AI利用の「法規制」まとめ 米国やEUで検討進むAIを味方に付けるための視点【後編】

AI技術を脅威ではなく「利益をもたらす存在」と見なし、共存する社会を構築するために必要な取り組みの一つが法整備だ。米国やEUにおける法整備の動向を整理する。

2023年11月12日 10時00分 公開
[Ben LutkevichITmedia]

 AI(人工知能)技術の利用に関して、AI技術の専門家やIT業界のリーダーたちが法整備を求めている。米国では連邦政府としての法規制の枠組み作りは途上にあり、州や市レベルでは法案が可決されている地域もある。カリフォルニア州、イリノイ州、テキサス州、コロラド州を含む複数の州では、AI技術が及ぼす被害から消費者を守ることに焦点を当てた法案が可決、もしくは導入された。ニューヨーク市で施行した法律や、主要ITベンダーが立ち上げた取り組みなどを含めて、AI利用の規制に関する状況をまとめる。

AI関連の法整備の動向

会員登録(無料)が必要です

 ニューヨーク市は、AI技術の規制に関する法律「Local Law 144」を2023年7月5日(現地時間、以下同じ)に施行した。この法律は、「自動雇用決定ツール」(AEDT)を使う企業に対して、ツールを使用する前1年以内に性別や人種に関する監査を独立した機関から受け、監査の結果を公表することを義務付けている。 AEDTは、従業員の昇進や雇用を決定する過程にAI技術を取り入れるツールだ。

 GoogleやMicrosoft、OpenAI、AnthropicといったAI関連の企業は2023年7月26日、業界団体「Frontier Model Forum」(FMF)を立ち上げたと発表した。 FMFの活動は以下を目的にする。

  • AI技術の安全性に関する研究の推進
  • AI技術開発におけるベストプラクティスの特定
  • 社会課題の解決に貢献するソフトウェアの開発

 Amazon.com、Meta Platforms、Google、Microsoft、OpenAI、Anthropic、Inflection AIの7社は2023年7月21日、米国のジョー・バイデン大統領と会談。“責任あるAI技術の開発”に向けた自主的な約束を7社が表明した。具体的なアクションは、開発したツールをリリースする前に第三者機関の試験を受けることや、AI技術が生成したコンテンツであることをユーザーが認識するための仕組みを開発することなどだ。

 2023年6月14日、欧州連合(EU)の欧州議会においてAI技術を包括的に規制する「Artificial Intelligence Act」(AI Act)が採択された。EU理事会ではEU諸国との間で調整が始まり、早ければ2023年中には合意に達する見通しだ。

 米連邦議会がAI Actと同程度の規制法を可決する可能性は低い。2023年6月21日、米連邦議会上院のチャック・シューマー院内総務は戦略国際問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studies)でスピーチを実施。包括的にAI技術を規制する法整備に関する計画「SAFE Innovation Framework」(安全なイノベーションの枠組み)を発表し、法案策定には数カ月かかる可能性があると説明した。同氏は、規制法が労働者の保護、国家安全保障、著作権や知的財産権、終末シナリオの抑止に重点を置くべきものだと強調した。

 2023年10月30日には、バイデン大統領がAI技術に関する大統領令を発令した。この大統領令は、国民のプライバシーの保護、AI技術を教育現場で活用する教育者の支援、公平性と市民権の推進、労働者の保護など8つの項目で構成されている。

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

事例 ServiceNow Japan合同会社

17万人が利用するシステムを刷新、NTTグループの決裁プロセス改革術

CXとEXの双方の高度化を実現すべく変革に挑み続けるNTTグループ。「自らのDX」を進める第一弾としてグループ社員17万人が利用する決裁システムを刷新し、大きな成果を挙げている。同社の取り組みを詳しく紹介する。

製品資料 株式会社マヒト

自社印刷の課題を一掃、高品質な名刺を低価格で作成できる印刷サービスとは?

名刺の自社印刷を行う企業は多いが、デザインやデータ管理など工数は意外に多い上、仕上がりに不満が残るケースが少なくない。こうした問題の解決に有効なのが、発注作業を効率化し、高品質な名刺を低価格で作成するサービスだ。

製品資料 株式会社マヒト

名刺の発注業務を効率化しながら、請求書の管理を楽にする方法とは?

名刺の発注業務は意外と手間のかかる作業だ。社員が個別で発注していたり、拠点ごとに発注していたりする場合は請求書の管理も負担が大きくなる。そこで既存のフローは変えずに、効率的に名刺発注の管理ができるサービスを紹介する。

製品資料 株式会社インフォマート

国税OBが解説、令和7年度の税制改正をにらんだ「経理業務DX」の要点

令和7年度の与党税制改正大綱では最重要課題として、成長対策が強調された。特に、所得税や法人税などに関する6つのトピックスも見逃せない。これらを基に、企業が経理業務DXに取り組む上で押さえておきたいポイントについて解説する。

市場調査・トレンド 株式会社インフォマート

調査レポート:インボイス制度開始でどう変わった? 請求書業務の現状と課題

インボイス制度開始後の業務変化についてアンケート調査を実施した。結果から、請求書業務の電子化が進んだ一方、多くの現場で業務負荷の低減を実感できていない現状が見えてきた。現場が直面する具体的な課題と、その解決策を紹介する。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。