Vyaire Medicalはコロナ禍が始まった2020年前半、人工呼吸器の増産に踏み切った。意思決定を支えるデータの品質と健全性を高めるために、どのような組織改革をしたのか。
Vyaire Medicalは世界40カ国で事業展開する医療機器メーカーだ。同社製品の一つに人工呼吸器があり、2020年前半から深刻化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)と同時にこの機器の需要が急激に伸びた。
データ統合ソフトウェアベンダーであるTalendのデータ品質管理ツールと、Amazon Web Services(AWS)のクラウドサービスを利用することにより、Vyaire Medicalはパンデミック以前には週に30台だった人工呼吸器の生産量を、2020年半ばまでに1日600台にまで増やすことができた。
Vyaire Medicalでデータ品質管理の取り組みを率いたのは、2018年後半に入社したCIO(最高情報責任者)のエド・リビツキ氏だ。
医療機器メーカーBecton, Dickinsonの呼吸器領域製品部門を前身とするVyaire Medicalは、2016年に独立企業として設立した。リビツキ氏によれば、2018年の入社当時、まだ新しい企業だったVyaire Medicalのデータ管理とデータ分析の能力は初歩的なものでしかなかった。「ただシステムからデータを取ってきて、スプレッドシートに転送しているだけだった。それでも精いっぱい洗練されたやり方だった」とリビツキ氏は振り返る。「当初はそんな状態だったから、問題点はいくらでも指摘できた。品質も問題なら、信用の低さも問題だった」(同氏)
リビツキ氏は入社当初、主要幹部の一人から「新規注文について、毎日5つの報告書をそれぞれ違う従業員から受け取るのだが、5枚とも書かれていることが違う」と相談されたという。どのデータが「正しい」のか、幹部にはほとんど分かっていなかった。
その状態を解決すべく、リビツキ氏は組織全体でのデータ利用を最適化するセンターオブエクセレンス(CoE:組織横断的な部署)を立ち上げた。
Vyaire Medicalがデータに関する取り組みを拡大させると同時に、リビツキ氏のチームは、基本収益、売り上げ、注文などの指標を測るための基本的な重要業績評価指標(KPI)の運用を開始した。「そしてCOVID-19のパンデミックが始まり、われわれは企業として、入ってくる注文量に見合うように生産を強化する方法を模索することになった」とリビツキ氏は振り返る。COVID-19のパンデミックが加速していた2020年前半のVyaire Medicalは、新しい顔ぶれになったCEOとCFO(最高財務責任者)、人工呼吸器の製造ライン主任と共に新たな使命に乗り出していた。
パンデミックの影響で、新しい幹部は全員テレワークをせざるを得なかった。「当時、幹部チームで意思決定を下すにはデータが決定的に重要だった」とリビツキ氏は言う。Vyaire Medicalは、1日6台、すなわち週30台だった人工呼吸器の生産量を1日600台に増加させ、世界中の医療従事者の下へ送り出した。
「われわれにとってはもちろん、どのような時代でも、どの企業においても同じように、データは何よりも重要な存在だ」とリビツキ氏は語る。パンデミックの最中に命を救う装置を製造していて、その生産量を増やそうとしている企業であればなおさらだ。「データは成功の鍵だった」(同氏)
後編は、Vyaire Medicalの経営を支えるデータの信頼性や品質を維持するための仕組みを解説する。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
遠隔医療体制を構築する際は、患者や通常業務への影響を押さえながら進める必要がある。パンデミック下で一斉に遠隔医療体制を構築した2つの医療機関の例を紹介する。
オーストラリアでは処方箋の完全電子化が一般化しているが、制度確立までの道のりは平たんではなかった。完全電子化を阻んだ課題とその解決策とは。
コロナ禍を契機に、湾岸諸国では「デジタルヘルスケア」への移行が加速している。湾岸諸国におけるデジタルヘルスケア産業の重点投資分野とは。デジタルヘルスケア推進の”壁”とその対処法についても紹介する。
医療機関は膨大なデータを扱い、そのデータに基づいて重要な決定を下す場合がある。一方、データの質は低くなりがちだ。それはなぜか。データの品質を改善させるために必要な方策と併せて紹介する。
英国の国民保健サービスでイングランド地域を管轄するNHS Englandが、医療サービス向けの新データ基盤を構築している。この計画に英国市民団体が“待った”をかけたという。なぜなのか。
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...
Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...