バックアップ/DRで「システムの切り替え先にクラウドを使用する」8つの方式バックアップ/災害対策にクラウドを使いこなす【第3回】

オンプレミスからクラウドへ「サイト間のシステム切り替え」をしたい場合に用いる8つの方式を解説する。クラウドを使ったバックアップ/DRのための製品を比較選定する際に役に立つはずだ。

2018年02月22日 05時00分 公開
[木島 亮伊藤忠テクノソリューションズ]

 本連載の第1回「クラウドをバックアップ/DRに活用するには? 目的別に要件を固める」では、クラウドを活用したバックアップ/災害対策(DR)の目的と要件を以下の3つに分類して、それぞれを満たす大まかなシステムの実装方式を説明した。

1 クラウドを「長期保管先の安価なストレージ」として利用したい
2 クラウドを「バックアップデータの複製先」として利用したい
3 オンプレミスからクラウドへ「サイト間のシステム切り替え」をしたい

 今回は、3の「オンプレミスからクラウドへのサイト間のシステム切り替え」を実現するシステムの実装方式について詳しく紹介する。

 各ベンダーが、クラウドを活用したDRを実現する製品/サービスを発表している。各製品の実装方式が異なる上に、それらを比較検討するための参考情報も少ない。実装方式を整理せずに製品を検討し始めると、ベンダーの言葉に振り回されることになる。製品選定の事前知識として、DR方式と構成する要素、選定指針について、下記の流れで解説する。

1 DR方式を構成する要素
2 DR方式の一覧
3 要件に応じた方式選定の指針

 なお、これまでの記事は連載インデックス「バックアップ/災害対策にクラウドを使いこなす」で全て確認できる。

1.DR方式を構成する要素

 まず、DR方式を構成する要素について解説する。要素は下記の3つだと考えると方式を整理しやすい(図1)。

1-1 対象データとレプリケーション(複製)方式
1-2 システム切り替え方式
1-3 切り替え先のクラウド
図1 DR方式の構成要素 図1 DR方式の構成要素

 3つの要素はそれぞれが密接に関わっているので、全てを自由に選べるわけではなく、1つを決めると残りの2つは決まってしまう場合もある。

1-1.対象データとレプリケーション方式

 オンプレミスからクラウドへレプリケーションする「対象データの種類」と「レプリケーション方式」について整理する(図2)。

図2 DR方式を構成する要素(対象データとレプリケーション方式) 図2 DR方式を構成する要素(対象データとレプリケーション方式)

 対象データをユーザーデータのみとするか、OSを含めたシステム全体とするかによって、レプリケーションの仕組みは大きく異なる。ユーザーデータについては、データベース(DB)管理システムやアプリケーションのレプリケーション機能を使用するか、汎用(はんよう)的なレプリケーション製品を使用するかの検討が必要になる。

 レプリケーション対象データの種類と、レプリケーション方式の選択肢は下記の通りだ。

レプリケーション対象データの種類
ユーザーデータ ・DBやアプリケーションのデータ
・その他のデータ
OSを含めたシステム全体 ・システムデータ
・ユーザーデータ

レプリケーション方式
ユーザーデータ ・仮想マシンにインストールする汎用的なレプリケーション製品
・DBやアプリケーションの機能
・NAS(ネットワーク接続型ストレージ)やNASソフトウェアの機能
・バックアップ製品の機能
OSを含めたシステム全体 ・ハイパーバイザーの機能
・マルチハイパーバイザー/マルチクラウド対応のマイグレーション(環境移行)製品
・バックアップ製品の機能

1-2.システム切り替え方式

図3 DR方式を構成する要素(システム切り替え方式) 図3 DR方式を構成する要素(システム切り替え方式)

 システム切り替えの方式は大きく分けて2つある。1つ目はオンプレミスのシステムとは別にクラウドにスタンバイ用のシステムを準備しておき、レプリケーションしたユーザーデータを使用してサービスを復旧させる方式(図4のシステム切り替え方式1)。2つ目はOSを含めたシステム全体のデータをレプリケーションし、システム自体をクラウドに切り替える方式(図4のシステム切り替え方式2)だ。

