ECの新潮流である「ヘッドレスコマース」が拡大している。新型コロナウイルス感染症の流行という非常時に、その真価を生かした2社の取り組みを紹介する。
EC(Eコマース:電子商取引)サイト構築に当たり、顧客接点となるフロントシステムとカートや顧客管理などバックエンドバックエンドのシステムを分離させる「ヘッドレスコマース」の手法が拡大している。ヘッドレスコマースシステムは、Webサイトやモバイルアプリケーションなど多岐にわたるUI(ユーザーインタフェース)をモジュールに分割することで、各モジュールをマーケティング担当者が更新できるようにしている。
コンテンツや製品を自由に選択できるようにするためにヘッドレスコマースを選ぶ企業もある。ホームスクーリング(家庭学習)のカリキュラムを提供するThe Good and the Beautifulがその好例だ。同社は、2015年から1ShoppingCart.comが提供するECサイト構築ツール「1ShoppingCart」を利用していたが、2019年にBigCommerceの同名ツールに切り替えている。
この決断は結果として先見の明があった。
The Good and the Beautifulの最高総務責任者を務めるアシュレイ・ニールセン氏によれば、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大局面で家庭学習のニーズが増大し、同社の顧客基盤は数十万人に膨れ上がった。同社の倉庫にあった書籍は即座に完売した。そこで取り寄せ注文中の書籍を待つ新規顧客にオンラインコースを数週間無料で提供するサービスを立ち上げることにした。短期間でそれが実現できたのは、BigCommerceでヘッドレスコマース環境が整っていたおかげだという。
「売り上げが天井知らずで伸びただけでなく、新しい顧客が押し寄せたことで、カスタマーサポートも限度を超えて増えた」とニールセン氏は振り返る。The Good and the Beautifulはその年の残りの期間で、そうした家族の子どもたちが学習できるようにする優れた方法を模索していた。「ヘッドレスコマース環境があったことは本当に役立った。他のどの環境を使用していても恐らく不可能だったことを顧客に提供できた」(同氏)
調味料メーカーSpiceologyは、グルメ愛好家とバーベキュー愛好家という、インターネットカルチャーにおける2大勢力の顧客を抱えている。これらの市場は競争が激しい。その中で、いかにして検索結果ページで上位を占めるかが課題になっていた。ヘッドレスコマースは同社が目立つ存在になる上で大いに役立った。
シェフが経営するSpiceologyは、パンデミック前には主にレストラン市場と卸売業者に商品を提供していた。シェフの「隠し味」となるスパイスやミートラブ(肉用のスパイスミックス)を販売するだけで、それなりにビジネスは成り立っていた。だがパンデミックによって状況が一変した。公的な規制措置によりレストランが休業になったためだ。
2020年秋にD2C(消費者向けの直販)サイトを立ち上げるに当たって、ヘッドレスコマースが解決策となった。Spiceologyは、同社のECシステムをShopifyのテンプレートベースのシステムから、BigCommerceに移行した。BigCommerceはWordPress Foundationの「WordPress」をフロントエンドとして使用する。
SpiceologyでEC部門のシニアディレクターを務めるタイラー・ボッツ氏は、顧客の体験をどれだけカスタマイズできるかという点で「行き詰まりを感じていた」と語る。従来のシステムは「製品の管理方法やデータの再整理、分析方法における柔軟性がそれほど高くなかった」とボッツ氏は明かす。
同社の商品の選択肢は300種類を超える。パンデミック前の顧客の大半を構成していたレストランのシェフであれば「自分が何をしようとしていて、何を必要としているのかをある程度分かっていた」とボッツ氏は説明する。だが一般消費者が相手となると、そうはいかない。一人一人にふさわしいコンテンツをパーソナライズして用意し、顧客を導き、サポートしなければならない。そのためにはWebサイト体験の刷新がどうしても必要だった。
家庭での料理の作り手がパンデミック中にキッチンに再び興味を持つようになったという変化もあって、2021年におけるSpiceologyのECページへの閲覧数は大幅に増えた。「2020年のピークを越え、さらに上昇を続けている」とボッツ氏は説明する。
閲覧数は「今後もまだ上がり続ける」とボッツ氏はみる。レストランが開くようになってシェフからの注文が戻ったためだ。こうした状況は、Spiceologyがユーザーにとって役立つWebサイトを迅速に用意したことと関係があると同氏は考えている。「アクセスすれば必要なコンテンツにたどり着けるWebサイトなら、ユーザーは何度でも訪れてくれる」(同氏)
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