Windows環境の管理者はクラウドに及び腰──興味はあるがまずは調査IT部門はなぜクラウド導入を「時期尚早」と考えるのか

Microsoftはパートナー企業とともに「Hyper-V Cloud」を発表し、企業によるプライベートクラウド導入を促進しようとしている。だが、多くのIT管理者が時期尚早と考えているようだ。

2010年12月14日 08時00分 公開
[Margie Semilof,TechTarget]

 米Microsoftはパートナーと連携し、プライベートクラウドの構築に必要なシステム要素をテスト・検証済みのさまざまな構成で提供する取り組みなどの包括的なプログラムを実施することで、保守的な顧客企業にクラウドコンピューティングの導入を促したいと考えている。

 この「Hyper-V Cloud」プログラムは、2010年11月にドイツのベルリンで開催されたMicrosoftのTechEd Europe 2010カンファレンスで発表された。このプログラムでの同社のパートナーには米Dell、米Hewlett-Packard(HP)、米IBM富士通日立NECなどが名を連ねている。Hyper-V Cloudプログラムは、プライベートクラウド用のサーバストレージ、ネットワーク機器や各種ソフトウェアを、検証済みのさまざまな構成で提供する取り組みや、既存システムを活用したプライベートクラウド構築のためのツールや技術情報を提供するプログラムなどを通じて、平均的な企業IT部門がプライベートクラウドを容易に構築することを可能にする。

 だが、Hyper-V Cloudによってプライベートクラウドが構築しやすくなるかどうかにかかわらず、Windows環境を利用する企業の大半では、ITマネジャーは現状に手を加えたがらない。こうしたITマネジャーは、クラウドコンピューティングやSaaS(Software as a Service)モデルに関心はあるが、「現在のオンプレミス(自社運用)型コンピューティング環境に代わる信頼できる環境を構築するための要素を、ベンダーはまだ網羅していない」という認識が根強い。

 多くのIT担当者は、現在のクラウドの選択肢では、当局の規制に対応できないと確信しているほか、これらの選択肢におけるデータの管理方法に不安を感じている。また、現在の製品は複雑だという印象も持っている。しかし、恐らく彼らにとって最悪なのは、クラウドの導入に伴って誰かが職を失う恐れがあることだろう。ITアーキテクトは無事かもしれないが、定型的な管理作業を担当するIT管理者は万事休すかもしれない。

まず基礎固め

 それでも、情報収集は活発に行われている。クラウドコンピューティングの基本やハウツーに関するセミナーや、Microsoftの基本的なサーバや管理製品の多くについて長期的なロードマップを解説するセミナーは、ITマネジャーが詰めかけて盛況だ。

 MicrosoftのManagement & Services Division担当コーポレート バイスプレジデント、ブラッド・アンダーソン氏によると、同社の開発リソースの約70%がクラウドコンピューティングに投入されている。同社は、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)、SaaSといった選択肢の価値やさまざまなシナリオを説明する顧客教育プロセスに積極的に取り組んでいるという。

 PaaSの場合、アプリケーションはプールされたリソースやスケーラブルなアーキテクチャを利用できるように、クラウドに対応して作成される。PaaSの例としては、Google App EngineやMicrosoftのWindows Azure Platformなどがある。IaaSは、従来のアプリケーションをスケールアウトする方法をIT部門に提供するが、真に柔軟な環境ではない。Amazon EC2、VMware、Azure(最近発表されたVMロール)などがIaaSに当たる。SaaSは基本的に、アプリケーションのレンタルだ。

 企業はこれらを適材適所で利用するようになるかもしれないが、それはまだ先のことになりそうだ。

 「プライベートクラウドを検討するつもりだが、この技術についてどのような選択を行うかは分からない」と、イタリアの調査機関Fondazione Bruno KesslerのITディレクター、マルコ・デ・ローザ氏は語った。「クラウドの導入はHyper-Vとはわけが違う」

 もう1人の懐疑的なITマネジャーは、クラウドコンピューティングは自社が現在抱える問題の一部を解決する可能性があり、将来のコンピューティングの一翼を担うと認めている。だが、クラウドに関してはまだ多くのことを学んでいかなければならないと考えている。

 「クラウドが5年後にどうなっているかは予想がつかない」と、キプロスのMarfin Laiki BankのネットワークおよびITインフラ責任者、アンドレアス・セオドシュー氏は語った。「また、クラウドで期待する効果を得るには、事前にさまざまな事項について調査しなければならない」

 セオドシュー氏は、Microsoftが最近発表したMicrosoft Office 365(同社のオンライン版Officeスイートの最新バージョンなどを含むクラウドサービス)に興味を持ったが、それはOfficeが同氏の精通している製品であることが大きな理由だ。

経済性と信頼性

 ほとんどのIT部門では、コストの抑制や削減は重要な課題となっている。クラウドコンピューティングの推進派は、IT部門はクラウドの活用により、ビジネスアジリティを高めることはもちろん、大きな経済的価値を生み出すこともできると主張している。Microsoftでクラウド戦略立案を担当するティム・オブライエン氏は、クラウドコンピューティングがもたらす優れた経済性を求めて、このコンピューティングモデルへの移行が進められていくだろうと語った。「基本的に、経済性こそが常に資本主義を動かしてきた」

 しかし、英国のある法執行機関のITマネジャー、アンジェロス・チャトジコスタス氏は、経済性は1つの要素にすぎないと語った。「肝心なのは信頼性だ」と同氏。「現状のままで信頼できるかといえば、難しい。ルールが必要とされている。さらに、IT部門と法務部門の連携不足という大きな問題も残っている」

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