「ローカル5G」の導入障壁は「5G」の“RANオープン化”で下がるのか?「ローカル5G」活用の可能性を探る【中編】

「ローカル5G」は一般的な企業にはまだなじみのないIT領域だ。ただし基地局を構成するインタフェースのオープン化によって、ローカル5G導入がより身近になってくる可能性がある。

2021年07月23日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 「無線アクセスネットワーク」(RAN)のオープン化を目指す業界団体O-RAN ALLIANCEによる取り組みは、「5G」(第5世代移動通信システム)をプライベートなネットワークとして運用する「ローカル5G」とも無関係ではない。RAN仕様の標準化が進めば、ユーザー企業はローカル5G導入を検討する際、より自社の要件に適した構成で基地局を設計し、汎用(はんよう)のハードウェアを用いることでコストを抑制できる可能性が高まるからだ。

 従来、基本的に移動通信のインフラを運用する事業者は電気通信事業者であり、電気通信事業者向けに機器を納品するのは特定のベンダーに限られていた。一般的な企業とはほとんどつながりのない分野だったと言っていい。

 5Gへの期待感が世界的に高まると同時に、こうした状況が変わる兆候が出ている。無線通信分野に詳しい情報通信総合研究所(ICR)の上席主任研究員、岸田重行氏は「過去に通信事業者向けの事業に本格的に取り組んでこなかったベンダーも、『O-RAN』の流れに乗ってチャンスだと捉え、ソフトウェアや機器の開発に注力している」と語る。O-RANは業界団体O-RAN ALLIANCEが策定するRANを構成するコンポーネント間の標準インタフェース仕様や、その普及に向けた取り組みを指す。

5GのRANオープン化

 O-RAN ALLIANCEのWebサイトに同団体のメンバーシップの説明がある。これによれば、基本的にメンバーシップは「オペレーター」と「コントリビューター」に分かれる。主に移動通信事業者が対象になるオペレーターのカテゴリーでは、国内の事業者としてNTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、海外ではAT&TやVerizon Communications、China Mobile(中国移動通信)などの主要な通信事業者が参画している。

 一方のコントリビューターとしては、主要なサーバベンダーやネットワーク機器ベンダーの他、GPU(グラフィックス処理ユニット)ベンダーのNVIDIAや仮想化ソフトウェアベンダーのVMwareなど、さまざまな事業者が参画している。2021年6月時点で、コントリビューターとして260事業者以上のロゴがO-RAN ALLIANCEのWebサイトに掲載されている。コントリビューターはベンダーや研究機関、移動通信事業者以外のネットワーク事業者など、特に制限なく参加できる。こうして5Gのエコシステム(事業者間の協力や関係)が広がれば、より低コストのハードウェアやソフトウェアをRANに採用することや、特定用途のニーズを満たすRANを構築することが実現しやすくなる。

過去の移動通信と5Gの違い

 O-RAN ALLIANCEが策定する、“オープン”な5Gを目指したRANとはどのようなものなのだろうか。

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 まず「4G」(第4世代移動通信システム)と比較して、5Gの基地局が変わったポイントから見ると分かりやすい。移動通信の基地局の変遷について岸田氏は「より効率的に通信を処理するために、世代を経るごとに機能が細かく分離してきた」と説明する。5Gでも基地局の構成がより細かくなった。

 標準化団体の3GPPが定める5GにおけるRANの分割方法には複数のパターンがある。そのうち移動通信のネットワーク全体を制御するコアネットワークも含めて、4Gの設備を使用せず5Gの設備だけで構成するSA(スタンドアロン)方式の仕様の一つ「Option 7」では、RANは以下の3つに分かれる。

  • RU(Radio Unit:無線装置、リモートアンテナユニットとも)
  • CU(Central Unit:集約ノード)
  • DU(Distribution Unit:分散ノード)

 これらの3つの機能は、4Gでは無線信号の送受信処理を担う「RRH」(Remote Radio Head)と、コアネットワークとのデータの送受信処理を担う「BBU」(ベースバンド装置)の2つが担っていた。5Gで機能を分割した意図は、帯域幅をより効率的に利用できるようにすることや通信遅延を減らすこと、RANの拡張性を高めることなどにある。さらに岸田氏は「さまざまな組み方が可能になったことも特徴だ」と指摘する。

 O-RANはこのOption 7の構成を基にして、RANを構成するコンポーネント間の標準的なインタフェース仕様を定めている。過去の移動通信のRANは、基本的には特定ベンダーの専用機器で構成されていた。異なるベンダーの機器同士でRANを構成すると、想定通りに動作しないことがほとんどだったからだ。標準的なO-RANのインタフェースを取り入れることで、異なるベンダー同士の機器を併用するマルチベンダー構成が可能になる。さらにCUやDUの機能を専用機器ではなく、仮想化技術を使って汎用のサーバで構築することも可能になる。これはRANの拡張性の向上やコスト抑制につながる。


 こうした話は、通信事業者が提供する5Gサービスのインフラに関してだけではなく、ローカル5Gにおいても重要だ。工場やビル、教育機関の構内、商業施設、医療分野などさまざまな用途での利用を前提にすると、接続する端末数、遅延やデータ伝送速度などの通信性能に対する要件は個々に異なると考えられる。用途に適した設計を、適度なコストで採用できるようになるかどうかは、5Gのエコシステムがどれだけ広がるかに懸かっていると言える。

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