多くの可能性を秘めるコンピュテーショナルストレージだが、それを活用してメリットを引き出すためには幾つかの課題を解決する必要がある。
前編(GPUのように使える「演算する」ストレージを目指して)では、コンピュテーショナルストレージの動向を概観するとともにコンピュテーショナルストレージ導入企業がNGD Systems製品を導入した理由を紹介した。
後編では、コンピュテーショナルストレージ普及の課題と今後の展望を紹介する。
バーバレース氏は、コンピュテーショナルストレージを活用するためにアプリケーションを適合させる方法について考察している。同氏は、データフローに分類されるアルゴリズムは多数存在すると言う。その一例が「AWS Lambda」だ。「データを分割して異なる対象に渡すことができる。その一つをコンピュテーショナルストレージに割り当てる」(バーバレース氏)
例えばAIワークロードを分割して一部をコンピュテーショナルストレージで直接実行し、他の部分はCPUで処理する。気象予測など、高度に分散されるHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)ワークロードにもコンピュテーショナルストレージを応用できる可能性がある。「問題はコンピュテーショナルストレージがデータを効率的に処理できるかどうかだ」(バーバレース氏)
これはオンプレミスのデータとクラウドでホストされるデータの関係にも当てはまる。AWS(Amazon Web Services)が採用した例でも、効率を上げるためにデータの処理をデータの格納場所に近づける方法が示されている。厳密に言えばコンピュテーショナルストレージではないが、AWSのアーキテクトであるデビッド・グリーン氏とムスタファ・ラヒミ氏は「Amazon S3 Select」を使ってAWSに格納されているデータに直接SQLクエリを実行する方法を紹介している。
両氏は次のように記している。「『AWS Transfer for SFTP』を使って『Amazon S3』にアップロードしたデータに、S3 Selectでクエリできる。この操作は、CSVオブジェクトがAmazon S3にアップロードされた後、AWS Lambdaによって自動的に起動される。S3 Selectを使ったデータ検索は他の方法よりも時間とコストを節約する可能性がある」
バーバレース氏の論文は、コンピュテーショナルストレージのプログラミングについて他の選択肢を検討している。一つはマルチプロセッサで同じデータセットを扱う際によく使われる、共有メモリを利用する手法だ。この手法はコンピュテーショナルストレージにも適用できる。
コンピュテーショナルストレージはまだ初期段階にある。CCS Insightのボラ・ロティビ氏(プリンシパルアナリスト)は、ストレージ管理者をプログラマーに進化させる方法が課題の一つになると考えている。「ストレージ担当者はあまりプログラミングしない」(ロティビ氏)
HPEのアームストロング=バーンズ氏は、コンピュテーショナルストレージがGPUのような成功を収めるとまでは確信していない。「石油はあまりうまく混ざらない。それが、さまざまな場所からデータサイエンスのワークロードを追加する際の課題になる」
バーバレース氏にとっての未解決分野の一つがマルチテナントだ。つまりパブリッククラウドプロバイダーがオンデマンドでコンピュテーショナルストレージを提供する場合だ。データは複数のストレージプールに分散して格納される。そのため、異なる物理サーバに分散されている可能性のあるデータの特定のサブセットでコンピュテーショナルストレージを実行する必要が生じるかもしれない。
こうした課題があるにもかかわらずコンピュテーショナルストレージが検討される理由は、データ量の飛躍的な増加にある。Prizsm Technologiesのエイドリアン・フェーン氏(創設者兼CTO)のは次のように話す。「データは、CPUアーキテクチャが進化しているという理由だけで格納方法が変わっている。だが量子時代に近づくにつれ経験するデータ量の指数関数的な増加には、その格納方法は適合しない」
量子コンピュータはまだ開発の初期段階だ。とはいえこの分野が進化するにつれ、その処理能力に追い付くためにコンピュテーショナルストレージが必要になるかもしれない。
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