企業では今、どのようなクラウドプロジェクトが進行中なのだろうか。企業のIT部門に話を聞いたところ、多くのCIOが「Office 365」への移行を挙げた。ハイブリッドクラウドを目指す企業も増えつつある。
ユーザー企業各社が2015年のクラウドプロジェクトを本格的にスタートさせている。米TechTargetが各社に2015年の計画について尋ねてみたところ、突出して多かったのが米Microsoftのクラウド版Office「Microsoft Office 365」への移行を挙げた最高情報責任者(CIO)だった。規模の大小を問わず、多くの企業がOffice 365への移行を計画している。
米調査会社Gartnerで企業向けのコラボレーションとソーシャルソフトウェアを担当する調査ディレクター、ラリー・カネル氏はメールで次のように語る。「顧客の間では、Office 365への関心が高まっている。Microsoftは5年以上前からOfficeサーバ製品のクラウド版を提供しているが、Office 365を業務アプリ戦略の最大の柱にしてきたのはつい最近のことだ」
この戦略は実を結びつつあるようだ。Microsoftの2015年第2四半期(2014年10〜12月期)決算では、Office 365の他、「Microsoft Azure」や「Microsoft Dynamics」といったクラウドサービスの好調を背景に、クラウド事業の売上高が前年同期比114%増となった。米Dellなどのパートナー企業は、米IBMの「Lotus Notes」からOffice 365への移行をサポートしている。
「Office 365の導入は多くのCIOにとって企業文化の転換を意味する」と、カネル氏は指摘する。つい2年前には、Officeのクラウド版はまだ普及しておらず、CIOはMicrosoftが3年ごとにリリースするOfficeの新版にだけ注意を払っていればよかった。「Office 365では、Microsoftは継続的に新機能を追加できる。Office 365の登場によって、Officeの変化のペースは目に見えて変わった。これがどれだけ大きな変化であり、この変化が自分たちにとって何を意味するのかを、CIOやIT管理者はようやく理解し始めたところだ」と、カネル氏は語る。
話を聞いたところでは、CIOはOffice 365の中でも特に「Outlook」に一番の関心を寄せているようだ。管理者はこのクラウドベースのメールプラットフォームを使って、ライセンスの使用状況を監視したり、適切なセキュリティプロトコルが使われているかを確認したりできる。さらにCIOは、Office 365のコスト効率の高さにも魅力を感じている。グループウェア製品「Microsoft SharePoint」など他のオンプレミスも合わせてクラウドに移行すれば、最終的にはデータセンターを縮小することも可能だ。
Office 365への移行の他に、ハイブリッドクラウドを目指す動きも活発化している。「パブリッククラウドのスピード感とスケーラビリティを享受する一方で、セキュリティとプライバシーの懸念を軽減できるソリューション」として注目度が高まっているようだ。米ミシガン州の最高技術責任者(CTO)ロッド・ダベンポート氏が取材に応じて語ったところによれば、同州はパブリックとプライベートとハイブリッド、全てのクラウドモデルを活用し、2018年までにデータの85%をクラウドで管理する計画という。
2015年のクラウドプロジェクトに関して、CIOやCTOから聞いた話を紹介する。
「当市の最大のクラウドプロジェクトは、メールと業務パッケージのクラウド移行だ。年明け早々にOffice 365への移行計画をスタートさせ、その後、SharePointのオンライン化プロジェクトにも着手した。オンプレミスのSharePoint環境を完全にクラウド化し、完全にSaaS(Software as a Service)に移行する計画だ。現在、SharePointは市庁舎のデータセンター内で構築している。メールインフラとSharePointのインフラをクラウドで統合すれば、既存のインフラは基本的には全て不要となり、いずれは閉鎖することも可能だ」
「クラウドを使い、Office 365に移行することを計画している。実は、2015年に入り、これまで使っていたクラウドベースのシステムをローカルシステムに戻した。米FusionStormのクラウドサービスをローカルのディザスタリカバリ(DR)サイトに移行したのだ。パフォーマンスに不満があったからではなく、コストのためだ。オフサイトの物理的設備を使う方が、より良い価格を交渉できた。コスト効率を改善できるアプリケーションについては、今後もクラウドへの移行を検討していく」
「オークランド郡は現在、主に2つの異なる領域にクラウドを使用している。1つはインフラだ。現在、クラウドとオンプレミスのデータセンターインフラを専門とするワシントンD.C.のフルサービスソリューションプロバイダー、米Blue River Information Technologyを利用して、米Amazon Web Servicesのクラウドに幾つか外部環境を置いている。SharePoint環境もその1つだ。「Amazon Web Services」に構築したSharePoint環境でWebサイトをホストし、SharePointをWebサイトのコンテンツ管理システムとして使っている。この選択肢は比較的低コストなだけでなく機能性も高い。われわれは現在、オークランド郡のメインサイトも含め、外部向けのWebサイトを全てクラウドに移行する作業の最終段階にいる」
「長期的には、他にどのような要素がクラウドに適しているのかをしっかり見極めたいと考えている。そこで、クラウド化できる要素について調べてみたところ、現在使用中のアプリケーションの約3割はクラウド環境で利用できそうなことが分かった。目下、そうしたアプリケーションについて検討中だ。市場にはタイムマネジメントシステムや、“Cybersecurity as a Service”(サイバーセキュリティサービス)などもある。こうしたサービスは恐らく、政府機関や企業にとって大きな分野となるはずだ。セキュリティツールを所有しなくても、自分の環境でいつでも使用できるというのは素晴らしいことだ。今後、こうしたアプリケーションを全て検討していくつもりだ」
「ミシガン州は2014年9月、デジタル化戦略『Michigan Digital Strategy』の一環として、クラウドを優先的に検討するクラウドファースト戦略を立ち上げた。2018年までに州のデータの85%をクラウドで保守することを目指している。この目標を達成すべく、パブリック、プライベート、ハイブリッドのクラウドモデルを導入し、必要なセキュリティとともにデータへの適切なアクセスと可用性をできる限り最善のコストで提供していきたい」
「ミシガン州はプライベートクラウド『Next Generation Digital Infrastructure(NextGen)』を構築中だ。ミッションクリティカルな機密情報が関わるアプリケーションやデータについては、NextGenのセキュアなプラットフォームでホストしている。NextGenでは、最先端のネットワークバックボーンから、高度な計算処理能力、堅牢なストレージ能力まで、ベストオブブリード型の技術を費用対効果の高い方法で実現できる。2015年の目標は、規模と性能の両面で引き続きNextGenを成長させていくことだ。目下、スピードとアジリティ(俊敏性)に対する利用者の要求に応えられるよう、クラウドの管理と導入の自動化に注力している」
「2015年もそれ以降も、ミシガン州はクラウド管理能力の強化を図り、あらゆるクラウドモデル、特にハイブリッドクラウドを活用していきたい。ハイブリッドクラウドはいわば、パブリッククラウドとプライベートクラウドのいいとこ取りだ。基幹システムの他、セキュリティ要件上あるいは単なる安心感からデータセンターでの運用の方が適していると思えるシステムについては、保守や管理を自分たちで行える場所に置けばいい。だがセキュリティとアップタイムの要件がそれほど厳しくないアプリケーションについては、どこか他の場所でホストする方が費用対効果が高い。われわれIT担当者は今後、“クラウドの最高責任者”として、どのアプリケーションをプライベートクラウドでホストし、どのアプリケーションをどの事業者にホストしてもらうのが最善かを、バランスを見ながら調整していくことになるだろう」
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