あの時クラウド移行した企業を苦しめる「値上げだけじゃないコスト」の正体ベンダーは値上げを継続【前編】

政府やITベンダーの調査を分析すると、クラウドサービスの値上げはしばらく継続する可能性がある。ただし、企業がコスト増に悩む理由はベンダーの値上げだけではない。

2024年03月29日 08時30分 公開
[John MooreTechTarget]

 クラウドサービス料金の値上げは2024年も続く可能性がある。米国政府が発表した2024年2月の生産者物価指数(PPI)では、「データ処理と関連サービス」(クラウドコンピューティングを含むカテゴリー)は前月比で0.6%増となっている。前年同月比では3.7%増だ。PPIは2022年9月以降、クラウドサービスの値上げが続いていることを示している。

 クラウドサービスの支出最適化ツールを提供するVertice Technologyによれば、クラウドサービスの中でもSaaS(Software as a Service)の価格上昇が目立っている。Vertice Technologyの創業者でCEOのエルダー・ツビー氏は、2024年1〜3月期の観測で、SaaSの価格が1年間で10.6%上昇する見通しを示した。

 一方で、コンサルティング会社Deloitte Consultingの最高クラウド戦略責任者デビッド・リンシカム氏は、クラウドサービスの値上げはSaaS分野に限ったことではなく、市場全体で進んでいるとの見解を示す。だが、企業がコスト増に苦しんでいる理由は、ベンダーの料金設定だけが原因ではない。

なぜ“あの時期”にクラウド移行した企業ほどコストに苦しむのか?

 「企業はクラウドサービスしか利用しない『クラウドオンリー』の方針によって自分の首を締めている」とリンシカム氏は指摘する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)中にクラウドオンリーに引かれた企業は珍しくない。そうした企業はクラウド移行を急ピッチで進めたという。

 ほとんどの企業は、クラウドサービスへの移行によってコストが下がると考える。だがリンシカム氏は、「企業は既存のアプリケーションやOSをそのままクラウドサービスに移す『リフト&シフト』によって最良の結果を得られると期待したが、それは捕らぬたぬきの皮算用(まだ手に入れていないものを当てにして計画を立てること)だった」と話す。

 オンプレミスで稼働しているアプリケーションが、必ずしもクラウドサービスで効率的に稼働するとは限らない。この事実を失念してクラウド移行を進めるとコストの増加につながる。「どの社内IT資産がクラウド移行によって恩恵を受けるかの徹底的な分析を怠っていた企業もある」(リンシカム氏)

 リンシカム氏は続ける。「自社で設備を所有するオンプレミスインフラやコロケーション(データセンターの場所貸しサービス)など、クラウドサービス以外のインフラも考慮した、バランスの取れたアプローチは、クラウドサービスのコストを抑えるのに役立つ」

 アプリケーションの移行には想像以上にコストがかかる可能性がある。調査会社Gartnerは、オンプレミスのレガシーアプリケーションをクラウドサービスに移行することには、「技術的な障壁が付きまとう」と警告する。レガシーアプリケーションの中には、クラウド移行の際にエミュレーター(アプリケーションの実行環境を疑似的に再現するツール)やコードトランスレーター(別のプログラミング言語への変換ツール)が必要になるものがある。リンシカム氏によれば、メインフレームで稼働しているアプリケーションをクラウドサービスで稼働させると、約10倍のコストがかかる可能性もあるという。

 ツビー氏は、クラウドサービスの値上げが続けば、SaaSのユーザー企業の間で、より安価な選択肢に乗り換える動きに火が付く可能性があると分析する。


 後編ではストレージの価格変化とその背景について解説する。

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