「クラウドベンダーのHCI」が注目されない理由と、HCIベンダーが目指す未来「ハイパーコンバージドインフラ」の未来予測【後編】

クラウドベンダーも市場に参入するなど「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)は企業のデータセンターの今後を左右する存在になっている。HCIの重要性が今後さらに高まるのはなぜか。注目すべき動向を紹介する。

2021年01月08日 05時00分 公開
[John MooreTechTarget]

 Amazon Web Services(AWS)やMicrosoftなど、クラウドサービスを提供するベンダーも「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)の分野に参入している。こうしたベンダーは、HCI市場で確固たる地位を確立しているHCIベンダーに挑むことになる。

 主要なクラウドベンダーは「AWS Outposts」「Azure Stack HCI」などオンプレミスデータセンターに設置するHCIと同様のアプライアンスを提供しており、これらの製品は各ベンダーのクラウドサービスと連携する。「クラウドベンダーはさまざまな分野に割って入ることを望んでいる。HCIベンダーの既存シェアの一部を脅かすことになるだろう」。市場調査やコンサルティングを手掛けるEvaluator GroupでHCI分野のアナリストを務めるエリック・スラック氏はこう指摘する。

 クラウドサービスはリソースを使用した分だけ料金が発生し、場合によっては高額になることもある。AWS OutpostsやAzure Stack HCIも、ユーザー企業はクラウドサービスと同様に従量課金でこれらを利用する。一般的なオンプレミスデータセンター向けHCIとは異なる点だ。スラック氏は「AWS OutpostsやAzure Stack HCIはクラウドサービスに重心を移している企業にとっては魅力的な製品として映るだろう」と語り、さらに「そのような企業でもオンプレミスデータセンターにおけるアプリケーション運用の課題は残っている」と指摘する。

クラウドベンダーとHCIベンダーの思惑

 HCIベンダーに対してクラウドベンダーが優位に立てる範囲は限定的だ。システムインテグレーターのAHEADでソフトウェア定義データセンター(SDDC)のプリセールススペシャリストを務めるケン・ナルボーン氏は、「最新のアプリケーションを稼働する場所に関係なく運用したい企業にとって、AWS OutpostsとAzure Stack HCIは魅力的な製品になる。だが、従来型アプリケーションを運用するための最新型のインフラを望む企業が、これらの製品に引きつけられることはまれだろう」。クラウドサービスのようなインフラを使いたいのであれば、「HCIはリソースの拡張性があり運用管理が簡単なインフラ製品だ」と同氏は強調する。

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 「HCIとしてユーザー企業の多くが最初に目を向けるのは、クラウドベンダーのHCIではなく、HCIベンダーの製品であるのが実情だ」と、Logicalisでデータセンター分野のシニアディレクターを務めるブランドン・ハリス氏は語る。反対にクラウドベンダーのHCIが重要になるのは「企業がクラウドサービスからオンプレミスにクラウドネイティブなアプリケーションを移行したいと考えている場合」、つまりオンプレミス回帰(脱クラウド)を考えている場合だという。

 HCIベンダーのHCIも、クラウドベンダーのHCIも、企業のデータセンターで必要な役割を果たせる点は同じだ。だがAWS OutpostsやAzure Stack HCIは、従来型データセンターの後継または代替製品として位置付けられているわけではない。「AWS OutpostsとAzure Stack HCIは、クラウドネイティブのアプリケーションを運用する場合など、特定の用途に適切な製品だと考えている」と、システムインテグレーターであるWorld Wide Technologyでテクニカルソリューションアーキテクトを務めるジェフ・メルシエ氏は語る。

 ベンダー各社が従量課金の支払いモデルをHCI製品に適用する動きもある。ハリス氏は「企業にとっては設備投資ではなく運用経費としてインフラ製品を導入する方が容易な場合もある」と指摘。このような仕組みはHCIだけでなく「より広範囲で見られるようになるだろう」と説明する。

安定性と段階的なイノベーションをもたらすHCI

 HCIは成熟期を迎えている。イノベーション(技術革新)の余地はあるものの、段階的なものになる可能性が高い。HCI分野の変化は、今後数年の間に小さく緩やかに、継続的に進むとナルボーン氏はみる。「これは悪いことではない」というのが同氏の考えだ。「大きなリスクを負うことなく自社のインフラを最新にしたいと考える保守的な企業にとって朗報だ」と同氏は語る。

 ナルボーン氏は「HCIの採用は、企業が下す判断として妥当だ」と語る。HCIは製品として成熟しつつあり安定しているため、IT管理者は下記のようなメリットがあることを認識しているからだ。

  • リスクを抑制して新しい技術を自社のデータセンターに導入できる
  • リソースの追加に迅速に対処できる
  • 永続メモリや、サーバとストレージを個々に拡張可能な分離型HCIといった新しい技術の選択もできる

 データセンターのリソースを仮想化してサービスとして提供する「ソフトウェア定義データセンター」(SDDC)の重要性が高まることが、今後のHCIのトレンドに変化をもたらすことが考えられる。「HCIが成熟するほど、HCIベンダーはデータセンターの役割を部分的に担うことよりも全体設計をより重視するようになる」というのがメルシエ氏の考えだ。同氏によると、データセンター全体に一貫性のある運用管理性をもたらすメリットと、それを実現する製品ポートフォリオが、今後のHCIの差異化要素になる。

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