図4 システム切り替えの2つの方式 図4 システム切り替えの2つの方式《クリックで拡大》

 方式1の場合、オンプレミスとクラウドにそれぞれシステムを構築し、手動や高可用性(HA)クラスタ製品でアプリケーションを切り替える。スタンバイ(待機系)システムのためにシステム台数が増えたり、オンプレミスとクラウドでOSやアプリケーションのパッチ適用が必要になったりと、運用管理面で煩雑になる。方式2の場合、システムをクラウドに切り替えるためには、ハイパーバイザーのレプリケーション/切り替え機能や、マルチハイパーバイザー/マルチクラウド対応のマイグレーション製品を使用することになる。

1-3.切り替え先のクラウド

図5 DR方式を構成する要素(切り替え先のクラウド) 図5 DR方式を構成する要素(切り替え先のクラウド)

 切り替え先のクラウドについても、大きく分けて2つに分類できる。「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」(Azure)、「Google Cloud Platform」(GCP)のようなパブリッククラウドと、基盤のハイパーバイザーを公開しているクラウド(以下、「その他ベンダーのクラウド」)である。

  • 切り替え先のクラウドの選択
    • パブリッククラウド(AWS、Azure、GCPなど)
    • 基盤のハイパーバイザーを公開しているクラウド(その他ベンダーのクラウド)

 オンプレミスとクラウドのハイパーバイザーを統一することで、ハイパーバイザーのレプリケーション/システム切り替え機能を使用することが可能だ。ただしシステム切り替え機能を使用するためには、ハイパーバイザーの管理者に強い権限が必要となるため、クラウドベンダーに該当権限が許可されるかどうかを確認する必要がある。またパブリッククラウドのハードウェアとVMwareの仮想化製品を組み合わせたAWSの「VMware Cloud on AWS」やMicrosoftの「VMware virtualization on Azure」がある。これらにより、オンプレミスのVMware製品と連携したDR構成が今後可能になることが期待できる。

 一方で、マルチハイパーバイザー/マルチクラウド対応のマイグレーション製品を使用することで、オンプレミスのVMware製品やMicrosoftの「Hyper-V」などの仮想化製品と、AWS、Azureなどのパブリッククラウドの間で、直接システムを切り替えることができる。それにより、ハイパーバイザーとクラウドの両方で、ベンダーロックインを回避できる。今後、パブリッククラウド間でのシステム切り替え機能の追加を表明済みのマイグレーション製品もある。

2.DR方式の一覧

 方式の構成要素を理解できたところで、DR方式を整理していこう。レプリケーション対象が「ユーザーデータ」と「OSを含むシステム全体」のそれぞれについて表にまとめた。

2-1 DR方式1(レプリケーション対象:ユーザーデータ)
2-2 DR方式2(レプリケーション対象:OSを含めたシステム全体)

 以下に、それぞれの方式を図解する。

2-1.DR方式1(レプリケーション対象:ユーザーデータ)

表1 DR方式1の具体例
方式 対象データ レプリケーション方式 システム切り替え方式 切り替え先のクラウド
A ユーザーデータ(ファイルサーバ、任意データ) NASまたはNASソフトウェアの機能 手動(レプリケーションデータをスタンバイシステムから利用) パブリッククラウドまたはその他ベンダーのクラウド
B ユーザーデータ(DB/アプリ) DB/アプリケーションの機能 DB/アプリケーションの機能 パブリッククラウド、または、その他ベンダーのクラウド
C ユーザーデータ(任意) 仮想マシンにインストールするレプリケーション製品 手動またはレプリケーション製品と連携できるHAクラスタ製品 パブリッククラウドまたはその他ベンダーのクラウド
D ユーザーデータ(任意) バックアップ製品のレプリケーション機能 手動(スタンバイシステムへのリストア) パブリッククラウドまたはその他ベンダーのクラウド

方式A:NASまたはNASソフトウェアのレプリケーション機能

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