南極調査船が「テープ」を選んだ理由と、極寒の南極で「過熱」が問題になる理由南極調査船のストレージシステム【後編】

南極調査船は過酷な環境下で航行するため、船内で運用するストレージシステムも特別な要件を満たさなければならない。どのようなストレージシステムを採用し、どう運用するのか。

2021年04月20日 05時00分 公開
[Johnny YuTechTarget]

 前編「南極調査船の『内蔵ストレージシステム』とは? 大量の調査データを守り切る」に続き、英国南極観測局(BAS)の砕氷調査船「RRS Sir David Attenborough」が搭載するストレージシステムについて紹介する。過酷な自然環境にさらされ、外部へのネットワーク接続も難しい調査船のストレージシステムとは。

南極調査船がなぜ「テープ」を搭載するのか 「南極なのに冷房が不可欠」の訳は

 RRS Sir David Attenboroughの1回の調査航行は6〜8週間に及び、この間に収集する調査データの容量は約100TBになる。このデータだけではなく、前回や前々回の調査航海時のデータも保管しておくことが必要だ。

 BASでITエンジニアとして働くジェレミー・ロブスト氏は、こうしたデータのためのストレージとしては「コストや設置場所の要件からテープが適している」と話す。採用したテープライブラリは、1つのテープカートリッジに12TB(圧縮時には30TB)のデータを保存できるテープ規格「LTO-8」に準拠しており、高密度にデータを保存できる。

 テープには「持ち運びやすさという長所もある」とロブスト氏は指摘する。RRS Sir David Attenboroughのテープカートリッジのファイルシステムには、データをファイル単位で扱う「LTFS」(Linear Tape File System)を採用した。LTFS形式のデータは主なOSで標準的に読み取れる。「RRS Sir David Attenboroughがどこかの港に停泊する際、テープカートリッジをスーツケースに入れて英国のオフィスに空輸できる。同調査船はデータを引き渡すためだけに英国まで戻る手間を省ける」とロブスト氏は話す。

 大きな課題は、高い波浪や氷砕による船上の激しい動きだ。RRS Sir David Attenboroughのサーバラックは振動吸収材で覆われ、モニターはしっかりと固定するために船体の木製部分に直接取り付けられている。ストレージシステムの専有面積を広くは取れない要件もある。「テープライブラリは設置面積が小さく、テープカートリッジの搭載本数が多いほどボルトで固定しやすくなる。過酷な環境に対処する上でもテープライブラリは役に立つ」とロブスト氏は言う。

 南極の過酷な自然環境から遮断するために、BASはRRS Sir David Attenboroughのデータセンターを同調査船の奥深くに設け、海の塩分と湿気によってデバイスが故障するリスクを低減させている。ただしサーバルームに熱がこもる可能性があり、熱による問題が生じる懸念は払拭(ふっしょく)できない。「南極という極寒の地で、過熱を心配しなければならないことを考えてみてほしい。冷房を使用しなければならないのは、南極調査船のデータセンター運用に伴う皮肉だ」とロブスト氏は話す。

 BASはこれまでに「RRS Ernest Shackleton」と「RRS James Clark Ross」の2隻の調査船を運用してきた。これらの調査船でも同じようなストレージシステムを採用していたという。これらの調査船では、内蔵型ディスクストレージを備える1台のサーバにVMwareのハイパーバイザー「ESXi」を搭載し、このサーバにテープライブラリを接続していた。

 RRS Sir David Attenboroughのデータセンターには、BASが以前使用していた製品の技術進化を反映させている。ただしプライマリーストレージにHDD、バックアップにテープライブラリを使用し、これらのストレージを1台のサーバから接続する点は以前と変わらない。

 ロブスト氏によると、2021年11月のRRS Sir David Attenboroughの初航海では、科学研究者が同調査船搭載の各種調査ツールの使い方を学習するとともに、ロブスト氏が構築したストレージシステムも試す計画だという。

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