Microsoft Azureの国家機密用リージョン「Azure Government Top Secret」とはAWSと争う米国防省の100億ドルJEDI契約の行方は

Microsoftは「Microsoft Azure」の新しいリージョン「Azure Government Top Secret」を、国家の情報機関向けに提供する。同リージョンの特徴とは。Microsoftの戦略は。

2021年10月08日 05時00分 公開
[Caroline DonnellyTechTarget]

 Microsoftは、米国のインテリジェンスコミュニティー(情報機関)の利用に特化した「Microsoft Azure」のリージョン(地域データセンター群)の運用を開始した。「Azure Government Top Secret」と名付けた同リージョンの構築には、ネットワークやサーバなどの設備を隔離する「エアギャップ」という手法を用いている。Azure Government Top Secretの主な用途は、政府の最高機密データの保管や処理だ。

 提供開始当初、MicrosoftはAzure Government Top Secretで60個のAzureサービスを利用できるようにし、今後も利用可能なAzureサービスを追加する。同社は情報機関のクラウドサービス移行が進むよう支援する。

国家機密用リージョンを提供するMicrosoftの“あの目的”

会員登録(無料)が必要です

 MicrosoftのAzure Global担当コーポレートバイスプレジデントを務めるトム・キーン氏はAzure Government Top Secretについて、同社のブログエントリにこう記載する(以下は日本語版から引用)。

これらの新しいAzureのエアギャップのあるリージョンにより、米国のトップシークレットレベルに分類される国家安全保障ワークロードの提供を加速します

 キーン氏は情報機関が直面している課題として、

  • 前例のないスピードで押し寄せるデータの分析
  • アジリティ(敏しょう性)の確保
  • 高度化するサイバー攻撃からのデータや人材の保護

などを挙げる。

 MicrosoftがAzure Government Top Secretを構築したのは、あらゆる米国政府機関の顧客にクラウドサービスを提供するという同社の戦略の一環だ。同社は「米国の情報機関や米国国防総省、さまざまな連邦民間機関と緊密に連携することで、サービスのセキュリティを向上させつつ、データの利用規模や処理速度を高めている」と説明する。

 キーン氏によると、Microsoftは1日当たり8兆件を超えるサイバー脅威の兆候を集め、それらを人工知能(AI)システムや世界的なセキュリティ専門家のチームで分析。「他社の追随を許さないデータ保護を実現している」(同氏)という。

米国防総省との「JEDI」契約は難航

 Azure Government Top Secret提供開始の発表は、米国防総省の情報機関である米国国家安全保障局(NSA)がMicrosoftの競合企業であるAmazon Web Services(AWS)と結んだ100億ドルのクラウド関連契約の結果に対し、Microsoftが抗議している最中のことだった。MicrosoftはNSAが「適切な評価」を行わないままAWSに発注したと主張し、この契約に意義を唱えるために米国政府監査院に入札抗議を提出する事態にまで至っている。

 MicrosoftとAWSの大手クラウドベンダー2社が100億ドルの契約を巡って対立したのは、これで2度目だ。過去には米国国防総省が10年間にわたるクラウドプロジェクト「JEDI」(Joint Enterprise Defense Infrastructure)の契約をMicrosoftと締結したときに、AWSはその決定に抗議することを決めている。

 単一ベンダーによるJEDI契約は2021年8月時点で棚上げ状態になっている。米国防総省はJEDIを撤回し、複数クラウドベンダーの利用を視野に入れた新しい契約に置き換え、MicrosoftとAWSの両方の技術を採用する方針に転換している。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 株式会社MONO-X

IBM i の資産を生かし、着実に DX へとつなげるモダナイゼーションの進め方

IBM i 基幹システムを運用する企業でモダナイゼーションが喫緊の課題となる中、推進の課題も多い。そこで、「クラウド」「ノーコード開発」「API」「AI」を主軸とするIBM i ユーザー向けモダナイゼーションサービスを紹介する。

製品資料 富士通株式会社

小売業のDXを加速する次世代のプラットフォームとは

小売業界にとって、顧客体験(CX)、従業員体験(EX)の向上ならびにDX推進は重要度の高い課題である。多拠点、多店舗、他業態を展開する小売業でCXとEXをグローバルに向上する次世代のリテールコマースプラットフォームとは。

事例 株式会社BeeX

わずか4カ月でデータ分析基盤の内製化に成功、ロッテに学ぶDX推進の秘訣

ロッテはシステムのAWS移行を進める中、DX推進の鍵は内製化比率の向上にあると考え、内製化の強化に踏み切った。本資料では、内製化の実現に向け、支援を受けながら、初めて取り組んだAWS開発と人材育成を成功させた事例を紹介する。

製品資料 株式会社AIT

国際間の映像データ配信や拠点間での動画共有も高速で、ファイル転送の注目手法

大容量データの送受信には、通信遅延や帯域制限の課題がある。本資料では、高速で安全なデータ送信を実現できるファイル転送プラットフォームを紹介する。導入時に気になるポイントとともに、料金プランも分かりやすく解説している。

製品資料 発注ナビ株式会社

リードが商談化できない? SaaS導入のベンダー側と企業側の悩みを一掃する方法

SaaSの利用が拡大する中、ベンダー側と企業側の両方がさまざまな課題を抱えている。ベンダー側は商談につながるリードが獲得しにくいと感じており、企業側は製品の選定に困難さを感じているという。双方の課題を一掃する方法とは?

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...