英国のEU離脱で企業の最高情報責任者(CIO)はどのような影響を受けるのだろうか。データの場所と人の問題は喫緊の課題だが、まだはっきりしないことも多い。
英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱が可決され、テクノロジー業界の専門家は今後について、数々の悲観的な予想を示している。優秀な人材が足りなくなる、関税と規制によって業績が悪化する、イノベーションが低迷する、GoogleやAppleのように雇用を創出する企業がロンドンを撤退して大陸へ移る、といった予想だ。
だが、これらは現時点の推測でしかない。Nemertes Researchの創業者でCEOのジョナ・ティル・ジョンソン氏はそう話す。
「『これからこうなる』という見解はどれも推論にすぎない」と同氏はいう。まだ分からないことばかりであり、離脱の時期も手順もはっきりしていない。「本当に実現するのかどうかもよく分からない」
離脱派を主導し、次期首相の有力候補だったボリス・ジョンソン氏が次期党首選に立候補しないことを発表し、いよいよ先行きが不透明になってきた。英国を拠点とする企業や英国と取引する企業にとって、こうした不透明さは重大な問題であり、深刻な損失の恐れがある、とアナリストたちは述べる。
しかし、CIOをはじめとするIT組織の指導者たちは、政治と文化の変動が治まるのを(治まると仮定して)黙って待っているのではなく、自社のIT組織を守るために備えなければならない。
まず、データセンター戦略を考える必要がある、とジョンソン氏は話す。
英国がEUを離脱した場合の影響を考えると、「パブリッククラウドであれ、プライベートクラウドであれ、データをどこに置くか考えなければならない。英国がEUを離脱すれば、コンプライアンスの規制やデータ主権に関する法令が変わる可能性があるからだ。英国と欧州の両方にデータを置いている場合、異なる2種類の法令に対処しなければならなくなる」
「あらゆる状況とシナリオを想定して、データをどこに置くか考え、コンプライアンスを検討しなくてはならない」。事態によっては大きな変更が必要になる、とジョンソン氏はいう。
Forresterのアナリストでオランダ在住のローラ・ケッツル氏も、データ管理戦略の見直しと、状況によっては変更が必要という見解だ。その場合は顧客データだけでなく、従業員データも移転しなければならない。これにはコストが必要だ。
「データ量の問題であり、数百人分程度の従業員データなら、あまり大きな問題ではないが、何百万人分もの顧客データと何十万人分もの従業員データ及び、その関連データとなると、移転コストは膨大になる」(ケッツル氏)
ケッツル氏は、英国とつながりのある企業のCIOが離脱交渉の間に直面する問題について概要を共同執筆しており、英国で働く欧州出身者たちが、合法的に働き続けることができるかどうかの結論をまたずに英国を離れてしまう懸念についても指摘する。
「誰も不安定な移民の立場ではいたくない。優秀な人ほど幅広い選択肢がある。『英国に残れるかどうか分からない。バルセロナやアムステルダムには、スタートアップにいい職がいくらでもあるから、そっちで働こう』と考える人もいるだろう」(ケッツル氏)
一方、ジョンソン氏はIT頭脳の流出に懐疑的だ。英国と欧州の境界線がどれくらい強まるか不透明であり、人材の移動もどうなるか分からない現在の状況ではまだ、CIOが雇用体制を見直す段階ではないという。
「イギリス人のプログラマーを雇用しているなら、その雇用を継続すべきだ」(ジョンソン氏)
テクノロジー企業の上層部の中には、英国のEU離脱は雇用にとってプラスになるという見方もある。フリーランスの求職と企業の求人のマッチングをソフトウェアで行うToptalの最高戦略責任者、サアリム・チョードリー氏は、「英仏海峡を人が自由に移動できない方が、英国に優秀な人材を確保しやすくなる」というのだ。
同氏はある声明で「誰でも来られる欧州の制度よりも、世界中の有能な人材をロンドンに呼び寄せることができる」とも述べている。
いつまで続くか分からないこの困難な時期を、CIOが乗り切るためには、自社の成長に必要な活動に予算を投入し続けることが重要だ、とケッツル氏は述べる。ビジネスの成長に必要な資金をデータの移転や従業員の保持に回してはいけない。まだ、そうするときではないという。
「(英国のEU離脱の影響で)CIOは、さまざまな対応策に多くの予算と時間を投入せざるを得なくなるだろう。困難が待ち受けているが、だからといって会社の将来を担う基本業務の予算を削るべきではない」
次世代生成AIで優位に立つのはMeta? Google? それともマスク氏のあの会社?
生成AI時代において、データは新たな金と言える。より人間らしい反応ができるようになる...
GoogleからTikTokへ 「検索」の主役が交代する日(無料eBook)
若年層はGoogle検索ではなくTikTokやInstagramを使って商品を探す傾向が強まっているとい...
B2B企業の市場開拓で検討すべきプロセスを定義 デジタルマーケティング研究機構がモデル公開
日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構は、B2B企業が新製品やサービ...