英国のブラッドフォード大学でIT部門を率いるジュリエット・アトキンソン氏。歩んできたのはいわゆるストレートなキャリアパスではない。独特な経歴がもたらす強みとは。
企業や教育機関のITディレクターといえば、大学でコンピュータ科学の学位を取得し、出だしはヘルプデスクといった業務に携わり、IT部門という世界の中でキャリアを積んできた――といった人物像がある。英国のブラッドフォード大学(University of Bradford)でITディレクターを務めているジュリエット・アトキンソン氏は、それとは全く違う“異色”の経歴を持っている。
キャリアを歩み始めた22歳の時、アトキンソン氏はシングルマザーだった。マーガレット・サッチャー氏が英国の首相を務めていた時代だ。サッチャー氏は英国初の女性首相でありながら、女性のキャリア支援には消極的だったことで知られている。母子家庭向けの生活保護を否定するような発言もあり、サッチャー氏はアトキンソン氏にとってロールモデルにならなかった。
22歳のアトキンソン氏は、周りに頼れる人がおらず、働きながら1人で子育てする日々を送っていた。その生活の中で直面したあらゆる課題に真正面から取り組み、自ら将来を切り開いた。「当時の大変な経験のおかけで私は強くなった。仕事でも解決策が見えない課題に対処できるようになった」と同氏は語る。「失敗は人を成長させる学習体験だ」。同氏はその考えでキャリアを形成してきた。
キャリアの出発点は携帯電話の広告販売だった。アトキンソン氏は「ちゃんと子どものために稼がなきゃ」と考えて努力を惜しまず、順調なスタートを切った。販売実績を伸ばすとともに収入が増え、23歳の若さで夢だったマイホームを購入した。当時の営業先だった携帯電話の販売会社から、仕事の腕を評価してもらい「当社で働いてくれないか」と誘われた。同氏は携帯電話を販売する仕事に就き、デジタルの世界への第一歩を踏み出した。
新しい仕事でもアトキンソン氏は見事な成果を出し、間もなく再び転職の機会を得た。英国情報通信大手のBT Groupから引き抜かれ、同社でエンジニアの卵として働くようになったのがそれだ。同氏は熱心にネットワーク技術を学習。BT Groupから手厚いサポートを受けつつ、未経験から短期間でネットワーク技術のプロに成長した。「技術的な問題を解決することが楽しく、どんどんスキルを習得する動機になった」と同氏は振り返る。
アトキンソン氏はBTを経て、情報通信ベンダーのDaisy Groupに9年間在籍。IT現場の知識を深めるとともに、管理職としての経験も積み上げた。仕事の傍ら「ITIL」(Information Technology Infrastructure Library)や「CCNA」(Cisco Certified Network Associate)といった資格も取得した。そのように腕を磨き上げた同氏が初めてITディレクターに就任したのは、Daisy Groupの後に入社した会社で、ヘルスケア事業を手掛ける企業だった。
現職に就いたのは2019年ごろだ。アトキンソン氏はブラッドフォード大学のIT部門を率いる立場で、60人ほどのITスタッフを束ねている。ブラッドフォード大学には約1万人の学生が在籍。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によって、大学のITの在り方が大きく変わっている。そうした中、同氏は独特な経歴を生かし、今日もさまざまな変化に挑む。
後編は、アトキンソン氏の経験を踏まえ、IT業界でなかなか進まない男女平等の問題を考える。
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