コアネットワークまでを5Gで構成する「5G SA」は、限られた通信事業者しか提供していない。5Gの利点を引き出しやすくなる5G SAの導入が進まない理由とは。
2023年現在の「5G」(第5世代移動通信システム)は、コアネットワークに「4G」(第4世代移動通信システム)を利用した「NSA」(ノンスタンドアロン)方式が主流だ。5G NSAは4Gに比べて性能が改善されているものの、興奮するものではない。
調査会社Technology Business Researchのプリンシパルアナリスト、クリス・アントリッツ氏はNSAを「ばんそうこう」に例える。既存の4Gインフラを使って5Gを運用しているためだ。「世界の通信事業者で、5Gの設備だけで構成する「SA」(スタンドアロン)を展開している事業者はわずか20%という推計がある」とアントリッツ氏は説明する。なぜ5G SAの導入は進んでいないのか。
5G SAは5G NSAに比べて以下のメリットがある
アントリッツ氏は上記のメリットと5G SAに必要な設備投資の費用を比べて、「通信事業者からすれば、投資対効果(ROI)を得られない」と分析する。同氏によれば、5G技術は複雑で、5Gに精通した専門人材が限られている。そのため、通信事業者が数十億ドルの投資を継続しても、5G SAや、24GHz帯以上を指す「ミリ波帯」を利用した5Gを適切に導入し、運用できるとは限らないという。
5Gには有望なユースケースが幾つもある。ただしV2V(Vehicle to Vehicle:車両間)通信や、拡張現実(AR)を利用したメタバースのネットワークなど、ベンダーがうたっているユースケースの幾つかは実現に時間がかかるだろう。
5Gの次の世代である「6G」(第6世代移動通信システム)の登場に期待する声もある。だが、5Gが抱える課題を考えると、通信事業者はまだ6Gの準備ができていないはずだ。
現実的なシナリオとしては、移動体通信システムの標準化団体「3rd Generation Partnership Project」(3GPP)が仕様の検討に取り組んでいる5Gの次期仕様「5G-Advanced」が6Gとして売り込まれるだろう、とアントリッツ氏は予測する。
アントリッツ氏によれば、5Gは現在、専門家が事前に想定した開発サイクルより2〜3年遅れているという。しかし、2020年代のうちに、企業は5Gと他の技術を組み合わせて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を推進するようになる。
例えば機械学習をはじめとしたAI(人工知能)技術は企業が5G利用時の電力消費を抑えるのに役立つ。データの発生源であるデバイスの近く(エッジ)でデータを処理する「エッジコンピューティング」は、5Gと組み合わせることでシステム運用のコスト削減やデータ処理の効率化に貢献する。「企業は5Gだけでなく、エッジコンピューティングやAI技術などを共に使ってDXを推進するだろう」とアントリッツ氏は語る。
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