ヒースロー空港が「Oracle Cloud」と「Azure」を併用 どう使い分けているのか「OCI」「Azure」でクラウド移行を進めるヒースロー空港

英国のヒースロー空港は「Oracle Cloud Applications」「Microsoft Azure」という複数のクラウドサービスを併用している。どのようなサービスを、どのような目的で利用しているのか。元CIOに話を聞いた。

2022年04月04日 10時00分 公開
[Brian McKennaTechTarget]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)からの回復を目指して、英国のHeathrow Airport(ヒースロー空港)はOracleのSaaS(Software as a Service)「Oracle Cloud Applications」を活用している。Oracle Cloud Applicationsは、ERP(統合業務)パッケージやHCM(人材管理)パッケージを含んだ業務アプリケーションスイートだ。

 Oracle Cloud Applicationsの導入について、ヒースロー空港は「75年の歴史の中で、最大のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ」と称している。同空港へのOracle Cloud Applicationsの導入は、システムインテグレーターのCapgeminiとOracle Consultingが担当した。

 ヒースロー空港は、同空港を利用する乗客数を8000万人に戻すことを目指している。COVID-19のパンデミックが起きる前の2019年に記録した数字だ。

 「乗客に世界最高の体験をもたらすことを熱望し、目標としている」。2016年、当時のヒースロー空港の最高情報責任者(CIO)、スチュワード・ビレル氏はこう話していた。同空港は欧州では既に有数の利用者数を誇る。「これ以上の体験をもたらすには、ITをスマートに利用して、乗客の体験を上げるしかない」とビレル氏は強調する。具体的には、同空港は業務自動化や航空会社とのデータ連携、航空券発券のデジタル化などの施策に取り組んでいる最中だ。

「Oracle Cloud」「Microsoft Azure」を併用するヒースロー空港

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 ヒースロー空港は2016年当時にクラウドサービス移行計画を立て、MicrosoftのSaaS形式のオフィススイート「Microsoft 365」を導入した。2018年には、数千人のスタッフを分析するために、Microsoftのビジネスインテリジェンス(アプリケーション)「Power BI」をIaaS(Infrastructure as a Service)「Microsoft Azure」で稼働開始した。

 バックエンドにはMicrosoftのビッグデータ分析サービス「Data Lake Analytics」とストリーミングデータ処理サービス「Azure Stream Analytics」、データベースサービス「Azure SQL Database」を利用する。これらのサービスを利用して、フライトの動きや乗客の乗り換え、セキュリティゲートの待ち行列、出入国管理の待ち行列などに関するリアルタイムデータ処理と分析を実施している。

 ビレル氏は現在も航空業界にとどまっており、2020年にデータおよび情報の最高責任者として、英国の航空会社であるeasyJet Airlineに入社した。

ヒースロー空港が使うOracleのクラウドサービスは

 ヒースロー空港はOracleのOracle Cloud ApplicationsとIaaSの「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を全社的に導入した。ERPパッケージの「Oracle Fusion Cloud ERP」、人材管理(HCM)パッケージの「Oracle Fusion Cloud Human Capital Management」、データ連携の「Oracle Integration Cloud」、請求管理の「Oracle Revenue Management and Billing」(Oracle BRM)などを含んでいる。Oracle BRMを選択したのは、同空港と他の航空会社との間で実施する、大量の請求業務を効率化するためだ。ヒースロー空港は、Oracle Cloud Applicationsを導入する前から既にOracle製品のユーザー企業だった。

 「パンデミックにより、人事編成や意思決定、職員のリモートワークの方法を根本的に見直さなければならなかった」。ヒースロー空港でDX計画担当ディレクターを務めるスティーブン・ウィリアムズ氏は、こう述べる。

 航空業界はパンデミックの深刻な影響を受けている。ウィリアムズ氏によると、取締役会と経営陣、そして空港の全職員がDX計画に結集した。「パンデミックに応じたデジタル化を進めることで、業務の速度と効率を、パンデミックが起きる前の2倍に高めることを可能にした」(同氏)

 OracleでアプリケーションのEMEA(Europe, the Middle East and Africa)担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるコーマック・ワッターズ氏は次のように話す。「COVID-19が拡大してからは旅行業界全体にとって困難な時期だった。しかしイノベーションを止めないことが重要だ」

 ヒースロー空港のクラウドサービス移行は「重要な取り組みだ」と、Capgeminiでアカウントディレクターを務めるスティーブ・ボールドウィン氏は話す。「航空業界が大きな変化を迎える時期に、このように大規模なIT資産を最新化できたことは、Capgeminiとヒースロー空港の間に築かれた強力なパートナーシップの証しだ」(ボールドウィン氏)

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