医療機器メーカーが人工呼吸器の歩留まり改善のために使った“切り札”とは?コロナ禍の人工呼吸器増産を支えた「データ品質管理」【後編】

Vyaire Medicalがコロナ禍で人工呼吸器の増産を決断するに当たって、データの信頼性は重要な課題だった。製造工程を正しく把握し、収集するデータの品質を維持するために同社はどのようなシステムを構築したか。

2021年10月07日 05時00分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

 組織が意思決定を下すための「信頼できるデータ」を手に入れるためには、データの品質と健全性を保つことが不可欠だ。世界的な医療機器メーカーのVyaire Medicalにとってデータの品質向上は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の最中に人命を救うために重要な事柄だった。前編「人工呼吸器1日600台製造の医療機器メーカーが語る「信頼できないデータ」の害悪」に続いて後編となる本稿は、同社の経営を支えるデータの信頼性や品質を維持するための仕組みを解説する。

歩留まり改善の“切り札”はこれだ

会員登録(無料)が必要です

 2020年前半にVyaire Medicalが人工呼吸器を増産するに当たって、改善する必要のあった重要業績評価指標(KPI)の一つが「歩留まり」だった。これは1回の生産工程で製造できる、欠陥のない製品の数を指す。

 Vyaire Medicalでデータ品質管理の取り組みをリードしたCIO(最高情報責任者)のエド・リビツキ氏によると、同社の人工呼吸器の製造においては完成までに約21カ所の「製造ステーション」を通過しなければならない。各製造ステーションでは装置の品質と規制要件に関する検査がある。前工程での検査に合格しなければ次の工程に進めない。

 リビツキ氏のチームはデータに基づく調査をし、最終的な歩留まりとして全工程に合格する製品は全体の約20%にとどまることが分かった。「その程度の合格率では増産などとても無理だった。技術チームと製造チームが弱点を特定するのにデータは実に役立った」とリビツキ氏は話す。

 データに関する要件を満たすために、Vyaire MedicalはAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービス群を中核としたシステムを構築した。データウェアハウス(DWH)として「Amazon Redshift」を使い、これに製造と事業に関するデータを送り込む。ビジネスインテリジェンス(BI)ツールとして「Amazon QuickSight」を使っている。

 Vyaire Medicalは、データ品質管理を支えるシステムとして、データ統合ソフトウェアベンダーであるTalendの「Talend Data Fabric」を採用している。Talend Data Fabricは、さまざまなデータソースから流入するデータの精度を確保するためツールだ。Talend Data Fabricの導入は、Vyaire Medicalにおけるマスターデータ管理(MDM)の取り組みの一環であり、重複入力を検出してデータの集約を可能にしている。

 「Talend Data Fabricのおかげで、データをクラウドサービスに移行する際にデータ連携がしやすくなった」とリビツキ氏は言う。「企業を運営する基本的な立場から見ると、データソースがあまりにも多く、総合的な視野を得るためにデータソースの統合が必要だった」と同氏は指摘。その面でTalend Data Fabricは「われわれにとって大きな力になっている」という。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

「遠隔医療」に一斉移行した医療機関 その方法とは?

遠隔医療体制を構築する際は、患者や通常業務への影響を押さえながら進める必要がある。パンデミック下で一斉に遠隔医療体制を構築した2つの医療機関の例を紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

オーストラリアの「電子処方箋」制度ができるまでの道のり

オーストラリアでは処方箋の完全電子化が一般化しているが、制度確立までの道のりは平たんではなかった。完全電子化を阻んだ課題とその解決策とは。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

湾岸諸国の「デジタルヘルスケア」推進 重点分野と課題とは?

コロナ禍を契機に、湾岸諸国では「デジタルヘルスケア」への移行が加速している。湾岸諸国におけるデジタルヘルスケア産業の重点投資分野とは。デジタルヘルスケア推進の”壁”とその対処法についても紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

医療機関で起こりがちな「データ品質」低下の理由と、改善に向けた方策とは

医療機関は膨大なデータを扱い、そのデータに基づいて重要な決定を下す場合がある。一方、データの質は低くなりがちだ。それはなぜか。データの品質を改善させるために必要な方策と併せて紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

NHSのデータ基盤計画が英国民の不評を買った理由

英国の国民保健サービスでイングランド地域を管轄するNHS Englandが、医療サービス向けの新データ基盤を構築している。この計画に英国市民団体が“待った”をかけたという。なぜなのか。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ホワイトペーパーランキング

2025/05/11 UPDATE

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。