クラウドサービスで一歩先を行くAmazon。キャッチアップしようとしている競合クラウドプロバイダーはさまざまな差別化策を思案している。そんな中でユーザー企業がクラウドサービスを選ぶ際の指針とは。
多くの人にとって、クラウドコンピューティングと米Amazonの「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」とは、ほとんど同義語になっている。他のクラウドプロバイダーは皆、キャッチアップしようとしているというわけだ。だが、それは本当に事実なのだろうか。Amazonは実際に先を行っているのか、あるいは後れを取っているのか。
金融アナリストが作成するクラウドプロバイダーの売上高ランキングでは、ほとんどの場合、Amazonの「Amazon Web Services(AWS)」部門(AWSは、Amazon EC2を含むAmazonのクラウドサービスの総称)が首位を占めている(関連記事:コンピュータリソースを無制限に活用できる「Amazon Web Services」)。アナリストによると、他のプロバイダーは下位にあるという。しかし、Amazonはオンライン小売業者だ。全売上高のほんの一部をクラウドサービスから得ているにすぎない。
では、Amazonのクラウドサービスはなぜこれほど注目を集めているのか。クラウドの大規模利用者は、小売業者のクラウドサービスに本当に賭けようとしているのか。その答えは、利用者がどのようなサービスをクラウドに移行するかによって決まる部分が大きい。
世界のソフトウェア支出のうち約3分の2は、コアビジネスアプリケーション(業務支援、請求および会計記録管理、製造資材計画など)に割り当てられている。残る3分の1は、電子メール、Webホスティング、ビジネスインテリジェンス(BI)、個人生産性など、業務分野とは異なる分類による各種カテゴリーに配分されている。
AmazonのAWSの他、米Rackspace Hostingの「Rackspace」、米Microsoftの「Windows Azure」(関連記事:オンプレミスとの連携を意識した「Windows Azure」)など、市場で先行している大手サービスは、このコアビジネスアプリケーションの重要プロジェクトにおける開発とテストの工程を主なターゲットにしてきた。企業がパイロットプロジェクトやテストプロジェクトをホスティングできる柔軟なIaaS(Infrastructure as a Services)プラットフォームをプロバイダーが提供すれば、企業はソフトウェアバグによるトラブルが発生しかねないテストシステムを、基幹アプリケーションから隔離できる(関連記事:今さら聞けない! 各種クラウドサービスの違い)。Amazonはこの分野で明らかにリードしており、資金力の豊富な競合大手にとっても追い付くのは容易なことではなさそうだ。
現在、Amazonや競合するRackspaceなどは、コアビジネスアプリケーション以外のアプリケーショングループもターゲットにするようになっている。このグループは、“ホスティングプラス”分野と呼ばれている。
ほとんどの大企業は、Webサイトを自社でホスティングする傾向がある。そうすれば、Webコマースや顧客の情報をコアアプリケーションと統合しやすいからだ。しかし、より小規模な多くの企業は有料のWebホスティングサービスを利用している。こうした企業は、コアアプリケーションへのWebフロントエンドを構築するが、Amazon EC2がこの接続技術として広く選択されている。例えば、ベンチャーキャピタルに支えられてWebベースサービスを提供する新興企業の多くは、Amazonのクラウド上で自社サイトをホストし、コストを最小限に抑えるのに役立てている。
競合他社がAmazon EC2を追い上げる(あるいは、追い越す)には、料金体系を再検討する必要があるかもしれない。例えば、Amazon EC2は、計算処理能力やストレージの使用量、送受信トラフィック量などに応じて課金している。この基本的な料金モデルは、多くのインターネットホスティングプロバイダーと同じだ(関連記事:Amazonクラウドサービスの選び方)。
広く普及しているこのクラウドサービスの料金モデルでは、データ保存量とAmazon EC2からのデータ転送量のそれぞれについて、1Tバイト当たり月額100ドル以上が課金される。このモデルは、パイロットプロジェクトやWebホスティング、電子メールアプリケーションに適しているかもしれない。これらはいずれも、データ使用量があまり多くない(数百Gバイト)。しかし、この料金体系では、コアアプリケーションのコストは2倍に跳ね上がるとみられる。平均的な大企業のリポジトリデータは1000Tバイト以上になるだけでなく、こうした企業のコアアプリケーションはそのデータの読み書きを日々行うからだ。クラウド上のリポジトリストアからのトラフィックの料金が、1カ月に数万ドルに達するかもしれない。
Amazonのライバルは、こうしたデータ関連の基本的な料金で優位に立つことができる。ディスクデバイスの購入コストは1Tバイト当たり100ドルを切っており、こうした安価なストレージを生かして設計された高効率のデータセンターでは、クラウドでコアアプリケーションを手ごろな料金でホストできるはずだ。例えば、CATV事業者や通信会社などの大手サービスプロバイダーは、インフラ投資の収益率が通常低いことから、効率的なデータセンターでクラウドサービスを提供し、安値攻勢をかけることができるはずだ。Amazonなど大手クラウドプロバイダーの追随を許さない低料金を打ち出すことも可能かもしれない。
クラウドプロバイダーは、クラウドで重要なアプリケーションを手ごろなコストで運用できるように、特定のアプリケーションにフォーカスした戦略を採用することもできる。1つの戦略は、大規模なデータリポジトリに対して直接実行されるのではなく、小規模なサマライズされたサブセットやデータビューに対して実行される、BIのようなアプリケーションをターゲットにすることだ。データベース全体は、クラウドでホスティングするには大き過ぎるかもしれないが、抽出されたサマリーは一般的に小規模であり、クラウドに適している(関連記事:クラウドサービスが登場し始めたプランニングツールの最新動向)。
もう1つの戦略は、クラウドアプリケーションを企業データセンターに保存されたデータにアクセスできるようにすることだ。これは、高負荷の際やクラウドバースティング(クラウド間のロードバランシング)の際に、処理能力を増やすためにパブリッククラウドを利用する企業にとって、特に効果的になる可能性がある。また、このアプローチが取られた場合、企業は、クラウドプロバイダーによるデータトラフィック量への課金を回避することもできるかもしれない。こうした課金は大抵の場合、クラウドからのデータ転送量のみを対象としているからだ。
この2つのどちらの戦略も、クラウドデータコストの最適化という観点からクラウドユーザーがアプリケーションを設計することを要求する。これは、クラウドプロバイダーがクラウドサービスを販売、セットアップするには、ビジネスおよびアプリケーションサポートを向上させなければならないということかもしれない。
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