ワイン醸造業者が出した答え【前編】
ワイン醸造所がクラウドに移した発酵監視システムをオンプレミスに戻した理由
ワイナリーのPalmaz Vineyardsは、機械学習によって発酵タンク内の状態を監視するシステムを開発した。パブリッククラウドにデータを保存する仕組みにしたが、問題が発生した。それはどのようなものだったのか。
米国のワイナリー(ワイン醸造所)Palmaz VineyardsのCEO(最高経営責任者)を務めるクリスティアン・ガストン・パルマス氏は、トリニティ大学(Trinity University)で経営学士号を取得し、コンピュータサイエンスにも精通している。パルマス氏は「もっとスマートにワインを醸造したい」と考えていた。
パルマス氏は自身の学識と経験を生かし、ワインの発酵プロセスを監視するシステム「FILCS」(Fermentation Intelligence Logic Control System)を開発した(写真)。目指したのはワイン醸造の単調な作業を代替し、醸造スタッフの負荷を軽くするシステムだ。Palmaz VineyardsはFILCS導入の際、データをより適切に扱うために、ストレージとデータ保護の仕組みを見直した。
FILCSは、Palmaz Vineyardsが保有する発酵タンク内の状態を監視し、調整の必要があれば醸造担当者に通知する。一般的にワイン醸造業者は手作業で何度もサンプルを採取し、発酵タンク内に十分な酸素と栄養があることや、温度と酸化レベルが適切に保たれていることなどを確認しなければならない。
オープンソースの機械学習ライブラリをベースにするFILCSは、監視する発酵タンク内の状況と過去のデータを関連付けることで、監視中の状態が悪い結果につながるものかどうかを見極める。何らかの調整が必要であれば担当者に通知する。現時点のFILCSは自動でタンク内の状態を調整できるほどの高度な機能は持ち合わせていないため、担当者が調整しなければならない。完全にアルゴリズムで発酵プロセスを制御するシステムには「これまで出会ったことがない」とパルマス氏は語る。
パルマス氏は「TensorFlow」などのオープンソースの機械学習ライブラリを使用して、データセットの構築、関連付け、トレーニングを実施した。2010年から4年の歳月をかけ、FILCSの調整を繰り返したという。
オンプレミスの限界からクラウドへインフラを移行も、新たな課題に直面
2010年に開発が始まったばかりの頃、FILCSのインフラは市販のハードウェアで構成されていた。「当時は最も大型で高性能な市販のハードウェアを使うしかなかった。それはゲーム用のハードウェアだった」(パルマス氏)
Palmaz VineyardsはFILCSが生み出すデータを保存するインフラとして、新たにPROMISE Technologyの約7万ドルのストレージシステムを購入した。高湿度環境への耐性を高めた後、2014年にFILCSを同ストレージシステムで本格稼働させた。
FILCSは、Palmaz Vineyardsがワインを醸造するよりも高速でデータを生成する。まず同ワイナリーが保有する24基の発酵タンクのうち、6基の発酵タンクでFILCSによる監視を開始した。FILCSが生成するデータ量は1時間当たり1GBになった。その全てをオンプレミスのハードウェアで賄うのは不可能だとパルマス氏は判断した。それから約1年をかけ、パブリッククラウドのストレージサービスも利用できるようにFILCSの仕組みを変更した。「2014年は明らかにデータ保存の許容量を超えていた。スケーラビリティが問題だった」とパルマス氏は振り返る。
2015年にFILCSはパブリッククラウドでデータを保管する仕組みになったが、このシステム構成は長く続かなかった。発酵プロセスでは正確に時間を管理する必要があるため、データをパブリッククラウドからネットワークを介して取得する際の遅延が問題になったのだ。さらにコストも問題になった。「データ量とデータを取り出す際の料金は許容できないほど膨れ上がった」(パルマス氏)
「1P(ペタ)Bのデータをクラウドに保存することと取り出すことは別物だ。データをパブリッククラウドから取り出す際のコストが高額だった」(パルマス氏)。Palmaz Vineyardsはこうした判断の下、FLICSのインフラをオンプレミスに戻すことを決断した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
2
「完璧な設計」なのに3000万円溶けた AWSの失敗事例から学ぶ3つの教訓
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
高額な「AI PC」を一般従業員も使えたら? 費用のハードルを一気に下げる方法
-
5
二極化する生成AI活用 「一部の社員しか使いこなせない」をどう解消すべきか
-
6
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
7
公式ストアの“防波堤”が消える「スマホ法」の衝撃 今必要な対策とは
-
8
IT調達担当者が知るべき「IT機器 大インフレ時代の前向きな選択肢」
-
9
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
10
高信頼セキュアネットワーク、アラクサラ統合で広がるフォーティネットの選択肢
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
4
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
5
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
6
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
9
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
10
NTTドコモが実践したクラウド統合監視 業務量2倍でも残業削減を実現できた理由
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー