レガシー製品を「SD-WAN」と呼ぶサプライヤーに注意Computer Weekly製品ガイド

SD-WANはIT業界が大好きな“一大ブーム”の一つだ。SD-WANは企業に多くのメリットをもたらすが、レガシー製品を「SD-WAN」と呼ぶサプライヤーもあるので本当に役立つ製品を見極める必要がある。

2020年07月23日 08時00分 公開
[Joe O’HalloranComputer Weekly]

 次の“一大ブーム”ほどIT業界が好きなものはない。過去10年の間に、企業ネットワークは多くの一大ブームを経験してきた。5GやSD-WANなどの技術トレンドは多大な関心を集めている。

企業文化の変化

 SD-WANはネットワーク機器とネットワークサービス両方の管理にメリットがあり、企業文化を変化させる可能性もある。SD-WANは単なる従来型ネットワークの代替ではない。クラウドネイティブアーキテクチャとデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の中核的な技術と見なす必要がある。

 調査会社Gartnerは2019年7月の報告書「Hype Cycle for Enterprise Networking」(エンタープライズネットワークのハイプ・サイクル)の中で、SD-WAN製品の主要目的はアプリケーションやクラウドに合わせてより単純でコスト効率の高いブランチオフィスWANを構築することにあると指摘した。

 同報告書の中でGartnerは、SD-WAN製品に対する「顧客の関心の高さ」を指摘。「推定1万以上の顧客がSD-WAN製品を本番ネットワークに導入した。SD-WANの導入は今後も急成長が続く見通しで、ベンダーの収益は35%以上増加すると予想される」としている。

コスト削減を越えて

 従来型のブランチオフィス接続に比べ、SD-WANははるかにアジャイル性が高くて手頃なプラットフォームを提供する。比較的コストがかかる設備投資集中型の調達を避け、全てのコストを運用経費に移行させることができる。

 アグリゲーション技術、一元化された管理、アプリケーション認識ルーティングなどが加わったSD-WANは、柔軟性と拡張性が高い接続を従来のWANよりも大幅に低いコストで実現する。だがSD-WANはブランチオフィス接続を安く抑えるためだけのものではない。ITバイヤーが検討すべき事項は数多くある。

 2019年12月にCato Networksが実施した調査では、DXの条件を十分に考慮しなければSD-WANに対する満足感が損なわれかねないことが分かった。WANの動向に関する4回目の年次報告書「Networking in 2020: Understanding Digital Transformation’s Impact on IT Confidence in Enterprise Networks」(2020年のネットワーキング:DXがエンタープライズネットワークにおけるITの信頼性に与える影響)によれば、回答者のほぼ4分の3がDX後にネットワークの信頼が著しく低下したと答えていた。

 SD-WANはMPLSの代替を越えた存在として扱う必要があるとCato NetworksのCEOで共同創業者のシュロモ・クラマー氏は指摘する。「企業がWANトランスフォーメーションの信頼性を維持するためには、未来のニーズを予測する必要がある。MPLSの入れ替えだけを考えていると場当たり的なソリューション調達になり、デジタル戦略に直面したときにネットワークが複雑化して運用コストがかさむようになる」

 Cato Networksの調査では回答者の大部分が向こう12カ月のうちに、プライベートデータセンターでホスティングしているアプリケーションよりもクラウドアプリケーションの方が重要になるとの認識を示した。ただし一部の専門家によると、SD-WAN製品やサービスの中にはクラウド戦略を支えるために追加のソフトウェアやインテグレーションを必要とするものがあることをITバイヤーは認識しておく必要がある。

 Nokia傘下のNuage NetworksのCEO、スニ・カーンデカール氏はこう語る。「SD-WANは基本的に目新しい存在だ。(サプライヤーのコミュニティーは)自分たちのレガシーアプリケーションをそれで上塗りして『SD-WAN』と呼んでいる。それが混乱を生じさせた。そうした製品をより分けて、真に自社のニーズに対応できるSD-WAN製品を見つけなければならない」

 「企業はコントロールや可視性、エンド・ツー・エンドのセキュリティを重視する。ブランチ同士の接続やクラウドアプリケーションとの接続をコントロールしたいと考えている。素晴らしい知見を得ることができること。どのアプリケーションが使われているかを理解できること。セキュリティ問題が発生したときに把握できることを重視する」

 「真のSD-WANはブランチを自動的かつ安全に接続できるだけでなく、ブランチからクラウド、プライベート、パブリック、SaaSとも同じように安全で自動化された接続を提供できる。既存のルーターあるいはWANオプション、ファイアウォールをつなぎ合わせてSD-WANと称する製品とは対照的だ」

 カーンデカール氏によれば、SD-WANは安定していて専用に設計されたアーキテクチャが長期的にうまく機能することが求められる。そうした特性を欠く製品では、企業が求めるものを実現できる能力は限られると同氏は警告する。

基本条件

 どんなSD-WANであれ、ネットワークの完全な機能を保証することが基本条件となる。複雑性を低減する製品を期待すべきであり、それは全て実現可能だ。Extreme NetworksのCTO(最高技術責任者)、エリック・ブルックマン氏は言う。「(SD-WANの)低コストで高速なコンシューマーグレード回路のおかげで、安定性が高く低価格のアクセスをリモート拠点に提供できるようになった」

 「たとえSD-WANの普及が当初はWAN技術にけん引されたとしても、ほとんどの顧客はすぐにそうした製品の最もパワフルな機能はクラウドで可視化や管理のシンプル化ができ、アクセスポリシーをブランチに拡張できることだと気付いた。クラウドはそうした重要な機能を実現するだけでなく、新技術が台頭すればそれを取り込むこともできる。5Gのような新しい無線技術が急成長する時代の中で、ブランチオフィスを一層シンプル化できる新たなチャンスが目の前にある」

 2020年がSD-WANにとって大きな年になるのは確実だ。調査会社IDCは、2020年からSD-WANへの支出が急増し、2023年までに50億ドル(約5400億円)を超すと予想している。

 SD-WANを機能させるということは、どこにいようとどんなクラウドであろうとユーザーとアプリケーションを結び付け、ITをビジネスニーズに沿わせることができるプラットフォームを構築することに尽きる。だがそれは、ビジネスに適切な条件が存在し、新しい働き方が実行された場合にのみ成功する。サプライヤーがネットワークを導入すれば終わりというわけにはいかない。

 SD-WANではサプライヤーが顧客の環境の奥深くまで入り込む必要がある。それは多くの組織にとってあまり快適ではないかもしれない。それがうまくいくためには、そうしたコラボレーションの価値と、そうした仕組みがその組織の事業課題解決の役に立つことをはっきりさせる必要がある。

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SD-WANが促す文化的変化と優先順位の割り当て

 Aryaka NetworksのCMO(最高マーケティング責任者)シャシ・キラン氏にとって、新しい技術はどんなものであれ文化的変化をもたらす。そして人々を安心圏外に連れ出してその職務を混乱させる可能性がある。キラン氏は言う。「SD-WANは革新というよりも進化の性質が大きい。だがSD-WANは企業の革新性を究極的に高める。いずれCIO(最高情報責任者)はそれを頼る。CIOはネットワークの反応性を高めたいと思っている」

 Aryakaの顧客についてキラン氏は次のように話す。「誰もが同じ危機感を持っていて、強い競争力が必要だと感じている。だが興味深いことに、そうした顧客の多くは過去に下した決定に執着していて、簡単には捨てられないレガシーを抱えている。古いものを捨てて新しいものを導入するのが非常に難しいこともある」

 「彼らはどこから手を打つか、転換のフォーカスをどこに据えるかを見極める必要がある。続いてその組織全体に波及効果が行きわたる。クラウドに移行させたいアプリケーションに目を向ける顧客もあれば、特定のプロセスを変更する顧客もある。そしてネットワークが完全な生産性の妨げになっているのかどうかを問い掛ける」

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