「オンプレミス回帰」を決断する前に見直すべきアプリケーションの設計とはオンプレミス回帰の前に考えること【後編】

クラウドサービスのコストに悩む企業は珍しくないが、アプリケーション設計の工夫次第でコスト削減が可能だ。特にフロントエンドの設計は重要である一方、開発者や企業が陥りがちな落とし穴もある。

2024年12月05日 05時00分 公開
[Tom NolleTechTarget]

 クラウドサービスのコストが高いことを理由に、アプリケーションやデータをオンプレミスインフラに戻す「オンプレミス回帰」を選択する企業がある。

 クラウドサービスのコストが高くなる要因の一つとして、クラウドサービスで運用しているアプリケーションの設計が適切でないことが考えられる。特にエンドユーザーが直接操作するフロントエンドの部分は重要だ。どのように設計すればいいのか。企業や開発者が陥りやすい落とし穴も解説する。

クラウドアプリケーション設計で陥りがちな“落とし穴”とは

 開発者は通常、アプリケーションの設計時に、エンドユーザーが操作するフロントエンドと、データベースへのアクセスなどの内部処理を担当するバックエンドを分離する。

 例えば、買い物アプリケーションでは、エンドユーザーがGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を操作して商品を注文する際、その裏側ではデータベースから情報を取得したり、データを書き込んだりするトランザクション(不可分な一連の処理)が発生する。前者がフロントエンド、後者がバックエンドだ。

 企業はこれらトランザクションによるバックエンドの負荷を、自社製品のセールなどの商業的需要に基づいて予測可能だ。しかし、フロントエンドの負荷は変動幅が比較的大きく、予測が難しい。このため、フロントエンドのシステムはクラウドサービスでの開発や運用が適している。ただし、企業はデータ主権(データの制御や管理に関する権利)や法規制に配慮し、フロントエンドとバックエンド間で扱うデータの種類とシステムの境界を明確にする必要がある。

フロントエンド設計の落とし穴を避ける

 フロントエンド設計でよくある失敗は、クラウドサービスでホストするUI(ユーザーインタフェース)のコンポーネントが、オンプレミスデータセンターに保存されたデータを大量に参照する構造にしてしまうことだ。

 先述の買い物アプリケーションを例に取れば、エンドユーザーは1つの商品を購入する前に何十個もの商品情報を見るかもしれない。もしアプリケーションが全ての商品データをデータセンターから引き出すなら、クラウドサービスが請求する通信コストは増大する。商品の説明や価格情報など、重要度の低いデータをクラウドサービスに移動して保存することを検討すべきだ。これにより、商品に関する全てのデータをオンプレミスデータセンターに保存する場合と比べてコストを削減できる。アプリケーションの応答スピードも向上する。

ワークフローの可視化

 クラウドサービスとデータセンターの役割分担を最適化するにはアプリケーション全体のワークフローを可視化し、各ワークフローの負荷を分析する必要がある。各ワークフローに掛かる負荷を確認して、負荷の最小時と最大時を比較した変動量を見極めることが重要だ。

 負荷の変動幅が小さいワークフローはオンプレミスインフラでホストする方が効率的である可能性がある。一方、負荷の変動幅が大きいワークフローは、拡張性に優れるクラウドサービスが適している。

 もう一つの重要なポイントは、アプリケーションが不要なデータをやりとりしないように設計することだ。例えば、買い物アプリケーションでエンドユーザーに商品名や価格のみを表示する場合、商品の詳細な仕様や在庫数などの余分なデータを取得する必要はない。

 不要なデータを参照して転送するたびにコストがかかる。必要な情報だけを抜き出して取得することで、ネットワークの負荷を減らしコストを削減できる。必要なデータだけを参照する設計は、機密情報を扱う場合に特に重要だ。

 フロントエンドとバックエンドの双方からアプリケーションを再設計することは容易ではないが、適切な設計で不要なデータ転送を排除できれば、クラウドサービスのコスト削減につながる。そうすれば、企業がアプリケーション全体をオンプレミスに回帰する必要性も低下する。可視化と再設計は、クラウドサービスの利用効率を最大化しながら、コスト管理を徹底するための重要な戦略だ。

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

譁ー逹€繝帙Ρ繧、繝医�繝シ繝代�

技術文書・技術解説 ドキュサイン・ジャパン株式会社

導入が進む一方で不安も、電子署名は「契約の証拠」になる?

契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VMware「永久ライセンス」を継続する“非公認”の方法

半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。

市場調査・トレンド 株式会社QTnet

業種別の利用状況から考察、日本企業に適したクラウドサービスの要件とは?

システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。

製品資料 発注ナビ株式会社

商談につながるリードをなぜ獲得できない? 調査で知るSaaSマーケの課題と対策

SaaSサービスが普及する一方、製品の多様化に伴い、さまざまな課題が発生している。特にベンダー側では、「商談につながるリードを獲得できない」という悩みを抱える企業が多いようだ。調査結果を基に、その実態と解決策を探る。

製品資料 株式会社ハイレゾ

GPUのスペック不足を解消、生成AIやLLMの開発を加速する注目の選択肢とは?

生成AIの活用が広がり、LLMやマルチモーダルAIの開発が進む中で、高性能なGPUの確保に問題を抱えている企業は少なくない。GPUのスペック不足を解消するためには、どうすればよいのか。有力な選択肢を紹介する。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。