大量データを保存するために使われてきたのは「HDD」や「テープ」だ。その選択肢に、次世代ストレージの一つとして注目を集める「DNAストレージ」が加わる可能性がある。既存ストレージを代替するのか。
データを効率的に保管するためには、どのストレージを使うのが正解なのか――。扱うデータが増えるほどに、これは企業の検討事項として大きな問題になる。大量のデータを保存する場合の選択肢としては「HDD」や「テープ」がある。今後はその選択肢に、「DNA」(デオキシリボ核酸)を記録媒体に用いる「DNAストレージ」が加わる可能性がある。DNAストレージがあればHDDやテープは不要になるのか。
DNAストレージとは、次世代ストレージの一つとして期待を集めるストレージだ。DNAストレージは、データをDNAの塩基配列に変換して保存する。DNAとは生物の遺伝情報を担う物質、塩基配列とはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基(水酸基を有する化合物)の並びを指す。磁性体を記録媒体に使うHDDやテープとは、まず記録媒体の点で大きく異なる。
さまざまな企業がDNAストレージに関する研究開発を進めており、カリフォルニア州カールズバッドに本社を置くIridiaは、2026年にDNAストレージサービスを市場投入することを計画している。同社のCEOムラリ・プラハラド氏によれば、DNAストレージには、記録密度の向上や長期保存などの利点が見込める。HDDやテープなど、データの長期保存に従来使われてきた既存のストレージとDNAストレージは何が違うのか。プラハラド氏に詳しく聞いた。
―― 企業はDNAストレージをどのような用途に使うことができますか。
プラハラド氏 DNAストレージの用途としては、アーカイブが主になる。世界中のデータの約80%は、使用頻度が比較的低いデータを格納しておくためのストレージに保存されている。そうしたストレージは「ティア1」ではなく、「ティア2」や「ティア3」に分類されるストレージとなる。ティアとは、データをアクセス頻度別に分類して保存する場合の「階層」を意味する。
使用頻度が比較的低いデータを保管するストレージは「WORM」(Write Once Read Many)タイプのストレージだ。WORMとは書き込みは1回だけで、読み込みは複数回実施することを意味する。これはデータを長期的に保存する場合に必要になる特性であり、DNAストレージはそうしたデータを長期保管することに向いている。
―― DNAストレージはテープの代替となるのでしょうか。それとも既存のストレージに加えて追加で使用するストレージになるのでしょうか。
プラハラド氏 ストレージ市場は非常に広範囲にわたっており、データ保存に関するさまざまなニーズがある。データの長期保存だけを考えても、テープといった1種類のストレージで全てのニーズを満たせるわけではない。
これから必要なストレージは何か、DNAストレージはテープを代替するストレージなのかといった問いは興味深い問題ではあるが、あまり重要ではない。まずわれわれが考えなければならないのは、長期的なトレンドと課題だ。データ保存量はこれからも増大を続けると考えられる。その一方で関心が高まっているのが、消費電力量をいかに抑制するのかを含めた、持続可能性に関する問題だ。それを受けて、ストレージの容量確保や拡張性の向上、データセンターのカーボンフットプリント(活動から生じる二酸化炭素排出量)抑制のために何ができるのかを考えなければならない。
―― テープには、カートリッジを自動的に出し入れするテープライブラリというシステムがあり、アーカイブを効率的にすることが可能です。そうしたシステムのない光ディスクは、それほど広く使われていません。DNAストレージが普及するには、どのようなインフラや仕組みが必要ですか。
プラハラド氏 HDDやテープ、光ディスクなど、記録媒体に磁性体を用いるストレージに共通しているのは、記録媒体とストレージデバイス、データが分離していることだ。合成されたDNAの構造そのものにデータが埋め込まれるDNAストレージの場合、記録媒体とデータは同一だ。DNAは特定の形状を必要とせず、一度合成されれば非常にコンパクトかつさまざまな方法で保存できる。
次回は、データ読み書きのパフォーマンスや、コストの観点でDNAストレージの特性を考える。
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