HDDでもテープでもなく「DNAストレージ」こそ“データ爆増”時代の主役なのか?記録媒体はDNA、いつまでも使えるストレージ【中編】

大量データを保存するために使われてきたのは「HDD」や「テープ」だ。その選択肢に、次世代ストレージの一つとして注目を集める「DNAストレージ」が加わる可能性がある。既存ストレージを代替するのか。

2024年02月18日 08時30分 公開
[Adam ArmstrongTechTarget]

 データを効率的に保管するためには、どのストレージを使うのが正解なのか――。扱うデータが増えるほどに、これは企業の検討事項として大きな問題になる。大量のデータを保存する場合の選択肢としては「HDD」や「テープ」がある。今後はその選択肢に、「DNA」(デオキシリボ核酸)を記録媒体に用いる「DNAストレージ」が加わる可能性がある。DNAストレージがあればHDDやテープは不要になるのか。

HDDやテープは「DNAストレージ」があれば不要なのか

 DNAストレージとは、次世代ストレージの一つとして期待を集めるストレージだ。DNAストレージは、データをDNAの塩基配列に変換して保存する。DNAとは生物の遺伝情報を担う物質、塩基配列とはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基(水酸基を有する化合物)の並びを指す。磁性体を記録媒体に使うHDDやテープとは、まず記録媒体の点で大きく異なる。

 さまざまな企業がDNAストレージに関する研究開発を進めており、カリフォルニア州カールズバッドに本社を置くIridiaは、2026年にDNAストレージサービスを市場投入することを計画している。同社のCEOムラリ・プラハラド氏によれば、DNAストレージには、記録密度の向上や長期保存などの利点が見込める。HDDやテープなど、データの長期保存に従来使われてきた既存のストレージとDNAストレージは何が違うのか。プラハラド氏に詳しく聞いた。

―― 企業はDNAストレージをどのような用途に使うことができますか。

プラハラド氏 DNAストレージの用途としては、アーカイブが主になる。世界中のデータの約80%は、使用頻度が比較的低いデータを格納しておくためのストレージに保存されている。そうしたストレージは「ティア1」ではなく、「ティア2」や「ティア3」に分類されるストレージとなる。ティアとは、データをアクセス頻度別に分類して保存する場合の「階層」を意味する。

 使用頻度が比較的低いデータを保管するストレージは「WORM」(Write Once Read Many)タイプのストレージだ。WORMとは書き込みは1回だけで、読み込みは複数回実施することを意味する。これはデータを長期的に保存する場合に必要になる特性であり、DNAストレージはそうしたデータを長期保管することに向いている。

DNAストレージはテープを代替するのか

―― DNAストレージはテープの代替となるのでしょうか。それとも既存のストレージに加えて追加で使用するストレージになるのでしょうか。

プラハラド氏 ストレージ市場は非常に広範囲にわたっており、データ保存に関するさまざまなニーズがある。データの長期保存だけを考えても、テープといった1種類のストレージで全てのニーズを満たせるわけではない。

 これから必要なストレージは何か、DNAストレージはテープを代替するストレージなのかといった問いは興味深い問題ではあるが、あまり重要ではない。まずわれわれが考えなければならないのは、長期的なトレンドと課題だ。データ保存量はこれからも増大を続けると考えられる。その一方で関心が高まっているのが、消費電力量をいかに抑制するのかを含めた、持続可能性に関する問題だ。それを受けて、ストレージの容量確保や拡張性の向上、データセンターのカーボンフットプリント(活動から生じる二酸化炭素排出量)抑制のために何ができるのかを考えなければならない。

HDDやテープ、光ディスクとの根本的な違い

―― テープには、カートリッジを自動的に出し入れするテープライブラリというシステムがあり、アーカイブを効率的にすることが可能です。そうしたシステムのない光ディスクは、それほど広く使われていません。DNAストレージが普及するには、どのようなインフラや仕組みが必要ですか。

プラハラド氏 HDDやテープ、光ディスクなど、記録媒体に磁性体を用いるストレージに共通しているのは、記録媒体とストレージデバイス、データが分離していることだ。合成されたDNAの構造そのものにデータが埋め込まれるDNAストレージの場合、記録媒体とデータは同一だ。DNAは特定の形状を必要とせず、一度合成されれば非常にコンパクトかつさまざまな方法で保存できる。


 次回は、データ読み書きのパフォーマンスや、コストの観点でDNAストレージの特性を考える。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

譁ー逹€繝帙Ρ繧、繝医�繝シ繝代�

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

IOPSが5倍に向上&コストも80%削減、エクシングが選んだ大容量ストレージとは

カラオケ業界が直面するデータ増に対応すべく多くのストレージを試し続けた結果、4社27台の製品のメンテナンスに悩まされていたエクシング。この問題を解消すべく、同社は大容量かつコスト削減効果に優れた、新たなストレージを導入した。

製品資料 プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

データソート性能向上でここまで変わる、メインフレームのシステム効率アップ術

メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

従来ストレージの約8倍の容量を確保、エルテックスが採用したストレージとは

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

空冷だけではなぜ不十分? データセンターの熱負荷対策をどうする

CPUやGPUの性能向上に伴い、データセンターでは今、発熱量の増加にどう対応するかが課題となっている。特に高密度なサーバ環境では、従来のファンやヒートシンクに頼るだけでは熱管理が難しい。こうした中、企業が採用すべき手段とは?

製品資料 Dropbox Japan株式会社

ファイルサーバをアウトソーシング、「クラウドストレージサービス」の実力

中堅・中小企業の中には、IT担当者が社内に1~3人しかいないという企業も少なくない。そのような状況でも幅広い業務に対応しなければならないIT担当者の負担を減らす上では、ファイルサーバをアウトソーシングすることも有効だ。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...