GoogleがサードパーティーCookieの廃止を再延期した。代替策に移行するまでの猶予は2025年まで引き延ばされることになるが、それまでにマーケターや広告主はある点を理解しておかなければならない。
GoogleはWebブラウザ「Chrome」での「サードパーティーCookieの廃止」について、3回目の延期を2024年4月に発表した。サードパーティーCookieは、エンドユーザーがアクセスしたWebサイトとは異なるドメインが発行したCookieだ。
サードパーティーCookieを活用しているマーケターや広告主にとっては2025年まで猶予が生まれたことになる一方で、専門家は「4度目の延期は起こらない」と考える。それまでにマーケターや広告主は、代替策の現実についての“ある誤解”を解消しておく必要がある。
GoogleによるサードパーティーCookie廃止の取り組みは2024年1月に始まっており、Chromeユーザーの1%を対象に「Tracking Protection」(トラッキング保護)措置を導入し、サードパーティーCookieの利用を制限していた。Tracking Protectionは、WebサイトがサードパーティーCookieを使用してChromeユーザーの閲覧履歴を追跡することを制限する機能だ。同社は当初、2024年末までに全ユーザーのサードパーティーCookieを無効にする計画だった。
この計画の背景には、英国競争市場庁(CMA)の懸念を払拭する狙いがある。CMAは、Googleの広告配信サービス「Google広告」が競争上の優位性を不当に得ているのではないかと懸念している。サードパーティーCookieを廃止することで、こうした懸念に対処しようというのが同社の狙いだ。
しかしGoogleは、サードパーティーCookieの代替手段となる「Privacy Sandbox」の導入について、自ら定めた期限に間に合わないことを認めた。Privacy Sandboxは、Googleが開発中のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)群だ。英国の広告主はPrivacy Sandboxを試験的に導入しており、2024年6月末までにCMAにフィードバックを提出し、英国のWeb広告市場にどのような影響を及ぼすのかを分析することを計画している。Googleもこのテストへの資金提供に同意済みだ。
GoogleはCMAに提出したPrivacy Sandboxの進展報告書で次のように説明した。「われわれは引き続きCMAおよびICO(英国データ保護機関)と連携することに尽力しており、年内に完了させたいと考えている。合意に達することができれば、2025年初めからサードパーティーCookieの廃止を進める」
Privacy Sandboxは、Chromeユーザーのプライバシーを保護するとともに、AI(人工知能)技術を活用し、ターゲットを細かく絞りつつ匿名化したデータを広告主に提供する。これまでのところ、幾つかのソーシャルメディアが採用している匿名化の技術と同様のものだと考えられている。
調査会社Constellation Researchでアナリストを務めるリズ・ミラー氏によると、近年、一部のマーケターはサードパーティーCookieの利用をやめ、ファーストパーティーデータの収集に重点を置いている。
一方で広告主はそこまでは進んでおらず、サードパーティーCookie廃止への準備ができていない場合もある。Chromeでのターゲットのセグメント条件が細かいほど、広告主がPrivacy Sandboxへの移行で受ける影響は大きい。
プログラマティック広告(自動化された広告配信)やハイパーターゲティング広告(ターゲットを細かく絞り込んだ広告)に注力している企業は、Privacy Sandboxへの移行の影響を恐れているとミラー氏は指摘する。そうした企業は例えば、単なる「シャルドネママ」(ワイン好きのスポーツママ)ではなく、「髪色がブルネットのシャルドネママ」をターゲットにしている。
GoogleはサードパーティーCookieの廃止を3度延期したが、いずれ廃止するとミラー氏は見込んでいる。「Googleがいつまでも延期し続けることはない。Googleはこの計画を完了させたがっている」と同氏は話す。
Googleは、英国CMAの主張と世界のプライバシー保護規制当局の主張の対立に翻弄されている。前者の主張は、サードパーティーCookieを廃止すれば、Google広告の市場支配力が強固になるという意見。後者の主張は、サードパーティーCookieは消費者の権利を侵害するものであり、権利がない広告主に代わって個人データを収集して販売するものだという意見だ。
広告主とパブリッシャーのコンソーシアムであるインターネット広告業界団体IAB(Interactive Advertising Bureau)も、GoogleのPrivacy Sandboxを批判した。IABは、Privacy Sandboxはコスト面では優れているものの、機能が不十分だと主張している。特に、クロスデバイスの属性設定やサポートの不足を指摘している。クロスデバイスとは、同じ個人がスマートフォンからノートPCなどのようにデバイスを変えてもWebサイト閲覧行動を引き継げる機能のことだ。
プログラマティック広告の運用を支援するMiQでグローバル戦略とパートナーシップの責任者を務めるジョージアナ・ヘイグ氏は、IABのGoogle批判には「厳しい」ところもあるが、行動を促すことが目的なのではないかと指摘する。
GoogleがサードパーティーCookie廃止を延期したことで、広告主は2024年の終盤に急いで対処を講じる必要がなくなり、繁忙期を乗り切ることができるようになった。廃止が2025年初めになれば、年末年始という商戦期の後に対処できるため、比較的余裕を持つことができる。
「サードパーティーCookieの利用をやめ、Privacy Sandboxに切り替えるコストは不明だ」とヘイグ氏は述べる。だが、MiQが手掛けるさまざまな広告キャンペーンにとって、Googleの検索エンジンが重要な広告配信の場であることは変わりない。MiQの顧客企業は2025年からPrivacy Sandboxを使うことを想定してテストを進めている。
サードパーティーCookieを採用しているユーザー企業にとって重要なのは、Privacy SandboxはサードパーティーCookieの直接的な代替機能ではないと理解することだ。Privacy Sandboxはそのような意図で作られてはいない。
「広告主は、Privacy Sandboxの一部がサードパーティーCookieより意図的に制限を厳しくして作られている点を見過ごしがちだ」とヘイグ氏は指摘する。Googleは、Privacy Sandboxがこれまでのように複数のWebサイトをまたいで閲覧者の行動を追うことを想定していない。「広告主はこのことを受け入れていくことになる。テストに使える時間が増えた今、重要なのは、機能の違いを可能な限り理解することだ」(同氏)
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