フィンランドのオウル大学は6Gの先進的な研究開発を進めている。研究環境が充実する同大学には、世界各国の研究者が集っている。どのような研究が進んでいるのか。
フィンランド北部のオウル大学は、「6G」(第6世代移動通信システム)開発を他国に先駆けて進めている。その研究は米国のドナルド・トランプ元大統領から意外な後押しを受けたこともある。2019年、トランプ氏が米国の「5G」(第5世代移動通信システム)開発の遅れを指摘し、6Gへの取り組みを要求した。その際にオウル大学が6Gの研究が既に進行中であることをSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で伝えたところ、同大学のWebサイトへのアクセスが急増して関心を高めることになった。
そうして6G研究で注目を集めるオウル大学とは、どのような場所なのか。同大学が使用する研究用の通信インフラや、進行中の6G研究を紹介する。
オウル大学は、モバイル通信技術に特化した研究設備を有している。5Gには、以下2つの通信方式がある。オウル大学のキャンパス内にはどちらの方式の設備も設置してある。
基地局の装置についても、オウル大学はさまざまなパターンを揃えている。例えば、アンテナの数が2本の装置から6本の装置までが揃っており、ビームフォーミング(アンテナから出る電波の方向や出力を調整して特定の方向へ集中させる技術)をさまざまな条件で検証することができる。
オウル大学は全キャンパスで3.5GHz帯、60MHz幅の周波数免許を取得しており、屋内だけでなく屋外でもこれらの周波数帯を使ったネットワークを運用できる。同大学はセルラー方式のIoT(モノのインターネット)についても研究しており、以下のネットワークインフラをキャンパス内に整備している。400個以上のセンサーがこれらのネットワークに接続している。
韓国電子通信研究院(ETRI)や通信機器ベンダーNokiaとオウル大学は、2018年の平昌冬季オリンピック向けに、ミリ波を使った5Gネットワークを試験した。同大学はこのような先進的な姿勢を6Gでも継続している。
オウル大学は6Gの基地局当たりの転送可能なデータ容量を5Gの10倍にしながら、エネルギー消費量を半減させるという目標を掲げた。こうした目標に向けて2023年には最初の6G用PoC(概念実証)デバイスを開発し、2025年には最初の6Gネットワークの開発を目指している。
フィンランドの6Gについての公的研究は、「6G Finland」、「6G Bridge」、「6G Flagship」の3つの主要プログラムによって構成されている。
6G Finlandは、2022年5月にフィンランドの研究組織によって結成された連合であり、6Gの関連政策と戦略的議論を率いている。6G Finlandはフィンランド国内外の6Gに関する議論への窓口ともなっており、欧州連合(EU)と6Gの議論や見解を調整している。フィンランド政府は6G Finlandを介してEUが主導する6G研究プロジェクト「Hexa-X」および「Hexa-X-II」の関連プロジェクトに資金を拠出している。
6G Bridgeは、フィンランドの公的機関Business Finlandによる企業間のコラボレーションを促進するプログラムだ。主に資金の提供や投資の誘致などの方法でコラボレーションを促進する。2023年1月から2026年12月までの間に1億3000万ユーロを拠出してであり、現在約30個のプロジェクトを支援している。
6G Flagshipは、オウル大学が中心となった研究開発プログラムおよび産学連携の組織だ。6G Flagshipは、例えば以下の研究を推進している。
2018年に始動した6G Flagshipは、2022年5月に第2段階に進み、2億5100万ユーロの資金支援を受けて2026年末まで活動を継続する計画だ。約50カ国から約500人の研究者が参加し、13件の6G関連ホワイトペーパー、約2700件の査読付き論文、約100件の博士論文を発表し、約400件の研究プロジェクトが完了または進行中だ。
次回は6G Flagshipを掘り下げるとともに、6Gで期待されているサービスのイメージについて解説する。
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