人種差別に起因する問題は、単純ではない。例えば黒人とアジア系人種が直面する壁は異なる。多様な人材を採用するのであれば、企業は何に留意すべきなのか。
エスニックマイノリティー(地域や社会における少数民族)は、キャリアアップにおいてさまざまな課題に直面している。これはIT業界でも同様だ。ただしエスニックマイノリティーという用語を使うと、単一の問題のように扱われてしまいがちだが、これは複雑な問題を内包している。企業は何に取り組むべきなのか、具体的に考えてみよう。
IT人材採用コンサルタント企業Templeton and Partnersのマーケティングディレクターであるエイミー・トレジャー氏は、エスニックマイノリティーをひとくくりにはできないと指摘する。「IT技術者の人口比率としては、アジア系と白人に大きな違いはない。一方でアジア系の人材はIT分野で非常に歓迎されているが、黒人の割合は非常に低い」(トレジャー氏)。エスニックマイノリティーの中でも、人種によって障壁は異なるのだ。
この状況は、英国生まれの人と移民にも同じように当てはまると指摘するのは、ニューアム・ロンドン特別区市議会で副CEO兼CDO(最高デジタル責任者)を務めるアミット・シャンカール氏だ。「人は似ているように見えても、それぞれ微妙に異なる背景や課題を抱えているので、ひとくくりにはできない」とシャンカール氏は語る。その上で「さまざまな背景や経験を持つ人を採用するのであれば、人事方針や可視性の観点でも問題に対処する必要があることを認識すべきだ」と強調する。
例えば、新たに入ってくる人材にとってのロールモデルとなる年長者を適切に配置することや、目標のキャリアを実現するステップを明確に示すことが必要だ。「自分に似た背景のロールモデルがリーダーの立場にいなければ、自分が同じように進むことが可能だと信じることは難しい」とシャンカール氏は語る。
ダイバーシティー(多様性)、エクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂性)を意味する「DEI」を、企業が実現しようとする理由は幾つかある。人種差別解消を専門とする人事アドバイザリー企業HR rewiredの創設者兼マネージングディレクターであるシェリーン・ダニエルズ氏によれば、次のようなものだ。
企業がこうした目的を重視するのは、企業の内外からDEI推進の声が上がっているためだ。「『私たちはDEIに取り組んでいる』という言葉だけでは、もはや十分ではない」(ダニエルズ氏)
第6回は、企業内の人種差別を撲滅するために、管理職が身に付けるべき心構えについて解説する。
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