちな問題 - TechTargetジャパン システム運用管理 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...