Microsoft、HPE、IBMが注力 「スパコン」などのHPC市場が盛り上がる理由急成長するHPC市場とAIの関係

Microsoftが新しいスーパーコンピュータ(スパコン)を発表するなど、HPC市場の動きが活発化している。ベンダー各社がHPC市場に注力する理由は何か。Microsoftのスパコンの情報と併せて解説する。

2020年06月30日 08時30分 公開
[Ed ScannellTechTarget]

 Microsoftは、大規模な機械学習に特化した新しいスーパーコンピュータを発表した。人工知能(AI)技術の研究団体OpenAIと共同開発する。クラウドサービス群「Microsoft Azure」のAI関連サービスを介して、スーパーコンピュータのリソースを使用できるようにする。

HPC市場活発化の理由

 ソースコード共有サービス「GitHub」を介して、機械学習の最適化ツールも提供する。これらのツールを用意することで、同社の全社的な方針である「AI at Scale」(大規模AI)に基づいたサービスを、開発者やデータサイエンティストなど、企業内のエンドユーザーに提供しやすくなる。

 AI at Scaleの一環として、Microsoftの研究グループ「Project Turing」が開発した独自の学習済みモデルは、同社の検索エンジン「Bing」やオフィススイートの「Microsoft Office」、業務用アプリケーション群「Dynamics 365」などの製品で言語処理能力の向上に使用している。同社は2020年2月には、自然言語処理の学習済みモデル「Turing Natural Language Generation」(T-NLG)を一般公開している。

 スーパーコンピュータをはじめとする「HPC」(高性能計算)に関する取り組みを強めている大手ベンダーは、Microsoftだけではない。

 2019年9月、Hewlett Packard Enterprise(HPE)はスーパーコンピュータ大手のCrayを約14億ドルで買収した。その目的は、スーパーコンピュータの高度な計算処理能力をユーザー企業が活用できるようにするとともに、HPEのAI市場における競争力を高めることにある。IBMも、スーパーコンピュータの「Summit」と「Sierra」でAI市場を狙っている。

 HPC分野のコンサルティング企業Hyperion Research HoldingsでHPC市場ダイナミクス担当シニアアドバイザーを務めるスティーブ・コンウェイ氏によると、大手ベンダーのHPC市場参入には大きく2つの要因があるという。一つはHPC市場が十分に拡大してきたこと、もう一つはAI関連技術の開発を加速させるには、スーパーコンピュータの計算能力が不可欠であることだ。

 「HPCはもはや小さな市場ではない」とコンウェイ氏は強調する。Hyperion Researchは、HPC市場が2024年までに460億ドル市場に成長すると予想している。「スーパーコンピュータはAIシステムや自動運転車、医薬品の開発になくてはならないものになりつつある」(同氏)

スーパーコンピュータの将来性

 Microsoftはスーパーコンピュータ事業の強化でAI関連技術の開発に弾みをつけたとしても、Googleなどの競合ベンダーに比べるとまだ後れを取っているという指摘もある。調査会社Communications Network Architectsのプレジデント、フランク・ズベック氏によると、Microsoftがライバル企業に追い付くための最善の策は、小規模なAIベンダーを買収することだという。「MicrosoftはHPCの関連企業を何社か買収したが、まだライバルを追う立場だ。前進はしつつあるものの、Googleなどの競合ベンダーのレベルには達していない」(ズベック氏)

 新興企業の活躍により、AI市場の勢力図は大きく変わっている最中だ。Microsoftはそうした新興企業の買収によって、AI市場における地位を高めるとズベック氏は予想する。

 Microsoftの新しいスーパーコンピュータは28万5000基のCPUコアと1万基のGPUで構成されている。Microsoftは、これが世界のスーパーコンピュータの性能ランキング「TOP500」リストの5位以内に入る性能だと述べている。ただしコンウェイ氏は、Microsoftのスーパーコンピュータの性能が、TOP500に入っているスーパーコンピュータと同じベンチマークを基準にしたものではなく、「5位以内に入る」という表現は誤解を招く恐れがあると指摘する。

 この新しいスーパーコンピュータの発表に加え、MicrosoftはProject Turingが開発した学習済みモデルをオープンソース化することも発表した。オープンソース化の対象には、同社の機械学習サービス「Azure Machine Learning」での機械学習の手順も含む。これらは同社が言語認識の向上に使用している。同社はオープンソースディープラーニング(深層学習)ライブラリ「DeepSpeed」の新バージョンも発表した。大規模な機械学習に必要なコンピューティング能力を最小限に抑えることができるという。

 Microsoftは学習済みモデルの標準フォーマットであるONNX(Open Neural Network Exchange)形式のランタイム(実行エンジン)「ONNX Runtime」で、複数のマシンによる分散型の機械学習を可能にすることも発表した。ONNX Runtimeは、ハードウェアやOSを横断した学習済みモデルの移植を可能にする。

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