HDDの陰に隠れた次世代「HDS」 挫折を振り払って実用化へ「ホログラフィックデータストレージ」の挫折と未来【後編】

過去に商用化の成功例がない「ホログラフィックデータストレージ」(HSD)の研究をMicrosoftが進めている。既存の商用ストレージにはないメリットをもたらす、革新的なストレージは誕生するのか。

2022年02月24日 05時00分 公開
[Robert SheldonTechTarget]

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 「ホログラフィックデータストレージ」(HDS)は、記録媒体に立体的にデータを記録する光学ストレージだ。革新的な技術ではあるが、過去に商用化で成功した例はない。Microsoftは研究プロジェクト「Project HSD: Holographic Storage Device for the Cloud」(以下、Project HSD)で、HDSの実用化を目指している。その新しい仕組みについては中編「データを“立体保存”するストレージ『HDS』への期待 その新しい原理とは」で紹介した。

 このHDSのプロジェクトが成功すれば、HDDや過去のHDSのプロトタイプでは実現しなかったストレージが誕生する。この取り組みは成功するのか。

他のストレージにはない次世代「HDS」の革新性

 Project HSDでは、HDSの記録媒体に電気光学結晶を用いることで、データの書き込みと読み取りの並列実行が可能だ。その結果としてデータ読み書きにかかる時間が短縮する。この手法は他のストレージにはないメリットをもたらす。例えばデータの読み書きに使用する機械部品はHDDよりも少なく済む。このHDSでデータを読み書きするにはレーザー光線の角度を調整するだけでよく、他の部品は固定されたままであるため安定性が高まる。データの記録時は記録媒体の表面だけではなくその体積全体を使用するので、表面だけを使用する他の各種光学ストレージよりも表面積当たりの記録密度を高めることもできる。

 従来、HDSは利用頻度の低いデータの長期保存とWORM(Write Once Read Many:書き込み1回、読み込み複数回)の操作を重視していた。Project HSDは、そうしたデータよりも利用頻度の高い「ウォームデータ」の読み取りと書き込みに使用することを目標にしている。この点はクラウドベンダーにもユーザー企業にもメリットをもたらす。ウォームデータは重要なビジネスアプリケーションで頻繁に利用する「ホットデータ」に比べて利用頻度は高くない。ただし読み書き速度やデータ転送速度などのパフォーマンス要件を軽視できない。その要件は対象のアプリケーションによって異なる。それに加えて、ウォームデータのストレージには共通して高い拡張性が必要だ。HDSはこうした要件を満たせる可能性がある。

 HDSはコスト効率良く、特定のアプリケーションのニーズを満たすことを目指す。例えばデータウェアハウス(DWH)やビッグデータ分析、AI(人工知能)技術を使った予測分析などのアプリケーションに適合する可能性がある。こうした用途には高速なデータの読み取りや、データを書き込んだ後に更新できることが必要だ。コールセンター業務の週次報告や売り上げ集計など、定期的にレポートを生成する必要がある用途でもHDSのメリットを得やすい。

ホログラフィックストレージの実現は近づいているのか?

 こうしたさまざまな期待がHDSにかかる。ただし研究段階から商用化に至るまでにはまだ長い道のりがある。HDSの設計には高い精度が求められる。ストレージベンダーはそのための新しい仕組みを生み出さなければならない。

 Project HSDのHDSは書き込みと読み取りを並列で処理することを重視している。その処理を複数の記録領域において均一に実施することは簡単ではなく、それも商用化に向けた課題として残る。データは紫外線によって消去する手法を採用しているため、意図せず紫外線にさらされたときにデータが消去されないようにする対策も必要だ。

 過去の試みから商用化に成功した事例が出ていないことが示す通り、HDSの研究開発は簡単には進まない。Microsoftが商用化に関する明言を避けているのは驚きではない。

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